第51話
アルコーズ王立学校の授業は学科毎の特色がある。
例えば商業系の学科なら社会系や言語系、算術などの座学の授業が一日中あり、工業系の学科なら算術や自然科学などの授業が午前中に行われ、午後からは実技の授業が行われる。
騎士系の学科では午前中に社会系の他に軍事学や生態学、礼儀作法などの授業をし、午後から実技訓練をする。
理化学系の学科では算術や自然科学、魔法学などの授業が一日中行われる。
では肝心の冒険者学科はどうなのかとと言うと、午前中の座学は社会系、言語学、算術、自然科学、生態学などを浅く広く学び、午後からは実技訓練となる。また、学年が進めば数日かけて行う実習なども入ってくるそうだ。
「良いですか皆さん、大陸の冒険者ギルドに所属している以上、冒険者は常に中立で公平でなければなりません」
そんな冒険者学科での初めての授業は社会学と称した冒険者についての説明だった。
「なので冒険者は基本的に各国の軍事行動に参加してはなりません。モン害など一部の例外こそあれ、国ではなく人の為に動くのが冒険者の仕事です」
教壇では童顔のサーシャがふんぞり返り気味に講釈を垂れている。少しでも威厳を見せようとしているのかもしれないが、小柄で童顔なせいで返って子供っぽい仕草に見えてしまう。
「道なき道を行き、未開の地を開拓するのも良いでしょう。前人未到のダンジョンに乗り込んでロマンを探求するのも良いでしょう。ですが、冒険者の根幹は困った人々の為にあること、それは忘れないでくださいね」
残念ながら昨今の冒険者はお金になるからとそれを忘れがちですが、と言うサーシャは少し悲しそうだ。
「お金を追い求めるのが悪いとは言いません。しかし、お金はお金です。お金で買える物はその程度の価値しかない物だと、本当にかけ甲斐のないない物はお金では買えないということは分かっておいて下さい」
若そうな割に苦労をしてきたのか、やけにお金について熱弁するサーシャ。
「話が逸れましたね、ではちょっとクイズを出してみましょうか。冒険者は等級で管理されてますが、この等級は何を持って与えられる物でしょうか?アスカさん分かりますか?」
「えっ、ぼ、僕ですか」
眠気を堪えてぼーっと話を聞いていたら突然僕にクエスチョンが飛んでくる。冒険者の等級?そう言えば前にカインがちょこっと言ってた気がするが、そんな詳しいことは言ってなかったはずだ。
「え〜っと、強さですか?」
「ブッブ〜惜しいですが違います」
サーシャが手でバツを作りながら答えるが、その仕草がまた子供っぽさを助長している。
「では隣のジン君、分かりますか?」
「強さじゃないなら信用じゃね」
正解で〜すとサーシャが今度は手で丸を作って答える。
「アスカさんが言った通り強さも判断基準にはなりますが、最終的にはこの人にはどこまでの依頼を任せられるのか?と言う信用を表したのが一級から五級までの等級になります」
なので強さだけでは一級にはなれませんし、当然人が良いだけでも一級にはなれないんですとサーシャが纏める。
「では二問目、冒険者には大まかに二つのスタイルがありますが何と何でしょう?エド君分かりますか?」
言葉と同時にチョークが撃ち出され、居眠りをこいていたエドの眉間にぶち当たり砕ける。
「イッテェ、わ、分かりません!」
「素直で宜しいですが居眠りは禁止です、では隣のクローディアさん、分かりますか?」
「えっと自由に探索する人と依頼をこなしていく人ですか?」
大体正解ですとサーシャが再び手で丸を作る。
「未開の地やダンジョンなどを旅するフリーランスと、ギルドからの依頼をこなすミッションワーカーに別れるんです。どちらの場合も冒険者ですので、資格が必要になるのは同じですね」
資格がない場合フリーランスは遺跡荒らしやダンジョン荒らしと呼ばれ、ミッションワーカーはそもそも依頼を受けることができません。とサーシャが纏めるとチャイムの鐘の音が鳴り響く。
「では、最初の授業はここまでです。次からは本格的な授業が始まりますから、各自寝たりしないようにちゃんと聞いて下さいね」
サーシャがそう締めて一限目が終わると十分の休み時間になる。
「だってさ仁、寝ないようにだってよ」
「お前に言われたくはないわ。大体その目の下のクマはなんだよ」
「昨日の晩は良心の呵責に苛まれて眠れなかったんだよ!」
二十歳過ぎて少女達と女風呂に入ることになった僕の心情を少しでも慮って欲しい。
「お〜お〜、今日も朝から仲が良いねお二人さん」
「日曜学校の時から二人ともこんな感じだったよね」
昨日僕が眠れなかった原因の内の二人がニヤニヤしながら歩み寄ってくる。結局あらぬ誤解は解けたが、それはそれとして僕と仁とロバートの関係を面白おかしく見ているらしい。
ちなみにもう一人の原因のカンナは机に突っ伏して眠ってしまっている。そう言ったことには興味ないのか、はたまたあの体格でここまでの移動はそれなりに堪えるのか?
「そう言えばジン君はウチ達とエド君以外に友達作らないの?」
「おかげさまで可愛い女子を連れ回してるイケすかない奴としてクラスメイトに認定されちまったから、しばらくは難しいかもな」
そう言われれば確かに周り(特に男子)の仁を見る目はかなり厳しい物かもしれない。僕だってクラスに七人しかいない女子を三人も侍らせてるリア充が居たら良い気はしないだろうし。
「まぁ焦らなくても友達くらいその内できるだろう、すぐに作らないと死ぬわけじゃないし」
「そんなこと言って三年間ゼロのままでも知らないよ?」
「大丈夫、私たちがいるからゼロにはならないよ」
ペロが慈愛の目で仁を見ている。本当に優しくて良い子だなぁペロは。
そんな毒にも薬にもならない話をしていると、聞き慣れた鐘の音が鳴り二限目の算術の授業が始まる。
そのあまりに簡単な内容に、寝不足もあいまり居眠りをこき、見事にチョークをぶち当てられるのだった。
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