23
リムの号令に合わせて、全員が歩き始める。
掴んだ砂を払い、そのあとを追うように俺もまた、嬉々として歩き始める。
ザッ…ザッ…ザッ…ザッ、ザク。 ザッ、ザク、ザッ…ザッ…ザッ、ザクザク。
「はあ、はあ……ん、ぐう、はあはあ」
砂を踏みしめる規則的な足音に、ひとつ、まばらな足音を響かせる。
「ちょっとアンタ、さっきからうっとおしいよ」
汗一つかくことなくこちらに向かって立っていたヘレナは、腰に手を当てながらそんな罵声を浴びせてくる。
時間間隔の無くなるほど、この見渡す限り広大な砂漠地帯を歩き続け、俺は疲弊しきった足を止める。
はあ、はあ、ココ地下…だよな……。
おかしい。
さっきまで興奮していて気が付かなかったが、ここはダンジョンの中だということに今更違和感を覚えた。
目の前にはヘレナさん達が足を止め、こちらを見る三人が見える、そして、それを浮き立たせるように大きな砂丘が眼前へ広がっていた――。
振り返ると、今まさに上ってきた大きな砂丘の斜面から見下ろすように、地平線のかなたまで広がる黄色い岩石砂漠が何処までも続いている。
こんな広大な空間、維持するだけでも天文学的な魔力量が必要だ。
それに、そもそも空があること自体がおかしい。幻覚か? それとも、動く絵か? どちらも考えたが、この暑さは本物だ、刺すような日差しは入った瞬間から感じていた。
ダンジョンはどこまで頑張ったところで、閉鎖された空間で無くてはならない、それが迷宮(ダンジョン)というものだ…、だが、あの高く上る太陽は一体何なんだ…。それに、太陽というのなら沈まなければいけないはずだ、だが、丸一日は歩き続けているはずだが、沈む様子はない。
じゃああれは太陽じゃないのか?
おかしい、おかしすぎる。ここでは常識がまるで通用しない。一体何なんだここは!!
「はあ…はあ……、いつまで歩けばいいんだ」そこまで考えて、俺は血を吐くように嘆く。
上空には澄み切った青空に似つかわしくない殺人的な太陽。上からも、熱され続けた砂丘からも炙られ、とうに体力の限界を超えていた。
『やはりヘレナはやさしいな!』
「ククッ、ああ、ちげーねー」
「黙って歩きな、アンタたち」
「……ゲホッ…くっ」
やさ、しいのか? しかめツラを崩さないヘレナは「クラム、アンタ同じ後衛なんだから、コイツの面倒も見ておやりよ」と深くローブをかぶった、見ているだけで暑苦しい恰好のもはや動くローブは返事を返さず、だんまりを決め込んでいた。
暑く…無いのか? いや、それよりもベルさんたち、始めからペースが変わってない、それどころか顔色一つ汗一粒かかずに歩き続けてる……。確かに、俺は他の人よりも弱い、弱いと思うが、それでも汗一つかかないというのは、相当な熱耐性がなせる業だろう。
俺とは根本(パラメーター)がまったく違う。
大丈夫です。
言おうとして、からからに乾いた喉に空気を送るが、ものすごい勢いでむせた。
ヘレナのため息が聞こえ、直ぐ後に筋骨隆々なバビルスの笑い声が砂丘に消えていく。
ベルさんはいつも通りにこにことしているのだろう。
そう思い、顔を、――上げると。
ベルさんたちの後方、頭上よりも一メートルほど上に何かが居た。
ベチャベチャ…。
口の部分に当たるのだろうか、吸盤の付いた触角が髭のように垂れ、そこから粘液が滴り落ちる。 五メートルは超える蛇のような体に、背中にはマントのようにかぶさった黒い皮膚。
そして、顔の中心には左右からピタリと閉じた巨大な一つ目が付いていた。
「あッ…ああ……」
そこには、<傾き者(ニグ=ニサ)>が佇んでいた。
ビチャビチャ、ビチャビチャビチャビチャ…!
触角は震え始め、マントのように伸びた皮膚は脈動しながら大きく体と共になびき。
巨大な一つ目が開――――。
「まっ、マズッ…!」
俺は急いで目をそらそうとするが、ニグ=ニサの眼は勢いよく開かれ。とたんに天地がひっくり返ったような衝撃に見舞われる。
自分が今、立っているのか、座っているのか、はたまた、左右のバランスは、しっかりと、とれているのか。。たいてっ失を覚感衡平てしに瞬一は俺
イイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!
左頬に地面を張り付かせ状況を確認しようと、声のする方向を見た、次の瞬間、ニグ=ニサは体液をまき散らしながら絶叫し、いつの間にか居なくなっていたヘレナさんはニグ=ニサの眼球に短剣を突き立て、張り付いていた。
早い。それになんて野性的な動きなんだろう。
「眼だけはキレイな色してるんだけどね、うおっと…?」
そのまま暴れるニグ=ニサの眼球に何度もなんども短剣で突き立てると、たまらず頭突きをするようにヘレナさんごと地面へ叩きつけようとするが、それに気が付いたヘレナさんは躱すため、そこから離れようと足に力を入れるが、足首を触手にからめとられ、気が付いた時には風切り音を立てて、そのまま地面へと、衝撃をいなす術もなく叩きつけられてしまう。
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