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「え?」

『そのアイテムは人の器官を勝手に移動して植え付ける代物でね! 本来は使用者の近くにいる人間を対象に、使用者の破損部位をその近くの人間の同じ部位で移植するアイテムなんだけどね、まあすこし弄って、対象をある特定の人間に絞った、オリジナルのアイテムでね! こういう時に重宝するんだよ!』

「は? …………な、何ですかそれ! じ、じゃあ今俺の中にある脳の一部と三半規管は…、一体だれの――」

「聞かねーほうが良いぜ」

「なっ…!」


 なんだよそれ、完全にイリーガルアイテムじゃないか! ベルさんがそんなものを簡単に使うなんて…!


『戸惑う気持ちもわかるけどね! 少年! ただこれだけは信じてほしい、それの対象者は受け入れているし、痛みや苦しみは無い、強制してるわけでもないし、とにかく、表に出せないだけで、道徳的な観念から言えば大丈夫だと断言できる! 今はその説明で納得してくれないかい? 私たちには、今この力が必要なんだ! そうだろ!』

「あっ……。」


 そうだった…。

 受け入れられない、とうていそんなもの使っていいだなんて思えない、でも、これがなければ俺は終わっていた…。

 ジャリっと俺は頬についた砂を撫で、ぞっとした。


 結局はこれのおかげで助けられた。知らなかったとはいえ、使ってしまった事実は消えない。でも、確かに、俺たちにはこの力が必要だ。

 ごめんなさい。


 ほんの些細な行動で、俺は詰んでいた。

 これが、裏ルート。

 これが、ダンジョン。

 これが…これが、俺の望んだ冒険か――


 身震い。

 再び砂丘を登ろうと一歩踏み出す。

 だが、俺は何かに足を取られ踏み出すことができなかった。

 下を見る。


「なんだ…これっ…沈んで……!!」


 急いで周りも確認する。砂は、俺たちを中心にぐるぐると渦巻き、それがやがて、砂の壁のように周りを囲んでいた。

 これは、囲まれてるんじゃない――、俺たちが沈んでいる!?


「うわっ! くそっ!! やめろ!! くそっ、クソッ!!」


 罠か!? 足を取られて…もう上半身も埋まりそうだ!! 誰か…。

 そうだ! ベルさんたちは…………あ、あれ? なんで、何で何の抵抗もしてないんだ!? ヘレナさん! あの脚力があればこんなところ…、バビルス! あの怪力があればこの中を泳ぐことだって出来るはずだろ!! クラムは!? 姿が見えない、クソッ! ベルさん! ベルさん!!

 ベルさんは既に頭のてっぺんまで飲み込まれ、もがくこともなく沈んで行ってしまう。


 ウグッ…くそっ……こんなところで…こ…んな…………。






「ぷはっ!! …ゲホッゴホッ……うっ!!!!」


 あ、熱い!!!!


 喉に煮え湯を流し込まれたみたいに熱い! どうなってる、ここは……。

 ここは、一体どこだ。


 巨大な空洞に、巨大な飛び石のように続く足場。

 目もまともに開けていられないほどの熱気の中、目の前にはちらちらと赤やオレンジ、色とりどりの火の粉が飛び交い、岩肌がむき出しになった壁の所々から、滝のように溶岩が流れ出ていた。


 嘘、だろ…。あまりに苛烈な環境の中、俺の最初に出た感想だった。そして、さらに追い打ちをかけるように、地面の隙間からは赤赤とした溶岩の海が顔を覗かせていた。



◇ ◇ 地下-(マイナス)二層<奈落の溶岩洞> ◇ ◇



 はあ、はあ…パシッ!

 思わずこの熱気に急いで口を塞ぐ。

 口をふさぐ際に頭が揺れると、髪の毛に付いていた砂が滴り落ちた。


 ココは、そうか、あの渦に飲まれて、あの渦が先へ進むカギだったのか…! だからベルさんたちは何も抵抗しなかった。俺はてっきり罠だと…。

 って、ベルさんたちは…!


 もにゅう――。

 辺りを見まわすため立ち上がろうとしたとき、俺の肩辺りに、何か、なにか非常に柔らかいものが乗ってきた。


 思わず動きを止める。


 え…? 俺の両肩に乗ってる二つの膨らみって…。え? もちもちで、フワフワで、しかも何だか生っぽい。首筋に感じる湿り気を帯びた熱が、俺の思考と行動を静止させる。

 いや、でも、そんなわけはない。この状況で、俺は一体何を考えているんだ。


 俺が動けないでいると、両肩に小さな手が当たり、そのまま這うように体の前面を移動する。

肩から胸、胸から俺の小さな丘陵付近まで伸びるその手を、俺は意識せざる負えなかった。いや、意識を張り巡らせて追っていた。


 じゃなくて!!!! どうして俺は<クラムのローブの中に入ってるんだ!?>


「出れば死ぬ」


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