第13話

 日曜学校から帰って、ロバートが来るのを部屋で待っていると軽いノックの音が響いた。恐らくロバートが来たのだろう。


 「どうぞ、開いてますよ」


 「失礼致します」


 しかし、部屋に入ってきたのはロバートではなく一人の老人だった。


 ジョンよりも年上なのは間違いないと思うのだが、キリッとした立ち姿といい、キッチリしたシワ一つない身だしなみといい、歳を感じさせないジェントルマンだ。


 「お初にお目にかかります。私はジョン様に仕える執事のボルドーと申します。アスカ様とジン様ですね?」


 「は、はいそうですけど、僕達に何の用でしょうか」


 「ジョン様とアメリア様がぜひ一度お会いしたいとの事でしたのでお呼びに参りました」


 仁と顔を見合わせる。ジョンが?もしかして僕達何かしでかした?


 とりあえず断ることはできそうにないので、部屋着からできるだけ綺麗な服に着替えてボルドーについて行く事にした。


 ボルドーについて歩くと普段は通らない階段を登り、一つの部屋の前に案内される。


 「ボルドーです、二人をお連れしました。


 「うむ、入ってくれ」


 ボルドーが扉をノックし中からの返事を聞くと僕達を部屋に通してくれる。


 広い部屋の中には立派な家具や高そうなワインなんかが置いてある。どうやらここは応接室らしい。そしてソファの上にはロバートを挟むようにジョンと、ジョンより少し若いくらいの綺麗な女性が座っている。


 「し、失礼します」


 「よく来てくれたねジン君アスカちゃん、一週間ぶりくらいかな」


 ジョンが切り出す。口調は穏やかだが、なぜ呼ばれたのか分からないので恐怖心しか湧かない。


 「はいジョン様、それで本日は私達に何用でしょうか?」


 流石の仁もジョンの前では敬語を使っている。これでタメ口だったら僕の胃は壊れてたかもしれない。


 「そんなに緊張しないでくれ。最近ロバートとよく遊んでくれているようだし、妻のアメリアも君たちに会いたがっていたからね。日頃のお礼も兼ねて呼んだんだ」


 「私がアメリアよ、よろしくね」


 ロバートの隣に座っている女性が名乗りながら軽く手を振る。


 「ぼ、私はアスカと申します。お会いできて光栄です」


 「私はジンと申します。お会いできて光栄です」


 ふ〜ん、とアメリアはイタズラっぽく笑いながらこちらに歩み寄ると、値踏みするように見てくる。


 「可愛い〜!ロッテとロンデルが小さい頃を見てるみたい」


 僕と仁は二人まとめてギュッと抱きしめられてしまう。何何、どう言うこと⁉︎


 「すまない、アメリアは大の子供好きでな。ほらアメリア、離してやらないと二人が困っているだろう」


 ジョンが言うとアメリアは渋々と離し座り直すと、名残惜しいのか代わりにロバートの肩に手を回す。


 「話を戻そうか、おかげで最近はロバートも元気付いてね。昨日も」


 「と、父様その話はいいから、今日は二人に聞きたいことがあったんでしょ?」


 よほど聞かれたくない事なのか、ジョンの話をロバートが急いで遮る。


 「そうだな、実は二人に聞きたい事があったんだ。二人はプロテアにある王立学校については知っているね」


 「学校ってロンデル様が通われてる学校の事ですか?」


 ああ、とジョンが頷く。その学校が一体どうしたのだろうか。


 「ロバートも二年後には貴族科学校に通うことになる。その際、君達にも一緒に通ってもらえないかと思ってね」


 ジョンが切り出す。学校に通えと?僕達に?


 「でも私達、貴族じゃないですよ?」


 「おや、カインから聞いてないかい?同じ学校に騎士になるための学科もあるんだよ」


 それは初耳だ。カインはただ学校があることしか話してなかったし。


 「お話は嬉しいのですが、申し訳ございません。それは私達だけでは決めかねます」


 仁が断る。まぁそうだよね、一応今の僕達はカインの子供なんだから勝手に決めるわけにはいかない。


 「まぁ今すぐに決めてくれなくても構わないよ。ただ、貴族科とは違い騎士科には入試があるからね。決めるのは早いに越したことないさ」


 えっ、入試があるの?文字の読み書きができない今の僕達にそれはまずい。


 「あの私達、入試以前に文字の読み書きができないのですが…」


 「何?それはいけないな、生活にも支障をきたすだろう。ボルドー、任せたぞ」


 「承知いたしました」


 ボルドーは今の会話だけでジョンが言いたいことが分かったらしく、恭しく頭を下げる。


 「さ、それではお二人とも行きますよ」


 言うが早いが僕と仁がボルドーに肩を掴まれる。えっ、何?僕達一体何されるの?


 「ごめんね巻き込んじゃって」


 「またいつでも来なさい」


 「待ってるからね〜」


 三人に見送られながら部屋を出る。


 その日、僕達が眠れたのは太陽が昇ってからだった。

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