第19話
「冒険者について知りたい?」
大恥をかいたロバートの誕生日会も無事(?)に終わり、お城はある程度の平穏を取り戻した。とは言うものの、グレーワッケの動きにはまだ注意が必要らしい。
そんな夏のとある朝、カインに聞きたかった事を聞いてみることにした。
「なんだなんだ、冒険者に憧れたか?」
「そう言うわけでも無いんだけど、でも記憶を取り戻す為にはこのままじゃダメな気がして」
忘れた頃にこの設定、でも理由自体は嘘じゃない。取り戻すのが記憶じゃなくて体なだけで。
「そうか、無くした記憶の価値はお前にしか分からない。お前がそう思うならそれを止めることはできないな」
そう言うとカインは納得してくれた。この辺、理解あるタイプの人で助かった。
「冒険者と一言に言っても色々いるが大雑把に言えば冒険者ギルドに登録して、資格を持つものが冒険者だ。資格制なのが傭兵との大きな差別点だな」
「冒険者って資格がいるのか?」
「ああ、無謀な挑戦をして無駄死にさせない為だったり、ダンジョンや遺跡なんかに勝手に入って盗掘したりするのを防止するためだったり、成りすましの防止だったり、まぁ理由は色々あるんだ」
発掘品の中には歴史的価値があるものならともかく、軍事的価値があるものも多いからなとカインが続ける。
歴史的価値がある物はともかく、軍事的価値がある物ってどんな物が出土するんだろう?
「それで資格を取るにはどうしたらいいんですか?」
「15歳になれば申請するだけで誰でも5級冒険者になれる。もっとも、5級冒険者なんてほとんどやれる事はないがな。もう一つのルートは王立学校の冒険者学科で3年学ぶ事だ。そうすると卒業と同時に3級冒険者になれる」
また出た、王立学校。どうやら何になるにしてもここを出るのが早道らしい。
「王立学校って色んな学科があるんですね」
「そうだな、俺も行った事ないからどれだけの学科があるのかは分からんが」
「なんだカインは学校行ってないのに騎士になれたのか?」
「俺は傭兵上がりだからな、ジョン様にヘッドハンティングされて騎士になったんだ」
これは初耳だったが、どうやら騎士自体は学校を出てなくてもなれるらしい。まぁそれは冒険者も同じなんだけど。
「他に聞きたい事はないか?」
「あ、じゃあダンジョンと遺跡の違いってなんですか?」
さっきカインはダンジョンや遺跡なんかにとわざわざ分けて言っていた。と言うことは何か違いがあるのだろう。
「普通の遺跡なんかは魔物が住み着くことはあっても倒せばいなくなるんだが、ダンジョンってのは放っとくと魔物が湧くんだ。どこからともなくな」
「どこからともなくってそれは危なくないか?なんでそんなことになるんだよ」
「大戦記の魔族の呪いだとか憶測はいっぱいあるが詳しい理由は分からない。だから発見済みのダンジョンは定期的に魔物を討伐することで溢れるのを防いでいるんだ。それも冒険者の仕事の内だな」
前にボルドーが言っていた傭兵より冒険者の方が実入がいい的な話はこれに繋がるのだろう。
定期的に収入が見込めるのなら、いつ起こるか分からない争いを待つより効率が良い。普段は冒険者として働いてれば良いんだし。
「さ、そろそろ雑談も終わりだ。二人ともいつもの準備しろ」
カインが話を切り上げようとするが、まだ聞きたいことがある。
「待って待って、修行のことで聞きたいことがあるんだけど良いですか?」
「どうした、何かあったか?」
「いや、ここ四ヶ月くらい修行頑張ってるのに思ったより筋肉の付きが悪いなぁって、穴掘ったりしてるだけの仁の方は結構筋肉付いてるのに」
仁は基礎体力作りと称して地面に埋まるための穴掘り、終わったら埋めるを毎日させられていた。おかげで最近目に見えて筋肉が付き始めている。
一方僕の方はというと、豆やらで掌こそ硬くなったとは言え筋肉自体はあまり付いてる風じゃなく、腕何かもプニプニしている。
「それはお前がサボってる訳じゃないさ。一つはお前が無意識の内に魔力で筋力をカバーしているからだろう。自分が思っているより筋肉への負荷が少ないんだ。もう一つは男女差と個人差だ。これはもうどうしようもない。」
仁より遥かに基礎体力作りしているのに男女差や個人差で片付けられてしまうとちょっと悲しかったが、どうやら理由はもう一つあるらしい。
「魔力でカバー、ですか」
「ああ、と言っても普通は身体能力を強化する術式を使ってするものを無意識でやってるからな、効率は相当悪い」
それだけ魔力を無駄遣いしても疲弊しないんだから、魔力量は相当なものだがなとカインが言う。
どちらにせよ、今の話を聞いた感じ訓練の結果筋肉ムキムキになることはなさそうだ。せっかくトレーニングしてるのにちょっと悔しい。
「焦らずに基礎体力作りに励め、そうすればお前が魔力の使い方を覚えた時に役に立つから」
そう諭されていつもの修行に移る。でも、僕が魔力を使えるようになるのは一体いつになるのだろう?
結局、修行が始まってしまえばいつも通りそんなことを考える暇も無くなってしまうのだった。
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