第5話
「おはよ〜ございま〜す、朝ですよ〜」
妙に間延びした声と共に布団を剥がし起こされる。
「えっと、おはようございます?」
「は〜い、おはよ〜ございます〜」
重い瞼を開けると、犬の耳の様な飾りをつけた小柄なメイドさんが僕を包んでいた布団を持って笑っている。
「カインさんが〜お二人を起こしてきて欲し〜とのことだったので起こしに来ました〜。私はメイドのシアンと申します〜。よろしくお願いしますね〜」
どうやら眠って起きたところで元には戻らなかったらしい。元の僕はどうなってるんだろう?行方不明かな?仁と二人で逃避行してるとか思われてたら嫌だなぁ。
「お着替えも用意してきましたので〜、早く起きて着替えられてくださいね〜」
そう言うとメイドことシアンは次の仁を起こしに行く。渡された着替えを見ると、恐らく下着だと思われるセットと、もう一つはまたワンピースのような上下一体型の服らしい。一応、今着てるネグリジェよりは厚手の生地で出来ているみたいだ。
「またこの手の服を着るのか…」
正直、違和感もあるし恥ずかしいのであまり着たくは無いのだが、今の格好で外を出歩くわけにもいかないし、かと言って昨日のボロ切れの様な服はいつの間にかシアンの手の中にあるので、とりあえず言われた通り着替える他無い。
着替えながら部屋にある壁掛け時計を見ると時刻は午前六時をちょっと過ぎた辺りだった。この世界でも一日はちゃんと二十四時間なのか、時計の針は十二時までしかない。
「あら〜アスカちゃん髪の毛がボサボサですよ〜、解いてあげますね〜」
そういうと何処から取り出したのか櫛で髪を解かれる。髪が長いとこういう時も面倒だから嫌だな。
「おい、俺は用意済んだんだが?」
「あらあらジンさん、女の子を急かしちゃダメですよ〜」
仁の寝起きの悪さは昔から相変わらずみたいだが、シアンのマイペースさの前では形無しみたいだ。
「ついでですから〜、動きやすいように一つに纏めちゃいますね〜」
髪を解かれたと思ったらあっという間にポニーテールにされてしまった。でも確かにこっちの方が動きやすいかも。
「それでは行きましょうか〜」
準備が整うと今度はシアンに先導されて城の中を歩き回る。どうやらシアンは犬耳だけでなく尻尾まで付けているらしい。でもたまにピョコピョコ動いているのはどういう原理なのだろうか?もしかして本物の耳と尻尾だったりして?
「結構広いんですねこのお城」
「そ〜ですね〜、慣れないと大変ですよね〜このお城の広さは〜」
「それでこんな朝早くに一体何の用何だ?」
「それは〜カインさん本人から聞かれて下さいね〜」
起き抜けで機嫌の悪い仁をシアンが軽く流しながら、どこまでも同じ様な廊下を歩く。窓が多いからか、同じ廊下なのに昨日の夜の暗い雰囲気とは違い明るく瀟洒な雰囲気を醸し出している。
しばらく歩くと先導していたシアンが一つの扉の前で立ち止まり扉をノックする。
「カインさ〜ん、お二人を連れてきましたよ〜」
「おう、入ってくれ」
中からの返事を聞くとシアンに促されて扉に入る。
「おはよう、昨日はよく眠れたか?」
部屋の中に入るとカインの他に、もう一人赤い髪の男性が出迎えてくれた。
歳は五十代程だろうか?シャンとした立ち姿といい蓄えられたヒゲといいダンディな雰囲気を醸し出している。どうせ歳を取るならこういう風に歳をとりたいものだ。
「おはようございます、昨日はありがとうございました」
「それで、こんな朝早くから何の用で?」
折角人が印象を良くしようと昨日言えてなかったお礼を述べたのに、仁はそんなことお構いなしの不機嫌具合だ。
「悪い悪い。本当はもう少し後で起こすつもりだったんだが、この方がお前たちにぜひ会ってみたいって言うからな」
話を振られた紳士が一歩前に出て名乗る。
「挨拶が遅れたね。私はこの城の主オトラント公ジョン・ホーエンハイムだ」
赤い髪の男性に名乗りをうけて僕と仁の背筋が伸びる。まさかこの城の主様だなんて。
「お、お世話になってます。僕はアスカと申します」
「私はジンと申します。お会いできて光栄です、これからよろしくお願いします」
突然の事に緊張していたとはいえ、仁より簡素な挨拶しちゃった。と言うかとりあえず名乗っちゃったけど、挨拶の仕方になんか礼儀とかあったらどうしよう…
「ハッハッハ、別に追い出したりしないからそう畏まらなくても良いよ。私の末の息子と同じくらいの子供達だって聞いたから一度会っておこうと思ってね」
どうやら優しい人だったらしく特に問題は無かった。それにしても息子?もしかして昨日の夜覗いてきた赤毛のあの子だろうか?
「ロバートと言ってあまり人付き合いが得意な子では無いんだが、機会があれば仲良くしてやってほしい」
では、私は用があるのでこれで。と言い残してジョンは出て行ってしまう。
「はぁ、朝から寿命が縮むかと思った…」
「それで、挨拶の為だけに俺たち起こされたんですか?」
仁はもういつもの調子に戻っている。戻ったところで失礼なのは変わりないけど。
「それだけだと可哀想だからちゃんとご褒美も用意してるさ。シアン、アレを用意してくれ」
「かしこまりました〜」
言われたシアンが手際よく水が入ったボウルと、梅干しの種の様なものを僕と仁にそれぞれ準備してくれる。
「これで一体何ができるんです?」
仁のつっけんどんな態度は相変わらずだが、確かにこれで一体何ができるのかは僕も気になる。
「言ったろ、ご褒美だって」
僕達の反応を見てカインがほくそ笑む。
「お前たちには今から魔力測定を行ってもらう」
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