第44話
入寮日当日、城は物々しい雰囲気に包まれていた。
「移動方法はロンデル達の時と同じように一等客車を一両貸し切り、非常時のために騎士を同乗させるように。また駅までの送迎馬車には護衛百人を付ける」
そんな親バカなジョンの指示の下、カイン達騎士は駅までの歩いても大した距離じゃない道のりを馬車三台に十人、歩兵九十人に別れて護衛に着く。
「非常時に備え一応お前達も帯剣しておけ」
ロバートが寂しくないようにと同乗することになった僕達すらカインの指示で帯剣させられる。
その後城から駅まで隊列に護られながら馬車で進み、駅に着いても一般の出入り口ではなく貴族や団体専用の出入り口に通され隊列のまま車両まで進む。
「き、緊張した〜」
無事駅に着き、乗車予定だった車両に乗り込むと張り詰めていた緊張の糸が切れる。そうは言ってもこの車両自体は貸切でまだ厳戒態勢のままなのだが。
「なんでお前まで緊張してんだよ」
「だっていざと言う時はお前達が最後の砦だってカインが言ってたじゃん」
「大丈夫だよ、本当に何かあったらボクも戦うから」
ロバートが笑顔で答えてくるが、その回答は全然大丈夫じゃないことを分かってるのだろうか?
貸し切られた車両の中は前に乗った時と同じ様にいくつかの対面式座席の区画に別れていて貫通していない。
そして肝心のロバートが乗る区画には僕達の他にカインとエルゼがロバートの両脇に、メイドのシアンがロバートの正面に同乗している。
他の区画には当然、ここまで移動してきた程の数じゃないが武装した騎士がみっちり詰まっている。さぞ狭苦しいことだろう。
ホームでは車両に乗り切れなかった騎士たちが列車の出発を今か今かと待っている。
「そろそろだな」
カインが腕時計を見て呟くとすぐに、大きな汽笛を鳴らして大勢の兵士に見守られながら魔導列車が動き始める。
動き始めてしまえば窓からの景色を眺めて雑談したり停車駅で食事を採ったりしながら、特に大きなトラブルも無く終点のプロテアに辿り着いた。
プロテアの駅に着くと今度はアルコーズ王立学校へ、バンクシアの時と違い馬車一台と少数の護衛で向かう。
「ここがアルコーズ王立学校か〜」
校門で馬車から降りたロバートが感嘆の声を上げる。どうやら騎士達が護衛できるのはここまでらしい。
「それじゃ二人とも残りの護衛は頼んだぞ」
そうカインに頼まれたので最後の校門から寮までは僕達だけで護衛する。護衛と言ってもただの荷物持ちみたいな物だが。
「ごめんね、ボクの荷物まで持たせちゃって」
「良い良い、こいつには良い筋トレになるだろうし」
「筋トレになると思うなら仁が持った方が良いんじゃない?」
仁が「俺は魔法使いだからお前と違って筋肉は要らないんだよ」と得意げな顔をしている。
いがみ合う僕達をロバートが仲裁するような形で歩きながら貴族用の寮の入り口へと向かう。
「それじゃあ僕達もここまでかな」
「寂しくなったらいつでも来いよ」
そう言って代わりに持って来たトランクをロバートに渡す。その顔には寂しいさからか既に涙が浮かんでいる。
「うん、二人ともありがとう」
それじゃ行くねと涙を拭きながら寮に入っていくロバートを見送り、今度は僕達の寮へと向かう。
「良いな〜仁は男子寮で」
「言うほど良いか?男子寮なんてムサイだけだろ。俺は女子寮に入れるお前が羨ましいがな」
女子寮に入れるのが羨ましいなんて分かってないなこの変態は。
「僕はこれから三年間寝ても覚めても罪悪感に苛まれる事になるんだよ」
貴族科は部屋が一人一部屋らしいのだが、平民は二人一部屋らしい。つまり僕と同じ部屋になる可哀想な子が出る事になる。
ルームメイトの中身が実は成人男性でしたなんて知ったら発狂ものだろう。
「そこはまあ、お前が優しい嘘を通すんだな」
仕草とかには注意しろよ、お前良く股開いてるからなとか余計な事を言ってくる。気付いてるならその時言ってくれれば良いのに。
仁とも別れ、一人女子寮に向かう。正直気乗りしないが男子寮に入れるはずも無いし、野宿するわけにもいかない。
(ごめんよルームメイトになる誰か……)
そう心の中で謝ることしかできないまま、女子寮に入る。
「おっ新入生の子だね。私ゃ寮長のトルティだ、よろしく」
中に入るとすぐに受付の若い女性に話しかけられる。赤茶げた癖っ毛にメガネをかけた気怠げな女性だ。
「アスカです、これからお世話になります」
「アスカだね、こちらこそよろしく頼むよ」
そう言って名簿にチェックを入れると部屋の鍵を渡される。
「寮内の説明は夕食時みんな集まってからするから、移動で疲れただろうし先に荷物を部屋に置いて休憩しときな」
夕食は午後7時に一階だからねと教えてもらってから渡された鍵の部屋へと向かう。
扉の前に立ちノックしてみると部屋の中から返事がある、どうやら可哀想な相部屋の相手はもう来ているようだ。
「ここがこれからの僕の部屋……」
失礼しますと扉を開けてみると狭い部屋には所狭しとベッドと机とクローゼットが二台づつ置いてあり、空いているスペースはほとんどない。先客も居場所がないからかベッドの上で本を読んでいる。
「あなたがウチと同室の人?」
「ハイ、僕はアスカって言います、これからよろしく」
「あ〜、見覚えあると思ったら入試の時に大男相手に大立ち回りしてた子じゃない!」
先客が本を読むのを止め詰め寄ってくる。
顔や目つきは少しキツめで肩程までの黒い髪にスレンダーで背が高い。仁やロバート相手でも僕からは少し見上げていたがこの子はそれより更に高そうだ。
もしかしたら少し歳上なのかもしれない。ロバートに聞いた話だと、アルコーズ王立学校は競争倍率が高いので浪人生も多いらしいし。
「あんた、見た目可愛いのに男子っぽい話し方するのね」
「く、癖だから気にしないで。それより君は?」
「ウチはクローディア呼び方は好きに呼んで」
手を差し出されたのでこちらも手を差し出しギュッと握手すると、思ったより手がゴツゴツしている。ここに来るまでクローディアも沢山武器を振ってきたのだろう。
「あんた、見た目の割に良い手してるじゃん」
「クローディアこそ」
ここになんと無く友情が芽生えた気がした。
「それで勝手に左側のベッドもらっちゃったけど拘りとかあった?」
「いや無いよ、それじゃ僕は右側を使うね」
机に荷物を置き右側のベッドに座り込む。当然だがベッドの質はお城の方が良さそうだ。
その後は夕食までクローディアと談笑したりして過ごすのだった。
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