第27話

寒い冬も明け、暖かな春が芽吹き始めてきた、それはつまり僕達がこの体になって一年が経つと言うことだ。この一年で体が成長したりしたが、元の体に戻るための進展はほぼなかった。元に戻れるのはいつになることやら。


 「追悼儀礼…ですか」


 そんなある日、僕達は朝からカインに呼び出されていた。


 「ああ、来週でお前達も巻き込まれた大規模なモン害から一年だからな。死者の追悼式典がアザレアの村跡地にて、被害にあった五つの村と殉職した兵士の遺族合同で行われる事になった」


 そこで一番被害が大きかったアザレアの生き残りであるお前達にも参加しないか連絡が来てな、追悼式典でのバスケットフラワーを供える役割をして欲しいとのことだ。とカインが告げる。


 「それは構わないけどよ、えらく話が急じゃないか?」


 「やっぱり気付いたか?実はもっと前に連絡自体は着てたんだが俺も忙しくてな」


 悪いとカインが手を合わせる。ここ最近のカインは確かに忙しそうだった。朝から晩まで机に向かってたり、修行にも出ないでミルドラに乗ってそこら中の城を飛び回ったりしていたのでそこをツッコむつもりはないけれど…


 「でも急に言われても僕達喪服持ってないですよ?」


 「その辺は俺がどうにかするさ」


 とりあえず伝えたからな、よろしく頼むぞと念押しされてカインの部屋を出る。出ると同時に慌てた様子の兵士とすれ違う、また厄介事が起きたのだろう。


 「やっぱりカイン忙しそうだね」


 「それでももっと早めに伝えて欲しかったけどな」


 寝起きで機嫌が悪い仁を宥めながら食堂へ向かうと、食堂の方も俄かに騒がしかった。


 「急げ急げ、いつ招集かかるか分からねえぞ」


 「ちょっと待て、今起きたばっかりなんだよ」


 「飯食いっぱぐれるのはごめんだぜ」


 そんな若干殺気だった声が各地から聞こえる。さっきの兵士と何か関係があるのかも知れない。


 「僕達はちょっと離れてようか」


 「面倒だがそうするか、飯ぐらい落ち着いて食べたいしな」


 結局五分もすると召集がかかり、大勢いた兵士たちはみんないなくなってしまった。兵士の人たちには悪いけど、おかげで僕達は静かに朝食を摂ることができる。


 朝食を摂り庭に出ても当然ながら誰もいない。今日も自分たちだけで修行するしかないようだ。


 それから静かな日々が続いて一週間後。


 「は〜い、お二人とも起きてくださいね〜」


 早朝から相変わらずの妙に間伸びした声に起こされる。


 「あれ、シアン?今何時…?」


 「丁度5時ですよ〜、6時には〜カインさんが迎えに来るそうですから〜準備してくださいね〜」


 お洋服はこちらに置いておきますね〜とシアンが喪服を置いていく。カインが手配しておいてくれたのだろう。


 シアンが仁を起こしてる間に、同じくシアンが用意してくれた濡れタオルで顔を拭き、先に着替えてから髪を解き始める。メイド達に言われてからは寝る時は緩く結んでいるのだが、起きるとどうしても型がついているのだ。


 「ジン君〜、起きてください〜」


 「まだ早い、後5分…」


 「も〜アスカちゃんは起きてますよ〜」


 髪を解いてると隣で仁の寝起きの悪さにシアンが悪戦苦闘しているのが分かる。でも、シアンには悪いけど朝から仁を待たせると色々煩いので僕が髪を解く間悪戦苦闘しておいて欲しい。


 結局仁も叩き起こされ、濡れタオルで無理やり顔を拭かれて着替えさせられている。僕も髪を解くのに時間を食ったけどどうにか仁が起きるより前に準備できた。


 まだまだ外は寒いのでアウターを着込んで、ついでにミルドラに乗ることになるだろうから髪を結びながら仁の準備ができるのを待つ。


 「眠い、まだ5時過ぎだぜ?せめて前日入りさせてくれよ…」


 「カインだって忙しかったんだよ」


 寝起き最悪の仁を宥めながら庭へ向かうが、どうやらまだカインは帰ってきてないらしい。


 椅子に腰掛けるとすぐに寝るっと言い残し、仁はこちらに体重を預けて二度寝を始めてしまう。


 「寝るってちょっと、仁、重いよ」


 今の僕と仁の体格差だと本気で支えないと座ってられないくらいの差があるのだが、仁のやつはお構いなしだ。仕方がないのでそのまましばらく仁を支え続けると庭に一陣の風が吹き抜け、ミルドラとその背に乗ってきたカインが降り立つ。


 「よう、お待たせ」


 「おはようございます、ほら仁起きて、行くよ」


 カインに挨拶をして仁を叩き起こす。こいつ、座ったまま爆睡してやがる。


 時間が無いので、なかなか起きない仁は半分寝ぼけたままミルドラの背に乗せられる。


 「それじゃ今回は飛ばすからしっかり捕まってろよ」


 カインがそう言うとすぐにミルドラは空へと飛び上がり、みるみるうちに加速していく。


 あっという間にバンクシアの街を離れ、飛行開始から3時間ほどすると目的地に到着した。


 広場には一本の大きなモニュメントが建てられたおり、モニュメントを中心に綺麗な花畑が広がっている。


 「ここが…村があった場所」


 「もう何も残ってないんだな」


 「ガッカリしたか?家という家は燃えて崩れ落ちてたからな。これでも綺麗に整備されたんだぜ」


 モニュメントの周りには僕達と同じく喪服を着た人達が集まっている。それもかなりの数だ。


 「一年前のモン害の死者は数百人に登るが、そのうちの過半数は被害を食い止める為に戦った兵士だ。当然、俺の部下だった奴もここに眠っている」


 行こうかとカインに促されて人混みの元に向かうと、主催者であろう人物がカインといくらか話をして僕と仁へ花が入った花飾りが付いた籠を手渡してくる。


 「もう式が始まるから、最初にバスケットフラワーを供えるんだってさ」


 モニュメントの前には祭壇が用意してあり、そこにこの花籠を置いてくればいいらしい。


 ミルドラに乗ってる間に乱れた髪と服装を整えて仁と共に花籠を持って祭壇へと向かい、モニュメントに一礼して花籠を飾る。


 すると誰からともなく拍手が起き、僕達が祭壇から離れると聖書を持った司祭が交代で場へ出て聖書の朗読を始める。


 日曜学校とは違い、人々の啜り泣く声と朗読がモニュメントと花畑に響き渡った。

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