あの子はテレーゼ

高校1年生の冬、あたしは隣のクラスの男子に呼び出された。
「俺にピアノを教えてほしい」
唐突な申し出に困惑するも、魅力的な報酬に飛びつくあたし。
そして始まる、「師匠と弟子」の関係。――しかし、「弟子」には秘密があった。

「ピアノのレッスン、どうかもう終わりにしてあげてはいただけないでしょうか。それがあの子のためなんです」

「プロになれるわけでもないのに、そんなにお金と時間かけてさ。結構な御身分だよね」

「クラシックはね、『共感』の繰り返しなの。曲の向こう側の、作曲家の人生や思いに寄り添って、理解して、共感に共感を重ねていく作業なんだから――あなたにそんなことができるとでも？」

時に周囲とぶつかりながらも、自分の中の音楽を見つめなおす日々。それは、「弟子」だけでなく「師匠」もまた同じ…続きを読む