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 辺りはすっかり暗くなっていた。

 俺たちは話した、面白くもない俺の話しも、トウカは真剣に聞いてくれた。

 寝転びながら、今までの分を埋めるように、それはもう話した。


「ねえダグ、これからは心配いらないよ、私がちゃんと…その、支えてあげるから、そうだ! 明日は私と一緒にダンジョンに潜ろう! えっとそれから、ダグがギルドに入れるように基礎トレーニングと、スキル構成と、あ、そういえば私のパーティメンバーも紹介――」

「……」


 お前が俺のこと贔屓するから、この前は喧嘩になったんだけどな…。いや、今はいいか、そんなこと。

 はあ、なんだか軽くなった気がする…。

 深呼吸もしていないのに、冷えた空気が肺に入り、いつもより深く息を吸える気がした。

 ホントに、こいつには助けられてばっかだ、こいつはいつも俺に勇気をくれる。

 なんだかこの感じも懐かしい。


「そういえば、ギルドで喧嘩した後、俺を家まで運んでくれたの、お前だろ? ありがとうな」

「ああ、あの喧嘩した後、痺れ薬打って気絶したときね」


 …正しくは、そうだな。


「あ、あれ? 聞いてないの? ダグを運んだの、私じゃないよ?」

「…………え?」

「おかしいな、知ってるもんだと思ってた」

「い、一体だれが…?」

「ベル様だよ」


 …………


「聞いてる? どうしたの? ダグ」

「あ、いや、何でもない」


 俺はダンジョンを見る。

 そういえば、十年前、ここで俺たちは約束したんだっけか。


「…約束、ここでしたんだったよな」

「あ、覚えてて…」

「当たり前だろ、あんなに痛てー思いして忘れられるかよ。今日みたいにボコボコにされて、昔のお前、手加減とか知らねーからさ、言ってなかったけどよ、あばら折れてたんだぜ?」

「え、そうだったの!? …ごめん」

「ハハッ、いいよ、それくらいじゃねーと俺の方が折れちまうところだった、ありがとう」

「――うん! また折れそうだったら、私が何度でもヘシ折ってあげる!」


 トウカは得意げに笑みを浮かべると、そんなことを言った。

 それは勘弁願いたい、ホントに。


「もう一度約束する『俺たちは、リムの遺志を継いで、――冒険者になるんだ』」

「うん、うんっ!」


 ……。

 その為には、やらなきゃいけないことがある。

 俺は、俺を変えるために…。

 心配してくれてありがとう、支えてくれると言ってくれてありがとう。

 もう、大丈夫。

 辛くて苦しくて悔しい今を、過去を変えることはできないけど、今この瞬間を変えることはできる、だから、その為に、<今と向き合う>んだよな。


「今日はもう帰る、お前も帰れ」

「そうする、じゃあまた明日」

「……、ああ、また明日だ」





『ダグ少年! どうしたんだい、こんなところで!』


 祭りの屋台は撤収を終え、ゴミと、街の熱気だけが残ったダンジョン前に、ベルさんは立っていた。

 フルプレイトの鎧を着込み、他三人の仲間を連れて、そんな感情のこもっていないとぼけた問いを投げかけてくる。


「ベルさん、コレ」

『ん? コレはブラックチケットじゃないか! 何処で手に入れたんだい? もしかして拾ったとかかな?』

「……。」

「ベル、ありゃあバレてんじゃねーか?」


 ベルさんの仲間、左隣にいた焼けた肌の戦士風の男は、カラッとした態度でベルさんの肩に手を置く。


『うむ…………確かに、君には意味がないか! ハハッ!』

「分かってたんですよね、俺が持ってたこと。トウカから聞きました、俺が痺れ薬を打ったあの日、ベルさんは俺の部屋でこのチケットを見つけた」

『うむ…!』

「待っててくれたんですよね、俺がこうして持ってくるのを」

『正解だ! 半分だけどね』


 ベルさんは俺の持っていたチケットをヒョイっと取った。


『ありがとうダグ少年! これで私達は裏ルートへ挑むことが出来る!』

「ベルさん! 俺も連れてってくれ!」


 間髪入れずに、俺はベルさんに頭を下げる、自分で言うのもなんだがキレイな直角九十度だと思う。


『……正解だ、ダグ』


 裏ルートには想像持つかない力が眠ってるという。

 俺はきっと、挑まないといけないんだ、リムの遺志を継いで、トウカの約束を果たすためには、俺は、そうだ、バカでグズでノロマな俺は、弱い俺は、絶対にここで変わらなきゃいけないんだ。


 ベルさんの仲間の一人、黒いフード付きのマントに、中には軽量化された胸当てと、足を覆うプレート、どれもモンスターの素材が使われている高級品を付けた、肩と足の筋肉が発達した肌の黒い女がズカズカとこちらにも歩いてくる。


「ベル、やっぱり反対だ、あんたは家に帰りな坊や、足手まといだよ」


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