第18話
「ね、ねぇやっぱり僕は普段着じゃダメかな?」
「ダメですよ〜、ほら〜ちゃんと似合ってますって〜」
今日はロバートの誕生日パーティ当日、僕は部屋でメイド達に着付けされていた。髪も三つ編みにされた上頭の後ろで巻かれている。ドレスなんて僕一人ではとても着れないとはいえ流石に恥ずかしい。
「お〜い、まだか〜」
仁はとっくに燕尾服に着替えが終わって部屋の外に摘み出されている。僕も男のままだったらもう着替え終わってるはずなのに。
「女の子を急かしちゃダメですよ〜」
そう言ってシアンが笑う。でも僕もそんなことより早く着替えを終わらせて欲しい。
「は〜い、できました〜」
それから更にしばらくして、やっと着替えが終わる。鏡の向こうには既に疲弊した上、肩出しの黒いドレス姿に変わり果てた姿の僕があった。
「ほら〜良く似合ってますよ〜」
シアンが言ってくるが僕に取っては似合ってもらっても困るんだって。
「は〜い、ジン君お待たせしました〜」
「ほんとだよ全く、何時間待たせるんだっての」
ぶつくさ言いながら扉の前で待っていた仁が嘯く。
「悪かったね、待たせて」
「本当に悪かったと思うならもっと心を込めて謝るんだな」
「もぉ〜ジン君〜、着替えてきた女の子に最初に言う言葉がそれですか〜」
シアンが怒るが、服装の感想なんて僕も言われたくないしこれでいいんだ。
それにしても、子供向けで高さはそこまでではないのにハイヒールが歩きにくい。子供用でこれなんだから普通の高さのハイヒールなんてとても履けそうにない。
「それじゃ主役のところに行くか」
「そうだね、あんまり待たせても悪いし」
この国において通常社交界デビューは16歳らしい。なのでそれ以下のお子様は基本パーティなんかには参加できず、お留守番しているのが普通なんだとか。
しかし、五の倍数歳の五歳、十歳、十五歳の誕生日だけは違い盛大に祝うのがしきたりで、今回はロバートの十歳記念お祝いになる。とは言っても夜に行われる通常の社交界とは違い、お昼から始まり夕方には終わるものなのだが。
優雅な音楽が流れる豪奢な会場に入ると、既に数組が塊となっている。その中からジョンを見つけ出し挨拶に行くと、一つのテーブルを囲んでジョンとアメリアとロッテが談笑していた。
「二人ともよく来てくれたね」
「可愛い〜ロッテとロンデルが小さい頃みたい!」
「馬子にも衣装ですわね」
口々に言われる感想にとりあえずお礼と挨拶を返す。
「ところで主役のロバート様と、ロンデル様はどちらに?」
「ああ、二人ならお客様とダンスしているよ。今日は子供が主役の日だからね」
そう言われて舞台を見ると何組か踊っている中にロバートとロンデルの姿があった。緊張からかガチガチのロバートとは違いロンデルは活き活きと踊っている。
仕方がないのでそのまましばらくジョン達と談笑していると、疲れた顔のロバートがテーブルへと戻って来た。よほど気疲れしたのか顔にはやり遂げた安堵が広がっている。
「緊張した〜」
「お疲れ様、お誕生日おめでとうロバート様」
「お誕生日おめでとうございますロバート様、今日はご招待いただきありがとうございます」
着替える際にメイドさん達から教わった片足を斜め後ろに引き、もう片膝を折る挨拶を礼をする。カーテシーと言うらしい。
「アスカ、ジン、来てくれたんだね!二人ともとっても似合ってるよ」
ロバートのあまり嬉しくない言葉にとりあえずお礼を返す。仁に顔が引き攣っているぞと横からツッコまれるが気にしない気にしない。
挨拶もしたし、いつまでもロバートの近くにいると他のお客様の邪魔になるかと思い席を離れようとするが、ロバートが引き止める。
「大丈夫だよ、二人は家族みたいなものだから。広い会場に二人だと寂しいだろうし、ね、一緒にいよう?」
本当にそれでいいのか仁と顔を見合わせるが、結局はロバートが言うのだからとそのままテーブルに残ることにした。
最初こそ周りのお客さんも僕達がいるからかテーブルに来るのを逡巡していたが、一組目が挨拶に来るとそれに倣って次々挨拶に来始めた。
「うん、美味え。ほら、アスカもこの肉食えよ美味いぞ」
「ちょっと待ってよ、食べたいのは山々なんだけどコルセットがキツくて」
ロバートがお客さんと話したり踊ったりしてる間に僕達は呑気に並んだ料理を食べている。どの料理も美味しいのだが、元々キツかったコルセットが料理を食べるごとにキツくなっていくのでそんなに食べられない。
「僕は食事はもういいかな。それより意外と人が多いね」
大勢の前でドレスなんて着ているのかと思うと恥ずかしくて仕方がない。隅で縮こまっておこうにもドレスの性質的に勝手に広がるから返って目立ってしまう。
「今日来てるのはほとんどは周辺の貴族達でね、平民のお客様は君たち二人だけだよ」
ジョンに言われて周りを見渡す。確かに僕達以外のお客さんはみんな裕福そうだ。
「良かったんですか?そんな中に私たちなんて呼んでしまって」
「ロバートの為のパーティですもの、ロバートが呼びたいと言うなら呼ばなくちゃ」
本当はもっと人を呼ぼうとしてくれるといいんだけどねとアメリアが笑う。
問題のロバートはと言うと挨拶しにくる女の子がいれば一緒に踊ってを繰り返し、だんだん疲れが見え始めてきた。
「大丈夫、キツそうだよ?」
「大丈夫、せっかく来てくれたんだから一曲くらいは一緒に踊らないとね」
どうやら義務感で踊っていたらしい。今日の主役だと言うのにホスト側も色々大変だ。
「でもそろそろ休めって」
仁が給仕から受け取ったオレンジジュースを手渡す。
今日のパーティは子供がメインだからお酒もタバコもダメらしい。料理もお酒に合うようなものではなく子供向けの甘めの料理がほとんどだし、給仕が運んでいるのもジュースばかりだ。大人にとっては辛い会だろう。
ロバートはよほど喉が乾いていたのか、ジュースを受け取り一息に飲み込む。それにしても同じずっと踊っているにしてもロンデルの方は未だに楽しそうなのは気疲れの差だろうか?
「うん、今日来る予定だった人とは一通り踊ったからね後一人だけ」
そう言って軽くお辞儀したロバートが手をしたから差し出してくる。
「ボクと一緒に踊ってくれませんか」
えっ、後一人ってもしかして僕のこと?
「で、でも僕社交ダンスなんてしたことないから分からないよ!?」
「大丈夫、僕がエスコートするから」
気弱な割に押しが強いロバートが迫ってくる。仁に助けを呼ぼうにも笑うのを精一杯堪えてやがる。
踊るのは恥ずかしいが、今日はロバートの誕生日なんだしあんまり断っても悪い気がする。でも、手を取るにしても取り方すらよく分からない。
「ほら、ボクの手に上から手を合わせて」
そう言われて恐る恐る手を合わせる。ああ、また断れずに踊る羽目になるんだな…
結局、その日一番目立ったのは主役のロバートではなく、ロバートと一緒に踊って足を踏みまくった挙句転けた平民の少女だった。
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