第53話
昼食を終え、昼休みを過ごすと二時には運動着に着替えてグラウンドに集合となる。男女に別れ更衣室で着替えることになるのだが、流石に着替えくらいもっと先を見てしまった今、その程度でドギマギはしない。
運動着は学校指定の無地の物だし男女で特段差がある訳でもないのだが、通気性を良くするためか地薄でボディラインがある程度見えてしまうのがちょっと恥ずかしい。
グラウンドに出ると他の騎士科などの学科の生徒も出てきており、広いグラウンドは結構賑やかになっているがそのほとんどは男子だ。
女子が珍しいからか女子の集団は結構ジロジロ見られており、当然僕もそういう目で見られていて正直あまり良い気はしない。
「要は毎日二時間ぶっ続けで体育があるようなもんだよな、カッタリィ」
「そういう学科なんだから仕方ないじゃん、覚悟を決めなよ」
しばらくは基礎体力作りが主らしく、今日も今の準備運動が終わったらランニングが始まるようだ。そのことに仁は不満そうだが、もっといたたまれない状況の子が一人。
「ワシはもうダメじゃ、みな今までありがとう」
「もうダメってカンナ、まだ走り始めてもないよ!ほら、ファイトファイト」
「でも分かる、ランニングって面倒だよねー」
普段の移動でさえキツそうなカンナは走り始める前から根を上げている。確かにあのずんぐりむっくりした体格でランニングは堪えるだろう。
しばらくして運動着に着替えたサーシャが集合の笛を鳴らすと、散り散りで準備運動していたみんなが集まる。
「全員揃ってるようですね。まずはグラウンドを二周、その後は筋肉トレーニングになります。各自手を抜いたりしないようにしてくださいね」
その他いくつかの注意事項を述べた後、学科も男女も混合のままスタートラインに集められる。どうやら女子は距離が短いとかそういったシステムは無く、男女平等らしい。
再びサーシャの笛が鳴り響き、集団が一斉にスタートを切る。
流石にこういう学科に来ているだけあって多くの生徒は走るのが速く、身体能力強化魔法を使ってない僕はみるみるうちに先頭集団から離されていく。
僕の周辺には同じく女子が数人、後ろには仁やカンナを含め体力がない男女が十数人へろへろで走っている。逆にクローディアやペロが先頭集団にちゃんと着いて行けてるのは種族特徴なのだろう。
僕だって身体能力強化魔法を使えば追い付けるだろうが、体力作りで使ってしまっても意味がないのでここは大人しく後ろを走っていよう。
無事ランニングと筋トレが終わると一旦休憩が入り、各々の得意武器毎に別れて得意武器の訓練が始まる。
冒険者と一言で言ってもその武器の幅は広いようで、例えば僕は剣でクローディアは刀、カンナは斧を持っているしペロは銃、仁は杖、他にも槍や短剣、鉤爪など様々な武器の使い手が揃っている。
ただ、その中でもやはり剣がオーソドックスなようで持っている人が一番多い。
振って使う武器組は素振りの為グラウンドに残り、ペロのように銃を使う人たちは射撃訓練、仁のように魔法を使う人達は魔法系学科の訓練に加わっていく。
今日はただ素振りだけが行われ、実戦形式の訓練なども無く訓練が終わるとグラウンドで解散となる。
「ほら終わったよカンナ、しっかりして」
「つ、疲れた、もう歩けんわい……」
クタクタにへばっているカンナをクローディアと二人で更衣室まで運び、着替え終えたら仁と合流し近くの茶店までもう一度運びこむ。
「いやぁすまんかった、まさかここまでキツいとは思はなんだ」
「ほんとほんと、おかげでクタクタな上腹まで減っちまったよ」
「しっかりしなさいよ二人とも、これから毎日あるんだからね」
そう言われるとカンナと仁の表情が暗くなるが、カンナはともかく仁には良い薬だろう。
「まぁまぁクローディア、そう言わずに。二人とも頑張ったんだからさ」
「でも毎日お昼の他にこうやってお店に来るのはお金が心配かも」
ペロが申し訳なさそうに縮こまる、耳は倒れ、尻尾は悲しそうに項垂れている。
「お疲れ様みんな、頑張ってるのここから見てたよ」
そんなペロを撫でていると後ろから聞き慣れた声がし、振り返ると制服姿のロバートがニコニコしながら僕の後ろに立っていた。
「あれ、ロバート、どうしてこんなところに?」
「貴族科はお昼から暇だからね、ここからなら二人が頑張ってるところを見られると思って来てたらみんなここに入ってくるからびっくりしちゃった」
「ちっ、じゃあ俺がヘロヘロで走ってるところをここで高みの見物してやがったのか」
仁の悪態にそう言う事とロバートが笑う。突然のロバートの出現にクローディアが何かを期待する目をしているが、これは無視しよう。
「そういえば今日は一人みたいだけど、昨日の取り巻きの人達はいないの?」
「いるよ、ほらあっちに」
ロバートの目線を追いかけると、丸テーブルに座ってこちらを白い目で見ている集団が目に入る。相変わらずあまり良く思われていないようだ。
「大物貴族様も大変だな」
「そうなんだよ、どこに行くにも着いてこられてさ」
おちおち二人に会いにも行けないよとロバートが肩を落とす。
押しが強いとは言え基本的に人が良いロバートの事だ、ずっと断れずに着いてこられているのだろう。
「お主がロバートか。いや、ロバート様と呼んだ方が良いかの」
「そうだよ、自己紹介が遅れたね。ボクはジンとアスカの友人のロバート・ホーエンハイム。ロバートって呼んでくれて良いよ。できればみんなの事も教えてもらいたいな」
ロバートが名乗ると三人がざわつきながら自己紹介をする。流石公爵家、その知名度は高いらしい。
「すごい、お城の中の人だ!」
「ホーエンハイムのご子息と知り合いってあんた達一体何者なのよ?」
「僕達はホーエンハイム家の騎士に拾われただけのただの拾われっ子だよ」
「なんだ、自分達の立場は弁えているんじゃないか。次は口の利き方を覚えるんだな」
僕達の会話に突如黒髪の少年が図々しく割り込んでくる。名前は確かクロトだったはず。
「クロト君?どうしたの急に割り込んできて」
「クロト様だ平民、今口の利き方を覚えろと言っただろう」
相変わらず沸点が低いみたいでもう顔を赤くしたクロトが睨みつけてくる。
「どうしたのクロト君、どうせ喧嘩になるから待っててって言ったじゃない」
「ロバート様を迎えに上がりました。このような口の利き方も知らない下賤な者どもとおられては品位を疑われてしまいます」
「ダメだよ、僕達貴族は庶民を守るためにいるのにその守るべき対象を蔑んじゃ」
「ならば我々に敬意を払うべきですが、こいつらにはそれがありません」
ロバートの説得に、しかしすでに臨戦態勢のクロトは聞く耳を持たない。
「良いよロバート、僕らは何を言われても構わないからさ。また今度ゆっくり話そう」
このままではまた騒ぎになるだろう、一日に二度も飲食店で注目の的になりたくは無い。
「でも……ううん分かった、それじゃあまたねみんな」
「おう、また今度な」
しばらく逡巡したがなんとか分かってくれたようで無事ロバートが引き下がると、こちらを睨みつけてたクロトもその後を追うように去っていく。
「完全に目を付けられてるな、こりゃ」
「彼気位が凄い高そうだし、面白くは無いだろうね」
本当はロバートの友達になって欲しいんだけど、あの気位の高さと貴族意識の高さからしたらそれも難しいだろう。
ロバートの為にもならないし、何か対策を考えなけらばならないかもしれない。
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