第24話

 ロバートに勝つという目標を定めて2ヶ月程が過ぎ、仁は最近旋風を起こしたり何もないところから数リットルの水を出したり出来るようになったし、僕も魔力が体内にどう存在しているのかが分かり始めてきた。


 と言って制御なんて全然できなくて、まだ無意識に垂れ流しているだけなのだが。


 気候の方も暑かった気温も段々下がり、だいぶ過ごしやすくなったある日の夜。


 「そう言えば明日の日曜学校は収穫祭だね」


 あの日以来また遊びに来るようになったロバートが突然切り出した。


 「収穫祭?何それ」


 「ああ、そっか、覚えてないんだっけ。収穫祭ってのは毎年10月の最終日曜日に今年の収穫への感謝と来年の豊作を祈ってするお祭りだよ。子供たちが仮装して練り歩いてお菓子をもらったりするんだって」


 説明を聞く限り、どうやら元の世界で言うハロウィンのようなものらしい。


 「だってって事はロバートは参加したことないのか?」


 「うん、人が大勢いるところは何があるか分からないってお父様が言うからね。だから僕は毎年お城の教会でお祈りに参加するだけなんだ」


 だから明日はお土産話いっぱい聞かせてねと言い残してロバートは自室へ帰っていった。


 「前々から思ってたけどジョンって結構過保護だよね」


 「そうだな、ただこの世界の貴族ではこれが普通なのかも知れないが」


 貴族の子供ってことは狙われる機会も多いだろうと仁が講釈を垂れる。言われてみればそれもそうか。


 「俺たちに出来るのは明日土産話を聞かせてやることくらいか」


 「そうだね、ジョンに直談判する訳にもいかないし」


 頼みのカインはまた城を出はからっているし、今の僕達も無力な子供であることに変わりはない。僕達が警護につくと言ったところでジョンも納得はしないだろうし、お土産話を持って帰ってあげるとしよう。


 翌朝、教会へ赴き朝のお祈りが終わると今日は授業の代わりに仮装する時間が設けられていた。設けられていたのはいいんだけど…


 「ねぇねぇアスカ、これも着てみない?」


 「いや、こっちの方が似合うよ」


 「ぼ、僕はこのマントと帽子と付け耳だけでいいよ」


 「えーダメだよせっかく可愛いのに勿体無い!」


 その時間、僕は教会の近所の子供達から着せ替え人形にされかけていた。子供達が各々僕に着せたい衣装を持って迫ってくる。


 「もーアスカが困ってるでしょ、ほら自分達の仮装の準備をしなさい!」


 「ちぇーせっかく着てもらうと思って持ってきたのに」


 万事休すかと思われたが、そこに寒く無いのか子供の割に際どい仮装をしたペロが割って入ってくれる。


 「ありがとうペロ、助かったよ」


 「ううんいいの、それよりアスカも嫌なら嫌ってちゃんと断らないと」


 「は、はい…」


 おかしな仮装をしないで済んだ代わり、まさかの子供にお説教されてまた一つ僕の心に傷が入る。反論の余地も無いのが悔しい。


 「はーい皆さんそろそろ出発しますよー」


 しばらくすると神父さんに先導されて子供達がゾロゾロと移動を始める。


 「なんだ、お前もマントと帽子と付け耳だけか」


 「だってこれが一番無難そうだったんだもん」


 流石に男女で分けられていたのでそこで仁と合流すると、仁も僕と同じマントと帽子と付け耳で吸血鬼っぽい仮装をしてきた。


 「いや、お前のことだから周りに流されておかしな格好をしてくるんじゃ無いかと心配してたんだ」


 「嘘吐け、おかしな衣装を着た僕を笑うつもりだったのが顔に出てるよ。でも残念、ペロに助けてもらったからそうはならなかったんだ」


 「それ、胸を張って言えることか?」


 仁が何か言っているが着なくて済んだ結果が全てだ。


 「アスカが迷惑かけたみたいだな」


 「えっ、う、ううんそんなことないわよ」


 仁が一緒にいたペロに話を振ると一瞬ビクッとしながら返事をする。ペロは最初に仁と会った時の警戒が未だに抜けていないのか仁の前だといつもこんな感じだ。


 その後仮装集団は近くの民家を巡りクッキーやパイなどをもらって回る。中には魚が丸ごと数匹突き刺さった謎のパイや直接100コルを支払う家なんかもあった。


 コルとはこの世界の通貨だ。一応この世界は金本位制度らしいのだが、ボルドーは「詳しい事はまだ難しいでしょう。ですから、おおよそ10コルがパン一つ程度と覚えてください」と僕達におおまかな貨幣価値を教えてくれた。


 小さい硬貨が1コル、中くらいの硬貨が10コル、大きい硬貨が100コル、この国の中央銀行が描いてある紙幣が1000コル、王城が描いてある紙幣が10000コルらしい。


 僕が以前カインに渡されたのは紙幣のお釣りが無かったし1000コルだったのだろう。


 「お金で渡されても教会への寄付になるだけだから私たちには得がないよね」


 「そ、そうなんだ」


 「教会は孤児院の経営もしてるんだ、仕方ないさ。それにあの見るからに不味そうなパイをもらうよりマシだろう」


 歳の割に現実的なペロの文句を仁が諭す。これもボルドーが教えてくれたのだが、修道院や孤児院の経営も教会の仕事らしい。


 もっとも、孤児院は当然利益を出す分野では無いので僕達の時みたいに受け入れ体制が万全という訳でも無いようだが。


 それにしてもこういうのってイベントとして回ってるだけで楽しんでるものだと思ったら、意外とちゃんと自分への見返りも考えているようだ。


 その後も夕方まで約半日かけて街の中を練り歩く。当然行きと違い帰りにはもらったものが嵩張り、僕達の元にもその一部が負担として流れてきている。


 「このパイとクッキー焼きたてだね!」


 「ね、焼きたてのいい匂いがする」


 「こっちは半端なく生臭いんだが」


 僕とペロの元に流れてきたのは紙袋に入れられたクッキーとパイだったが、仁の元に流れてきたのは半透明のゼリー状の中に、蛇のような魚のようなものがぶつ切りで入っているものだった。


 後でもらった物を食べる会があるらしいのだが、あの謎のパイとゼリー状のものは避けるようにしよう。


 教会に帰り着くともらった物を神父さんやシスターさんに預け、仮装から着替える。


 僕なんかは付けたものを外すだけでいいのだが、ペロのように元着ていた服を脱いでしまっている子は着替えるのも大変だ。


 その後長テーブルに並べられた戦利品をみんなで分ける会が始まる。一部を紙袋に入れてロバートに持って帰ってあげようかと思ったが仁と神父さんに止められてしまう。


 基本的にこの場で食べる物らしいし仁に「食べて何かあった時責任取りきれないだろ」と諭されてしまった。


 「まっず!誰だ俺のパイをスターゲイジーパイと入れ替えやがった奴は!」

 

やべ、仁のやつキレやがったとイタズラ好きの子供達が蜘蛛の子を散らすように逃げていく。


 仕方ないのでこの会の様子だけ帰ってロバートに伝えるとしよう。

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