第12話

 「よう、思ったより時間かかったじゃないか」


 教会を出て、待ち合わせ場所にしてた教会から見えるカフェに向かうと、露天になってる席でカインが待っていた。どうやらくつろいでいたらしくコーヒーを飲んだ後がある。


 「すいません、お待たせしました」


 「誰かのせいで時間かかってすいません」


 仁はどうやら相当根に持っているらしい。全く、しつこい男はモテないぞ。


 「構わないさ、それにここはパイが美味いんだ。丁度お昼だし食べて行かないか?」


 特に断る理由もないしご馳走してもらうことにすると、カインは店員を呼びなんか名前が長いパイと、飲み物を人数分注文してくれる。


 「どうだった日曜学校は?」


 「それが、僕達文字が読めなくて良く分からなかったです」


 「なんだ、お前達文字読めなかったのか」


 カインは驚き半分呆れ半分と言った具合だ。この世界の識字率はどの程度なのだろう?


 「ロバート様に頼んで文字を教わらないとな」


 流石の仁もカインの前では呼び捨てにしないらしい。言ってることはパシリだが。


 「そうだ、ロバート様と言えば最近仲良くしている見たいじゃないか。ジョン様も喜んでたぞ」


 注文したものがテーブルに並ぶと、カインがパイを切り分けてくれる。パイは何やら牛肉が詰まっているらしい。断面が肉汁でテカテカしている。


 「はい、数日前ロバート君が僕達の部屋にいらしてからは、毎日のように部屋にいらしてますね」


 あれ以来、ロバートは仁の言いつけを律儀に守って毎晩来ている。関係だけを聞くと友達というより舎弟のようだ。


 「仲良くしてくれると俺もお前達を拾った甲斐があったってもんだ、これからもよろしく頼むぞ」


 「なんだ、俺たちってそのために拾われたのか?」


 仁の言葉にカインが苦笑する。こいつは本当に遠慮と言うものを知らないらしい。


 「違うとは言い切れないかな、もちろん前にも言ったがそれだけでもないが。それより、最近はロバート様が一人きりの時間が増えてな、元々人付き合いが苦手な方だったが更に塞ぎ込んでいたからどうにかしてやりたくてな」


 「最近はって、昔は話し相手がいたんですか?」


 あの様子だと他に友達らしい友達はいそうに無かったんだけど。


 「あぁ、姉のロッテ様と兄のロンデル様がいらしたんだ。アスカが貰ってたお下がりはロッテ様のものだな」


 前から素材は良さそうだと思っていたけど、どうやら僕の服は貴族様のお下がりだったらしい。


 「じゃあ、その二人はどうされたんです?」


 「ロッテ様は結婚、ロンデル様は王都プロテアの学校に進学されてな。お二人がいなくなったことでロバート様が一人になってしまったんだ」


 そこに転がり込んできたのが孤児になったお前達だったって訳だと言い終わるとカインは切り分けたパイを口に運ぶ。


 「ふーん、じゃあそれ以外の理由ってのはなんなんだ?」


 今までパイを食べていた仁が口を開く。それにしてもこのパイ肉厚ジューシーで美味しい。


 「まぁ色々理由はあるんだが、パイも無くなったしそれはまた今度な」


 いつの間にかテーブルの上のパイは綺麗に無くなっている。確かに美味しかったが、ジューシーすぎてあまり食べられなかった。元の体ならもっと沢山食べられたのに。


 「さ、それじゃ今度は買い物に行くか。せっかくだからバンクシアの大通りに行こう」


 初めて聞いたが、ここの城下はバンクシアと言うらしい。と言うことはお城の名前はバンクシア城なのだろうか?


 「それじゃ行くぞ」


 支払いを済ませてきたカインに先導されてバンクシアの街を歩く。


 ロバートの話ではこの街は城を中心に円状に広がっているらしい。どうやらこの国ではそういう都市が一般的なんだとか。


 途中までは朝来た道を帰る。段々道行く人の数が増えてきたので、カインと離れないように注意して進む。


 途中、朝とは一本違う道に入りしばらく歩くと、程なく開けた大通りに出てきた。街の中心には大きな城が見え、反対側には高い壁が見える。


 「ここがこの街の目抜通りだ、買い物なんかする時はこの辺が便利だな。ただ、一本入ると治安が悪い通りとかもあるから気をつけろよ」


 通りは広いがその分行き交う人も多く、人の見た目もそれぞれだ。中には獣人なんかの人では無い種族もいるようで、ケモ耳が生えてる人や、やけに小さい人なんかもいる。


 そんな行き交う人を目当てにか露店なんかも多く出ていて、売り子の声の喧騒といいなんとも画期のある通りだ。


 「それで、どこで買い物するんだ?」


 「特に決めてないが、この道を城に帰りながら見ていけば大体揃うだろう」


 無責任な見立てで歩き始めるカインの後ろを、とりあえず逸れないように着いて歩く。


 実際、歩きながら買い物していると服屋や雑貨屋など多種多様のお店が立ち並び、買い物するには困らない通りだ。


 見た目が子供だからか、やけに食べ物の屋台から声を掛けられる。なるほど、先に食事にしたのはこう言うのの対策もあったのかも知れない。


 結局、買い物は服屋を中心に三店舗程立ち寄り、幾らかの着替えを購入することができた。どうやら袋は紙袋が主流らしい。それは良いんだが…


 「ここは流石に外で待ってるから、アスカ一人で見てくると良い」


 カインがそう言った店は女性向け下着を取り扱う専門店、そりゃ入りにくいよね、僕もできれば入りたくない。と言うか、本気で入りたくない。


 「え〜と、ぼ、僕下着は大丈夫かな〜」


 「シアンがアスカはきっとそう言うだろうからちゃんと買って来てくださいって言ってたぞ」


 ペロちゃん、君のお姉さんは君の心配どころか僕の想像以上にしっかりメイドさんをしているよ。


 「ほら、諦めてさっさと入ってこい」


 仁に背中を押されて無理やりお店に入れられてしまう。さっきの恨みからかどことなく当たりが強い。


 「いらっしゃいませ〜」


 お店に入ると扉の鐘の音と女性店員さんが出迎えてくれる。うぅ気まずい…とりあえず急いで何着か買って出ていってしまおう。


 そう思い、店内をコソコソ物色しようとするがそうは問屋がもとい服屋が卸さない。


 「お客様〜こう言うお店は初めてですか」


 子供が一人でキョロキョロしてるからか、すぐに店員さんに声を掛けられてしまう。


 「え、えぇと、僕サイズが合う下着を買ってこいって言われて…」


 そう言うと店員さんがポケットから紐状のメジャーを取り出し、素早く体のサイズを測って、いくつかの下着を見繕ってくれる。


 「こちらはキャミソールと今流行りのブラが一体化した物になります。お客様にはまだ少し早いですけど、すぐに必要になると思います」


 「は、はぁ」


 その後もいくつか説明してくれたけど、恥ずかしさや用語が理解不能で耳を右から左に抜けていってしまう。


 結局お勧めされた下着を数着そのまま購入してきてしまった。

 お金の単位がよく分からなかったが、とりあえず渡されてた紙幣を一枚出すとそれでたりたようでいくつかの硬貨を返される。通貨の単位も覚えないといけないな、これは。


 買い物を終えお店を出ると、仁とカインが棒に刺さった何かの肉を食べながら談笑していた。


 「お、お待たせしました…」


 「なんだ意外と早かったな、もう少し掛かるかと思ったぞ」


 仁が肉を口に運びながら言う。誰のせいで中に入ったと思ってんだ。


 「ほらアスカの分も買ってあるぞ、山羊肉だ」


 お肉が突き刺してある棒手渡されたので、引き換えにさっきもらったお釣りを返す。もらったはいいけど食べ切れるかな?


 「あとは勉強道具を買って帰らないとな」


 「あれ、仁にしては珍しくやる気じゃん」


 昔から勉強嫌いだったくせに、今回はやけにやる気だ。


 「やる気なのは良いことだ、どうせ必要になるしな。文具屋に寄って帰るか」


 そう言うとカインは再び歩き始める。そうだ、ついでにロバートにお土産でも買って帰ってあげよう。

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