第32話
途中いくつかの駅に停まったりしながら約六時間、それなりに揺れる快適とは言い難い汽車の旅を終え、ついに終点王都プロテアへと汽車はたどり着いた。
「あ〜長かったー」
梯子を降りて、今まで閉じこもってた分目一杯体を伸ばし深呼吸する。
「うげ、気持ち悪ぃ」
「ちょっと戻さないでよ」
揺れる車内で本を読んでた愚か者が乗り物酔いでグロッキーになっている。戻されても困るのでとりあえず近くのベンチに座らせ背中をさすってやる。
「来て早々前途多難だな」
そんな僕たちのやりとりを見てカインが笑う。
仁が復活するのを待ってから乗降客や駅員なんかでごった返すホームを出る。バンクシア駅も広かったがプロテア駅はもっと広く、構内の表示をみる限りホームが十本以上あるようだ。
改札を出て、駅舎の外に出るとバンクシアの大通りより活気のありそうな道に出る。多くの地方から様々な人種が入り混じっているのだろうか、服装も見た目もてんでバラバラだ。
「さて、今日はもう四時だし試験場見学は明日にして宿に入っちまうか」
「ホテルってここから近いんですか?」
「ああ、ジンのやつの酔い覚ましにちょうどいいくらいだ」
そう言うカインに先導されてしばらく歩くと、思ったより近代的な大きい建物に辿り着いた。てっきり酒場の二階みたいな場所だと思ってが意外と立派なホテルだ。
ドアマンがいらっしゃいませと扉を開いてくれると豪華な内装とカウンターが見えてくる。カインが少し待っててくれとホテルマンに荷物を預け、カウンターで受付をしてくるとすぐに部屋へと案内される。
部屋に入ると広い室内にはテーブルとソファと三台のベッドが用意してあった。
「すまない、子供たちだけで一部屋はダメだから三人一部屋なんだ。我慢してくれ」
「全然構わないですよ、普段から仁と相部屋ですし」
それに体はともかく心は男同士なのだ、こちらとしては別段躊躇することはない。
「俺は疲れたし寝る、夕飯の時間になったら起こしてくれ」
仁が勝手なことを言うと、一つのベッドに倒れ込んですぐに眠りについてしまう。
「ジンは寝てしまったか、アスカはどうする?」
「僕は特に予定は無いですけど」
「夕飯まで少し時間があるとは言え、どこか行くには中途半端だもんな」
カインも荷物を置いてソファに座り込む、そうだ時間があるんだったら。
「ねぇカイン、一つ質問してもいい?」
「どうした、何かあったか?」
ソファに座ったまま顔だけこちらを向けてくる。
「前にロバートと決闘した時のあの感覚、あれを引き出すにはどうすればいいかと思って」
僕には良く分からなかったけど、ロバート曰くあの時の動きは凄かったらしい。それをいつでも引き出せればいいのだけれど、何度試してもあれ以来できたことはない。
「そうだな、恐らくあの時はお前の中にどうすればいいのか確固としたイメージが出来たんだろう」
「確固としたイメージ、ですか」
「そうだ、動きでも姿でも自分の中でのイメージが強ければ強いほど良い。試しにお前の中の強い者のイメージをしてみろ」
僕の中の強い者のイメージ…
「髪が金色になって逆立つとか?」
「なんだそのイメージは?大体お前は元から金髪だろ」
「じゃあ青なら?」
「お前がそれでいいならいいが、イメージできるのか?」
あと髪の色は変わらないと思うぞとカインが困惑している。どうやら今の僕の中にある強いイメージ像では難しいようだ。
「まぁお前の強いのイメージはともかく、そういう分かりやすい形から入るってのは手だな」
丁度お前は金髪なんだしと頭を撫でられる。それにしても強いイメージ像か…
「焦るなとは言わない、そろそろ男子と比べると筋力差も出てくるだろうしな。ただお前の場合足りないのは実戦経験だ、これは庭での打ち合いなんかじゃ経験できない」
「じゃあ僕はどうすれば良いんでしょう?」
「受験に受かったら特別な訓練をしてやろう、学校に行き始めたら俺は口出しできなくなるしな」
だから今は目の前の受験に集中するんだとカインに諭される。そうだ、せっかくロバートに勝ったんだから絶対合格しないと。
その後しばらくカインと談笑し、七時になったところで仁を起こして夕食を摂る。
ホテルの外観通り、立派なディナーのコースが出てきてテーブルマナーに四苦八苦しながら食べる。たまにロバートに教わるけど、口頭で聞くだけなのでなかなか実践する機会は無いのだ。
カインは「畏まらなくても良いんだよ、知人しかいないんだから」と言うけれど、知人しかいないうちに練習しておかないといつか恥をかきそうなので頑張って練習しておかないと。
その後部屋に戻り、ちゃんと部屋毎に個別に付いている浴槽で入浴する。一番風呂はカインに譲ろうとしたが、レディファーストだと僕が先に入ることになった。
最近入浴は周りに気を遣ってばかりだったから、久しぶりにノビノビと入浴できたおかげでその夜はぐっすり眠れたのだった。
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