第50話
八時になると約束通りペロ達がお風呂へと誘いに来て、一緒に向かうことになった。
お城での入浴はお風呂が広かったし、入浴時間も長かったから人も分散していたし、何より女性の絶対数が少なかったからどうにか周りを見ないようにできていた。
しかし、今日からは違う。寮に住んでいる少女達が二時間の間に入浴してしまわないといけないのだ、浴場は大変な混雑になる上、すぐ側には友人がいる。
もう僕に逃げ場はない。正真正銘二十歳すぎて女湯、それも女児と入浴した変態としての咎を一生背負う事になるのだ。
「どうしたのアスカ、さっきからなんか暗いけど」
「ご飯食べ終わって部屋にいる時からこんな感じだったんよ、やっぱり図書館で何かあったんじゃ?」
「ううん大丈夫、何でもないから」
ごめんねみんな、僕と知り合ったばっかりにと心の中で謝罪するが、当然口に出すことはできない。
一階の風呂場に入ると脱衣所には案の定結構な数の先客がいて、当然みんな無防備な姿を晒している。もうダメだ、今すぐこの場から逃げ去りたい。
なるべく周りを見ないように着替えを入れる網かごだけに意識を集中しながら服を脱ぐ。すぐ側でも衣擦れの音がするが無視無視。
「そう言えばアスカ、図書館には何しに行ってたの?」
服を脱いでいると、同じく服を脱いでいる途中であろうペロが聞いてくる。
「べ、別に大したことじゃないよ。ただ魔導教本探しに行ってただけで」
「あれ、ジン君は魔法使えたけどアスカも使えるんだっけ?」
「うん、と言っても僕は不器用だからまだ上手く制御できないんだけどね」
何とかペロと顔を合わせずに会話しつつ服を脱いでしまうが、問題はここからだ。
「アスカー、何ぼぅっとしてんの?早く風呂行こうよ」
「あ、う、うん。今行く」
クローディアに呼ばれて振り向くと当然裸の少女達が目に入り、罪悪感から咄嗟に目線を外してしまった。
「どうしたのアスカ?」
「ご、ごめん、僕同い年くらいの子とお風呂入るの初めてで……」
「アンタ、もしかしてそれでさっきからずっと暗かったの?女子同士でしょ、そんなの気にすることないって」
いや違うんです、女子同士じゃないんです。なんて言えはしないのが悔しい。
「ほらほら、遠慮せず行くぞ」
「え、ちょ、ちょっとカンナちゃん!?」
カンナに背中を押されて無理やり浴場へと押し込まれると、当然中でも大勢の少女達が入浴を満喫しているのが視界に入る。
「一度入ってしまえばどうってことなかろう?」
「心臓止まるかと思ったけど……」
「アスカってば結構恥ずかしがり屋さんだよね」
心臓が周りに聞こえるんじゃないかと心配になるくらいバクバク鳴り響き、心のどこかで興奮してしまっているのかもう二年も少女として生きてきたというのに無いはずの相棒が勃っている気さえしてきた。
「大丈夫?顔真っ赤だけど」
「だ、大丈夫だから早く髪と体洗ってお風呂から上がろうよ」
洗い場の中で広くスペースが空いてるところに座ると、当然みんなも着いてきて隣に腰掛ける。
なるべく周りを見ないように意識して前を向くが、前には前で鏡が貼ってあり自分の裸が見えてしまう。
今の自分の裸もなるべく見ない様にしてきたからマジマジと見たことはなかったが、今回はそういう訳にもいかない。
成長中の胸元なんかも丸見えだが、周りを見るよりマシだと自分に言い聞かせて髪と体を洗い始める。
僕もそうだが周りの少女たちも髪が長かったり、尻尾があったりして髪と体を洗うのには男と比べて少々時間が掛かる。するとそこには必然的に会話が生まれる。
「良いな〜みんな大人っぽくて。私いつまで小さいままなんだろう」
「成長のペースは人それぞれじゃ、気にするで無い。その姿も十分愛らしいと思うぞ」
「ウチは背ばっかり伸びて嫌になるわ。アスカやペロちゃんみたいに可愛く成長したかったなぁ」
「なんで?クローディアスラっとしててカッコいいじゃん」
この年頃の少女達には見た目の悩みが尽きないらしく、お互いがお互いの青い芝生を羨ましがっているので僕も話を合わせる。それにどうせなら僕ももっと背が高くなりたい。
実際種族特徴かもしれないがこの四人の中で一番成長が早そうなのはクローディアだ。逆に見た目が一番幼そうなのはペロだが、シアンの見た目を考えると元々が小柄で童顔なだけかもしれない。
カンナについてはそもそもドワーフをマジマジと見た経験が無いからよく分からないが、少なくとも胸元は普通の少女のそれでは無いと思う。
僕の体は……まぁ小柄な普通の少女だろう。あれだけトレーニングしたのに筋肉が湧き出ると言ったこともなく、胸はまだ小さいしボディラインがくっきりしている訳でも無い、至って普通の成長中の少女の体だろう。
「アスカ、まだかかりそう?」
前だけを見ながらそんなことを考えていると、無防備な姿のクローディア達が後ろから鏡に映り込んでくる。
周りを見ないようにしていたからか、どうやらみんなのペースから遅れてしまったらしい。
「ご、ごめんもう終わるから!」
クローディア達の裸を見ないように慌てて目を閉じつつ返事して、手癖で髪をタオルで一纏めにする。
流石に二年間もこの長い髪と付き合ってきたのだからこのくらいは目を閉じててもできるようになった。
「お、お待たせ」
流石に目を閉じたままでは歩けないが、なるべく周りを見たくないので俯きがちで歩く。
「どうしたの下ばっかり見て?」
「いや、滑ると危ないから……」
「確かにここの床って良く滑るよね……キャッ!」
そう言って歩き出そうとしたペロが言ってる側から足を滑らせバランスを崩し、もたれかかって来るのを全身で支えてやる。
「大丈夫、ペロ?」
咄嗟のことで助けてしまったが、おかげで裸の少女を見るどころか触ってしまった。柔らかくてスベスベしていてちょっと力を入れれば壊してしまいそうだ。今の僕の体も他人が触ればこんな感じなんだろうか?
「う、うん、ありがとうアスカ」
「本当だ、ウチも注意しないと」
ペロは感謝してくれたが、こちらとしては罪悪感がすごい。ごめんねペロ、裸の君を支えたのは二十歳過ぎの男なんだよ……
その後、みんなで足元に注意しながら移動し湯船に浸かる。みんな首まで浸かってくれたので今なら上を向けそうだ。
「それでアスカ、結局アンタはジン君とロバート君どっちがいいの?」
「わ、私も気になる。結局アスカはジン君とロバート様どっちが好きなの?」
「なんじゃ、アスカは二股しとるんか?」
湯船に浸かるとすぐにクローディアがよく分からないことを切り出し、ペロとカンナもそれに乗ってくる。
「二股なんてしてないよ!どっちが良いと言われても、どっちとも幼馴染と友達なだけだから」
「さっきも言ったでしょ、イケメン二人侍らせておいて友達だからが通用すると思ってるのか!」
クローディアがまたくすぐりの構えを取るのでこちらも迎撃の構えを取る。服の上からでもくすぐったかったのに素肌で受けるわけにはいかない。
「前にジン君について聞いた時もただの幼馴染って言ってたよね、じゃあやっぱり本命はロバート様なの?」
「そうすると身分違いの恋だものね、周りに言えないのも仕方ないか」
「違う違う、ロバートとはどっちかというとライバルだから!」
ロバートとは二人で切磋琢磨して剣の腕を磨いた仲だ、決してそういう関係ではない。
「なんじゃライバルと言うことは、ロバートとやらもジンのことが好きなのか?」
「えっそうなの!?じゃあもしかして私たちが思ってた三角関係とは逆?逆三角形なの!?」
「そんな、じゃあやっぱりアスカもジンの事が……」
「ストップストップ!ライバルってそういうライバルじゃなくて剣!剣のライバルだから!」
あらぬ方向の誤解を解こうと色々弁明するが、懐疑的になっている二人はイマイチ信じてくれない。
結局、物理的にのぼせ上がるまで三人の少女から恋バナで振り回されるのだった。
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