:第二章≪望みを叶えることは誰かを犠牲にすること。それが嫌だと気が付いた時、それは自分が犠牲になる番だ、そうやって、世界は譲りあって出来ているんだよ、少年。≫
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:第二章≪望みを叶えることは誰かを犠牲にすること。それが嫌だと気が付いた時、それは自分が犠牲になる番だ、そうやって、世界は譲りあって出来ているんだよ、少年。≫
1
――地面が大きく揺れた。
まるで十年前に感じたあの地震のように、俺は立っているのもやっとな程の振動に耐え、その光景を見ていた。
いつものダンジョン前、塔の前に高く広く長く続いた真っ白な階段の中心が崩れ、中からは、蛇の大口のようにぱっくりと開かれ下る階段が出現した。低く狭く深淵に伸びたその階段は、塔の最上階とは真反対、地下へと伸びていた。
「「「なんだ!? どうした!!」」」
先程の振動で周りの住民たちが起きたのか、こちらに向かって歩いてくるが、ある一定の距離から踏み出すことはなく、まるで、そこが自身の認知からすっぽりと抜け落ちたかのように、当たり前と言わんばかりに誰もこちらへは近寄らなかった。
よく地面を見ると、いつの間にか土偶のような小さい人形が円形に置かれており、そこから立ち入ることができないようだった、認知の外側。
認識を歪める、結界…。ユニークアイテムか。
俺たちは誰が言うでもなく、その地下への階段を下り始めた。
この先はまだ誰もクリアしたことのない、何が起こるかわからない、まだ見ぬ世界。
通常のダンジョンと違い、地図はなく、決まったルールや常識の通用しない場所、もし重篤な怪我や何かしらの緊急事態が起きようと、それを助けられる救急隊は居ない、ましてや管理もされていないダンジョンには何が待ち受けているか分からない。
モンスターやトラップ、どこにどんなものがあるのか、何に気を付ければいいのか、一切の情報がない、まさに未知の世界。
そんな危険な場所へ、俺は一歩、また一歩と踏み出していく。
どくんどくんと心音が早い。破裂しそうだ…。
暗い深淵に足を踏み入れると、不安のような、それでいてどこかフワフワする浮遊感にさいなまれる。
最初は恐怖だと思った。
でも違った。
そうか、そっか…これが、これが未知か――!
熱くなる心臓を握りしめて、俺は未知なる世界へ挑戦する。
「はあ…はあ…ダグ! ダグいるか!! すみません、このくらいの小ぶりな身長の、黒髪の少年を見ませんでしたか?」
深淵への階段は、深く長く続いていた――。
「ん? ここで終わりみて―だな」
『そうみたいだね!』
暗く、何時間か下り続けた階段は急な行き止まりに差し掛かっていた。
いや、正しくは巨大な岩石に塞がれていた。
俺は手に持っていた松明をかざすと、火はゆらゆらと塞がれた方へと傾き、耳をすませば、かすかに風音が聞こえている。
「この先は外につながってるみたいですね」
『うむ、バビルス! お願いするよ!』
外、というかダンジョン内部の空間なんだろうけど。
下らない訂正を思い浮かべていると、バビルスは塞がれた岩石に両腕を突き刺し始めた。
なっ…!
これでも相当ありえないと驚いていたが、バビルスは力を籠めると、なんとその大岩は大きくひびが入り、しまいには砕け散ってしまった。
え…いやありえない。こんなの人間技じゃない!
スキルや道具すら使わず、素手で…しかも腕力だけで岩を破壊するなんて…、少なくともこの階段は上下四メートルはある、破壊された瓦礫の幅の大きさからして奥行ですら七メートル近くはあったはず、考慮すると直径七・八メートルの大岩を筋力で破壊する……。
なんて…。
なんて凄いんだ!! これが勇者に一番近い男のパーティメンバー。
うっ…!!
驚嘆していたのも束の間、俺は岩が崩れたことによって差し込んだ光に目を突き刺された。
「なっ……なんだよ、これ」
思わずこぼした独り言は、その、広大な世界に飲み込まれていった。
俺は構わず外へ駆けていくと、息をのむような光景に、驚きと興奮が入り混じったような声で叫んでいた。
「す、すげー…これは、これはまさに<砂漠>だ!!!!」
目の前に広がるのは、岩石砂漠と呼ばれるような、巨大な岩と砂の世界が広がっていた。
◇ ◇ 地下-(マイナス)一層<白夜砂漠> ◇ ◇
吹く熱風が体を撫で、チリチリと燃えるような日差しが肌を刺す。
むき出しの岩肌には何層もの地層が描かれたものや、細かく詰みあがった階段状の物まで様々な様相を見せ、神秘的とも思えるような過酷な世界が俺の心をさらに躍らせた。
資料で読んだことしかなかったけど、これが砂漠か…本当に砂だ、土がない。熱い、焼ける様だ!! すごい、ホントにこんな世界があるなんて!!!!
『急ごうか!』
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