あの子はテレーゼ
まんごーぷりん(旧:まご)
序奏
さて、今日の一曲は何にしようかしら
8畳の部屋とオレンジ色のランプ。規則的な音を立てる昔ながらのメトロノーム、そして、黒く光るグランドピアノ――必要最小限の設備が備わった心地のよいこの部屋で、今日もあたしは楽譜を広げる。
青と紺の間のような、わずかにくすみを帯びた色合いの表紙である。電話帳のような厚さで決して持ち運びに適したものではないが(しかも、この分厚い楽譜は2冊セット)、ここ最近のあたしはいつもこれを持ち歩いている。
ベートーベン ピアノソナタ集。あたしのピアノ人生の半分近くは、こいつと共に歩んできたといっても過言ではない。
「彼」は委員会の後にここに来るから、あと30分くらい猶予がある。それまでに、少し練習をしておきたい。ピアノソナタ集第2巻の中ほどに、「Sonatine」と記された1曲がある。うん、今日はこれにしよう。
ピアノソナタ第25番 ト長調(作品79)。『かっこうソナタ』という愛称で、一部のピアノ愛好家には親しまれているが、知名度は低い。比較的易しい、小規模な曲なので、少し練習すれば思い出せるに違いない。
快活なオクターブの連続でスタートする第1楽章はとても愛らしい。ベートーベンの楽曲には重厚なイメージを持つ人が多いが、良い意味でそういう期待を裏切る曲だ。曲の中腹辺りに登場する、特有のテクニック――これが「かっこう」と呼ばれるようになった所以である――は、弾いていてクセになる心地よさ。
そう、「彼」にはこういう意外な1曲をお届けしていきたい。ベートーベンって、「悲愴」だけじゃないんだからね?
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本日の1曲
ベートーベン ピアノソナタ第25番 ト長調(作品79)
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