第41話
色々あった秋を越え、冬を迎えた庭にいつも通り木剣がぶつかり合う音が響く。
「ほらほら、剣を振る事にだけに意識が行きすぎてるぞ。もっと相手をよく見て、それを倒すイメージを持て」
「は、ハイ!」
言われた通りカインの動きを良く観察する。いつかのハゲやロバート達とは比べ物にならないくらい動きが速いし、一挙手一投足に無駄も隙も無く、どう見ても手加減してくれているのに全く付け入る所が無い。
(これを倒すイメージって一体どうすれば良いんだろう?)
正直、現状全てにおいて負けていて勝ち目らしい物が見当たらない。これで一体どうすればいいのだろう?
いや、もう考えていたって埒が明かないのでいっそ開き直る。最速で距離を詰めてフルパワーで斬る、今の僕にできるのはそれくらいしかない。
真っ直ぐ行ってカインを斬るイメージを頭の中で固める。なけなしだが最近できるようになった魔力制御で両腕と両足に魔力を回してみる。何か意味があるかは分からないが、何もしないよりいいかもしれないし。
「行きますッ!」
カインに向けて一直線に全力で突っ込む。芸も技量も無い、純粋な力と速さだけを求めた一撃。
「着眼点は悪くないが、まだまだ甘い」
カインもこれを避けずに正面から迎え打ってきて、僕の全力の一撃は最も簡単に弾かれてしまう。
「これはご褒美だ!」
弾かれて隙を晒した腹部にドフッと強烈な拳をもらい、錐揉みに宙を舞った挙句墜落する。腹部の激痛に、僕は惨めに地べたでもがき苦しむ事になった。
カインは最近遠征から帰って来たがしばらくは城を離れられないらしく、山籠りには連れて行けなくなった代わりにこうして庭で相手をしてくれ過ごしている。その代わり、忙しいからか顔には疲労の色が見える。
「う〜ん、まだ駄目か。最近魔力の流れの制御はできるようになったんだろ?だったらもうそろそろ身体強化もできそうな気がするんだがな」
「や、やっぱりもっと具体的なイメージじゃないとダメなんでしょうか?」
ヨロヨロと立ち上がった僕の返事に、確かにそうなんだがそれだけじゃ無い気がするんだなとカインが首を捻る。
「そうだ、今度は筋トレで試してみるか」
カインが何かを思い付いた様にポンっと手を叩くと倉庫からバーベルを取り出してくる。基礎体力を鍛える時には僕もお世話になったやつだ。
「こいつに普通のお前じゃ絶対持ち上がらない荷重を掛ける」
そう言ってカインがバーベルに過重用のプレートを付けていき、見ただけでも上がらないと分かるバーベルが完成する。
「えっ、そんなの絶対に持ち上がらないじゃ無いですか」
「ああ、だが身体能力の強化が上手く行けば上がるはずだ」
後は持ち上げるイメージをしっかり持てよと言うと、カインが僕からすればとんでもない荷重がかかっているバーベルを簡単に持ち上げてみせる。
「良いか、これが持ち上げるイメージだ。明日からこれを俺やゴーレムとの戦闘前に毎日持ち上げてみるんだ」
これならこの前みたいに激しい運動が禁止されてもできるしなとカインが笑う。
「なんか無茶苦茶な事言われてるけど、今日はもう終わろうよ。ボルドーが待ってるよ」
お昼から庭に出て来ていたロバートがそう言って勉強会へと誘ってくると、それを聞いた仁の奴も上がってくる。
「チェッ、もう少しであの障壁を突破できそうなんだけどな」
「噓吐け、全然簡単に弾かれてるじゃないか」
「ウルセェ、ぶっ飛ばされてばっかりのお前よりは近いわ」
そんな話をしながら二人とも汗を拭き、いつも通りロバートと共に勉強会へと向かう。
そしてその日の夜、僕達の元にアルコーズ王立学校から手紙が届いたとカインに呼び出された。
「時期的にも合否判定で間違えないだろうな」
そう言うカインの顔には昼間にも増して疲労の色が見える。僕達と別れてからはずっと事務仕事をしていたのだろう。
「これで俺だけ受かってたらお笑いだな」
そう言って仁が先に封を開け始める。
「それは僕のセリフだよ」
一拍遅れてこちらも封を開けると数枚の紙が出てきた。
一枚目の紙を見てみると、つらつらと時節の挨拶などの文字が並ぶ中、途中に一回り大きく合格の文字があった。
「よっし!」
それが分かった瞬間小さくガッツポーズを取る。横を見ると仁もポーズこそ取ってないがその表情は明るい。
「その様子を見るに2人とも合格してたみたいだな」
「はい、無事受かってました。皆さんのおかげです」
「俺は元々落ちる気なんかなかったけどな」
僕達の返事を聞き、カインがおめでとうと讃えてくれる。
とりあえずこれで一番の懸念事項はクリアだ。他の紙にも目を通すと入学までの過ごし方や準備などが書いてある他に、制服等学校指定の物を各自用意しておくようにとの記述があった。
「制服を用意しないといけないんだね」
「学校見学に行った時にも生徒は制服着てたしな」
そう言えば学校見学に行った時には黒い制服組と白い制服組がいた気がするけど、僕達はどちらなんだろう?
「後はペロが受かってればいいね」
「そうだな、今度の日曜学校の時聞いてみればいいんじゃないか」
まぁ確かにそれしか方法は無いのだが、受かってれば良いけど受かってなかった時が申し訳無くなるのが怖いんだよね。
「それより早く部屋に帰ってロバートに伝えてやろうぜ」
「それもそうだね、ロバートも気にしてたし」
そう言ってカインに寝る前の挨拶をしてから部屋を出て、ロバートに報告するために僕達の部屋へと帰る。
部屋に戻り、いつも通り遊びに来たロバートに合格を伝えると、我が事の様に喜んでくれたのだった。
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