第55話

 「クロト様から決闘を申し込まれた!?」


 夜、お風呂場でいつもの三人に夕方の出来事を話す。クロトが何を企んでいるか分からない以上、三人にも警戒してもらった方が身のためだろうと言う僕達の判断だ。


 周りには裸の女子が大勢いるが、流石に二ヶ月も経つと段々罪悪感も薄れてしまい入浴にも馴染みだしてしまった。


 大体今の僕は誰がどう見ても女の子だし、僕の裸も見せてるんだしバレなきゃ大丈夫だよね。と言うか、そう思ってないと僕の心が保たない。


 いや、でも少女に成人男性が裸見せてるのはそれはそれでまずいか?


 「夕方そんなことがあったんだ」


 「それでなぜそれをワシらに先に話したんじゃ?」


 「さっきのクロト君はいつもと様子が違ったからね、もしかしたら何か企んでるのかも知れないしみんなに危険が及ぶ事もあるかもと思ってね」


 流石に疑いすぎじゃとペロが引いてるが、さっきのクロトの態度は明らかにおかしかった。心配しておくに越した事はないだろう。


 「僕も疑いすぎで終わることを願ってるんだけど、用心しておくことに越したことはないからね」


 「まぁ、アスカがそう言うなら一応ウチたちも警戒しておくわ」


 クローディアの発言に二人が頷き話が一段落すると、ニヤッっとクローディアの口角が上がる。


 「ところでロバート様のためにそこまでするなんて、本当にただの友達なの〜?」


 「すぐそうやって話をそっちに持っていこうとするね」


 ニヤニヤとクローディアが詰め寄ってくるが、僕達はただの友達同士だ。僕に男色の趣味は無いし、これだけは間違いない。


 その後もしつこく追求してくるクローディアをどうにか躱し、入浴を終えやっと一日を終える。


 翌日、朝からクロトが何を仕掛けてくるか警戒しつついつも通り授業と訓練を受けるが、結局特に何事もないまま午後の訓練まで終わってしまった。


 「結局何もなかったね」


 「やっぱり心配しすぎだったんじゃない?」


 「取り越し苦労ならそれに越したことは無いんだがな」


 訓練後、着替えて更衣室の前に五人で集まるが全員無事だ。だが、昨日のクロトの態度を考えると何事も無いのはどうにも腑に落ちない。


 「とりあえず後一時間警戒しておくか」


 「ふむ、それは良いが先にちょっと花を摘んで来ても良いか?」


 「良いよ、じゃあみんなで固まって移動しようか」


 カンナの要望に従い近くのトイレまで固まって移動し、仁一人だと危険なので僕と仁の二人で三人が出てくるのを待つ。


 「何かあるならこのタイミングだな」


 「そうだね、気をつけておこう」


 周囲には誰も見当たらないが、逆に言えば今襲われれば目撃者もいない状態だ。人数も少ないし、何か仕掛けるなら絶好のチャンスだろう。


 なるべく広範囲がカバーできるように二人で背中合わせに周囲を警戒していると、背が高く茶髪でショートカットの少女が一人トイレから出てくる。


 「え、え〜っとあなたたち何してるの?」


 見知らぬ少女が僕達を見て引き気味に話しかけてくる。確かにトイレの前で男女が背中合わせで警戒しているなんて、事情を知らない人から見たら不審極まりないだろう。


 「気にしないで下さい、密集陣形の練習です」


 「そ、そう、頑張ってね」


 少女が引き気味のまま僕達の前を通り過ぎる際、ポロリと白い卵型の何かを落とした。


 「あ、何か落としま――」

 落とし物を拾ってあげようとした瞬間、ボンと卵型の何かが破裂し辺り一帯に白い煙を撒き散らす。迂闊だった、これが罠だったか!


 「仁、お願い!」


 幸い仁とは背中合わせだったから煙の中でもはぐれてはいないし、仁の風魔法ならこのくらいの煙吹き飛ばせるだろう。


 しかし仁からの返事は無く、代わりにその場で崩れ落ちる音だけが聞こえ背中に当たっていた感触がなくなる。クソッ、もうやられたのか使えない奴め。


 背中がガラ空きになったので今度はトイレの壁に背中を預けようと必死に動くが、それより先に首筋に痛みが走ると急速に意識が遠くなっていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る