第39話【注意】マイルドですが血の描写有り
キャンプを始めて一週間、その間に獲物の取り方や捌き方、皮や肉の保存の仕方などカインから色々な事を教わった。
生活環境についても今回は水源が近くにあるので水に困る事も無かったし、秋で寒いとは言え髪や体も洗うことができた。
就寝スペースについてはテントが一つしかないことをカインが謝ってきたけど、僕からしたら男同士なので気になる事はイビキくらいだった。
そして始めてのキャンプ最終日の今日、僕は今、遂にカインが言っていた命のやり取りの場に身を置いている。
目の前には少し痩せ気味の大きな犬のようなウルフが一頭、既にこちらに対して威嚇のような低い呻き声を上げ戦闘態勢に入っている。
カインからのお題はお昼までに自力で肉食動物を探し、一頭狩ってくること。こいつを逃せば時間内に次に見つけられるかは分からない。
倒せるかどうかは分からないが、ここでこいつを倒すしかないと覚悟を決めこちらも抜剣し集中する。
この一週間、いろんな獲物を狩ってきたがそれはあくまで狩る側としてだ。鹿のように多少反撃してくる動物や、猪のように不意打ちで倒した動物達と今回の獲物は違う。
今回はお互い正面から、狩るか狩られるかの立場だ。少しでも気を抜けば僕はすぐにあの痩せこけたウルフの餌にされてしまうだろう。
ジリジリとお互い睨み合いながら距離を詰める。ウルフの間合いはよく分からないのでいつでも反応できるように少しづつ少しづつだ。
しかし、もう少しで僕の間合いに入るというところでウルフが一吠えし、同時に機敏な動きで襲いかかってくる。
想像よりも速い初撃の引っ掻きを剣で弾くと、ウルフは跳ねるような俊敏な動きで再び距離を取りこちらを窺い始める。やはり一筋縄ではいかないらしい。
再び睨み合いながらジリジリと距離を詰め合い、僕が踏んだ小枝の折れた音を皮切りに今度は両者一斉に動いた。
「それで二人ともウルフを狩ってきたのか、すごいじゃないか」
返り血と血抜き作業で血塗れになった僕と仁をカインが褒める。仁の奴は僕ほど汚れては無かったので魔法を使って遠距離で仕留めたのだろう。こっちは近接で命のやり取りをして来たと言うのにずるい奴だ。
「ただ、二人とも捌き方はまだまだ練習が必要だな」
僕達の捌き方を見てカインが笑う。そうは言われても流石に元現代人の上、体は子供の僕達に動物を一から解体するのはハードルが高い。
結局相当な時間をかけ、全身ドロドロにしながらやっと解体を終える。皮は一度丸洗いした後全体に塩を薄く振って重ね、可食部位は以外はミルドラの餌となった。
「や、やっと終わったか」
「うひゃー、全身ドロドロで気持ち悪い。早く洗っちゃおう」
結局二人とも髪まで血塗れになったので少し寒いが水源で服ごと体を洗っていると、その間にカインが今捌いたウルフ肉の調理を始め、周囲にいい匂いが漂い始める。
「てかお前まで服ごと入って洗ってよかったのか?」
「うん、ここなら腰くらいまでしかないし、着替える前に体も洗ってしまいたかったし」
「いや、お前がいいならそれでいいが……色々透けてるぞ?」
こちらから微妙に目線を逸らしながら仁にそう言われて見てみると、ずぶ濡れになったせいで確かに色々透けて見えている。と言っても着替えるには血だらけなので先に体を洗わなくちゃいけないし、裸で入るとそれ以前の問題になる。
「でも他に方法が無いし、中身は男同士だからいいでしょ」
そんなこと言いつつ指摘されるとちょっと恥ずかしくなったので急いで体と服を洗い、ずぶ濡れの服を着替える頃にはウルフの肉はご馳走に変わっていた。
匂いはキツかったが自分たちで獲って解体したせいだろうか、普通の肉より美味しく感じるウルフ肉の食事を摂る。
でも当然可食部位全部は食べきれないので、残った分はまたミルドラの腹の中に収まることになったのだが。
食事を摂り終わるとミルドラに乗って日が暮れる前に城への帰宅の途に就いた。
例によってカインは帰ってからの仕事の事を考えてか暗い笑みを浮かべていたが、この辺は子供の特権として許してもらおう。
お城に帰り着くと中は俄かに騒がしく、帰り着いて早々にカインも兵士に呼び出され連れて行かれてしまった。
「何かあったみたいだね」
「そうみたいだな、ご苦労なこった」
普段この時間帯は勉強しているのでロバートに帰ったと報告するのはもっと後の方がいいだろうし、とりあえずメイドさん達に持って帰った着替えを預けて一旦僕達の部屋に戻ることにした。
メイドさん達に着替えの服を渡すと案の定お転婆と笑われてしまったが、これはもう仕方がない。
「なんだかんだこの部屋にいると落ち着くね」
「そうだな、それに最近は出突っ張りだったしな」
一週間振りのベッドに転がり込むと、疲れからかすぐに眠気に襲われる。最初は抵抗していたが、隣からも寝息が聞こえだすと夕飯までまだ時間があるしいいよねと僕も眠気に負けてしまい眠りに落ちてしまった。
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