第45話

 元の世界でも寮生活は経験した事が無かったが、寮での生活は基本的に時間厳守らしい。


 「ウチ時間に縛られるの苦手だから、遅れそうになったら教えてね」と相部屋のクローディアもこの調子なので時間管理は自分でするしか無いだろう。


 「クローディア起きて、六時半だよ」


 「うるさい、後十分……」


 そして学校生活一日目、クローディアは朝から早速この調子だ。七時には制服に着替えて食堂に集合なのに大丈夫なのだろうか。


 仕方ないので先に自分の準備を進める。歯磨きや顔を洗いに行くと十分を超えそうなのでそれは後回しだ。


 「う〜ん、やっぱりなんか情け無い感じ……」


 部屋に一枚だけ壁に掛けてある姿見で自分の姿を見ると、相変わらずブカブカの制服に着られている少女の姿が映る。なんとも情け無い格好だ。


 「ほらクローディア、十分経ったよ、起きて」


 「ああもう煩いなぁ」


 着替えた後にもう一度起こすと、大きな欠伸をしながら下着姿のクローディアが起きる。


 「ちょちょっと、なんで下着のままなの!? 昨日寝る時はパジャマ着てたよね!?」


 「ああ、ウチ元々寝る時は下着派だからさ、パジャマ着てると落ち着かなくって夜中に脱いじゃった」


 「ぬ、脱いじゃったって……もう良いから早く制服着て、遅刻しちゃうよ」


 思いっきり少女の下着姿を見てしまったがこれは不可抗力だろう。その後も眠いのかぐずぐずしているクローディアの準備を手伝い、顔を洗うのと歯磨きを犠牲にどうにか七時の集合に間に合わせる。


 朝食は全員揃ってから食べ始め、朝食を食べ終わると一旦部屋に荷物を摂りに戻ってすぐ登校となる。なのでいつもの様に食事に時間をかけるわけにはいかない。


 幸い食事の量はある程度自分で調節できるので食べ過ぎると言うことはないだろう。


 朝食を終え、隙間時間で顔だけは洗い支度して僕達の校舎へと向かう。ここまで来ると流石に目が覚めたのかクローディアの動きも早い。


 途中で男子達の登校と合流したので仁がちゃんと起きて来てるか確認しようとしたけど、来てる数も多いし行き先もバラバラなので教室で確認しよう。


 校内の建物は寮含めて二十棟程度の建物を使って円を描くように建てられている。その中でも冒険者学科がある冒険者学部の校舎は寮からほぼ反対側に位置しているので歩くとそれなりに時間がかかる。


 「この学校無駄に広くね、おまけに真ん中にグラウンドがあるから通り抜けにくいし」


 「そうだね、毎朝毎夕これを歩くのかと思うとちょっと辟易してくるかも」


 貴族科は寮と後者が近くて良いよなとかブーブー言ってるクローディアと話しながら歩く。確かに白い制服を着た子達はみんな、寮から近い正門から入ったら正面にあるお城のような校舎に吸い込まれていった。


 前から薄々気付いたいたが、どうやら制服の白と黒は貴族と平民を別けているらしい。


 「でも他の学部の子と比べれば僕達や騎士科の人たちの方が体力あるだろうから遠くでも仕方ないさ」


  「アスカは良い子だねぇ」


 そんな話をしながら寮から二十分ほど歩き、やっと貴族科と比べると殺風景な校舎に辿り着く。


 思えば元の世界でも学生時代はこのくらいの距離毎朝歩いてた気がするが、一度大人として楽を知った身としては自転車か車が恋しい。


 一年生の教室は更にそこの4階らしいので、またブーブー言ってるクローディアを宥めながら階段を登る。


 「あ〜疲れた、毎朝登校するだけで一苦労だこれは」


 教室の入り口に書いてある座席表を確認し、自分の座席に腰を掛けたクローディアが机に突っ伏す。


 定員四十名の教室の中は現在半数ほど埋まっており、座席表には名前しか書いてないので正確には分からないが十名に満たないだろう女子はほぼ揃っていた。


 「あっアスカ、おはよう!」


 呼ばれた方を見るとペロがこちらに歩み寄って来ている。


 「おはようペロ、これからよろしくね」


 「うん、こっちこそ三年間よろしく」


 そう言ってペロと握手を交わす。なんだかんだペロも知らない人とばかりだっただろうから、顔見知りの僕にあってホッとしているのだろう。証拠に耳がピンと立ち尻尾がブンブン振られている。


 「何々、アスカの知り合い?」


 突っ伏していたクローディアが興味有り気に聞いてくる。


 「うん、日曜学校で同じだった子でペロって言うんだ」


 「へぇ〜ウチはクローディア、よろしく」


 疲れからか気怠げに手を振るクローディアにペロが挨拶をする。それにしてもペロは朝から元気で羨ましい。


 「私の相部屋の子も紹介しようと思ったけどごめん、あの子ここまで来るのに疲れちゃって机で寝てるの」


 ペロの視線の先ではピンクの髪をツインテールにした背が低く肉付きが良い、ずんぐりむっくりとした感じの子が机に突っ伏している。紹介したい子とはあの子の事なのだろう。


 「それで今日はジン君は?」


 「今日はまだ会ってないよ、そのうち来るんじゃないかな?」


 ふ〜んとペロが舐め回す様に見てくる。なんだろう僕に何か付いてるかな。


 「なんかいつもジン君と二人揃ってたから一人でいるの見るの新鮮かも。寂しくなかった?」


 「寂しい?まさか、むしろ朝から寝起きが悪いのを起こさなくて済んでよかったよ」


 代わりにもう一人寝起が悪い知り合いが増えたけど。


 本当?強がってない?と尚もしつこく聞いてくるペロ。


 「なんだ、あんたまだ知り合いがいるんだ」


 「うん、男子の幼馴染が一人ね」


 「ジン君って言って面倒臭がりでズボラだけど格好良いんだよ」


 ふ〜んと今度はクローディアが舐め回す様に見てくる。一体なんなんだろう?


 「おはようさんアスカ、ペロ」


 そんな話をしていると渦中の人物が教室に入ってくる。間に合ったのはいいが、目ヤニは残ってるし寝癖も跳ねたままだ。


 「あ、仁おはよう。寝坊助のくせにちゃんと起きられたみたいで安心したよ。寝癖と目ヤニで大変なことになってるけど」


 「なんだ朝からご挨拶じゃないか」


 凄んでくるが、僕に言われて目ヤニを取り寝癖を直しながらじゃ迫力もクソも無い。


 「ふ〜ん、この人がジン?」


 「ん、そうだが。あんたは?」


 「ウチはクローディア、あんたの幼馴染と相部屋になった者よ」


 「アスカと?そりゃよろしくしてやってくれや」


 挨拶が終わると今度は仁の事も舐め回す様に見始めるクローディア。


 「なんだ?おいアスカ、まだ何か付いてるか?」


 「いや、大体取れてそうだけど」


 ある程度僕達を見回すと今度はペロを呼び付けて二人でコソコソと話し始める。


 「なんなんだ、一体」


 「さぁ、僕に聞かれても分からないけど」


 「いやね、なんでもないわ」


 「そうそう、なんでもないよ」


 そう言って答えを教えてもらえないまま、結局聞き慣れたのと同じ予鈴が鳴って二人に煙に巻かれてしまった。一体なんだったんだろう。

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