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「「「そんなことは分かっている。貴様があ奴らに比べて弱き者だということはな、だがそんな事はいいどうでもいい、自爆でも何でもして、我を助けろ」」」


 なっ…、なんて勝手なやつだ。


「「「ハッ、外の世界の奴らなんぞ、大多数は使えない虫けら同然だ、我には使命が、役割がある、それまでは死ねんのだよ」」」


 使命…。


「「「それに先程の会話だと、貴様どうせあ奴らに殺されるのだろ? ならば我を助けて死のうが変わりないではないか、つべこべ言わず、助けないか!!!!」」」


 …………。

 ごめんな、ドラゴン。助けてやれない。

 俺も、俺もこんなところで死ぬわけには行かないんだ、さっき思い出したんだ、なんで俺がここに来たのかを…。

 俺は、俺は冒険者になるんだ!


「「「冒険者…だと、それは…、世界中を駆け回り、旅をし、見て回る」」」


 あ、ああ、そうだ、冒険者知ってんのか?


「「「貴様、そのステータスでよくもまあ、そんな大きな口がきけたものだ。貴様には無理だ、諦めろ」」」


 いいや。

 …そんな言葉はもう、聞き飽きたね。

 確かに、俺一人じゃ無理かもな、今までは、全部ひとりでやろうとしていた、プライドのせいだ、けどな、俺は忘れてた、いろんなしがらみの中で、人を頼るって事を忘れてた。

 俺はもう諦めない、だから、お前に何と言われようと、必ずココから出て、冒険者になる。絶対だ!


「「「どうあっても諦めるつもりはないと…?」」」


 ああ、もう、嫌なんだ。


「「「……なるほど、たしかに…やはりこうなったか、仕方があるまい、提案だ。貴様、名は何という?」」」

「ダグ、俺は、冒険者<ダグ>だ!」

「「「そうか、冒険者ダグ。我は、お前たちがタブーと呼ぶもの、このダンジョンの支配者にして、王の器を見定める者なり、冒険者ダグ、お前は我を助けるのだ」」」


 な、なに?


「「「だが、我も貴様を助けよう」」」


 …!?


「「「これは契約だ、我々が助かる道はそれしかない。…お前のその勇気、なにより、真っすぐで大きなその器。あとお前に足らぬのは――力だ。」」」





 どくん。


「あ?」

『なんだ』


 どくん。


「お、おいこりゃどうなってんだ――!」

『そちらを、選んだわけか』


 ドクンッ…!!


「グッ…!! ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」


 俺の中に入ってくる。

 熱く、燃えるような力の本流。胸が俺の体の限界を超えて高温になっているのを感じる。このまま溶けてしまいそうだ。

 …ああ、熱い、あつい、アツい!!!! アツイアツイあついあついあついアツイアツイあついアツイ!!!!


 ――ヒルベルト。

 おそらくはそうだったんだろう。俺の胸を風が通り抜けたような気がする。

 見ると、そこには胸を刀で一突きされ、二つの風穴が空いていた。


 す、涼しい…。


「させるかよ!!!!」

『――バビルス! まずい!!』


 俺は、飛び掛かるバビルスに向けて、一歩踏みしめる。

 空間が歪んで見える程の高温。

 俺に振り下ろされた大剣は、俺には反応できないほどの早さだったが、それは皮膚に到達する前に焼け落ち、振り終わるころには、刀身だったものは無くなっていた。


 地面が揺れる。空気中の水分が蒸発し、あらゆる物体が原型を維持できなくなる。

 最高峰の熱耐性を獲得していたはずのバビルスの体は、俺に近い順から発火していき、ベルさんの髪は、何とも言えない焦げ臭い匂いを発し始める。


「ああ…ああああああああ!!」


 俺はバビルスに向けて腕を真横に振るうと、ガードしようとしたバビルスの腕を焼きながら、簡単に切断していく。


「アア…ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝!!!! うで……腕が!!!!」

『――! アレが、アレが契約者を得た、裏ルートの真の力…!』


 アツい。

 全身から発火し、俺の体は既に感覚がほとんどなかった。

 飛び込んでくるのは、苦痛に歪むバビルス、諦めと驚愕に満ちたベルさん、そして俺に先程から七色の火球を飛ばし続け、半分溶けかけるクラム。


 終わりにしよう、全部。


 ダン。


 俺は渾身の力を込めて踏み抜いた。





 ――地面は完全に焼けただれ、俺を中心にところどころ地割れが起こっていた。

 この辺り一帯、壁も、天井も、クリスタにまみれていたのは見る影もなかった。あらゆる物体が、焼け落ち、焦土と化している。


「あ˝、っい――――ん˝」


 喉を持っていかれたようだ。何故か眼は見えているが、俺の体は、自身の熱に耐えられず、見る限り、右半身が重篤な火傷を負っているみたいだ、感覚がない。


 目の前に転がる炭を見て、たぶんアレがバビルスだろうと思った、アレがクラム、――そして。


『ヒュー…ヒュー…』


 ベルさん。

 逃げるように倒れるその体には下半身が無かった。


『少年。そこにいるのか?』

「……。」

『少年、本当にすまなかったね、私には少年のように素直に生きることが出来なかった、様々な制約の中、自分を曲げてしまうことも多くあった…』

「……。」

『この立場になったことは、どれほどの意味があったのか、今となっては分からない。ただ、今回の件について言わせてほしい。』

「……。」

『今回のことは、…私から提案したのだ、計画も、全て私が立てた』

「……。」

『ふう…、ふう……。もう、そろそろ、次へ行かなくてはいけないようだ』

「……。」

『最後に、言わせてくれ』

「……。」


『正解だ、少年。』



そうして、ベルさんは息を引き取った。







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【短編・完結保障】ダンジョン前のチケットもぎり、裏ルートで最強になる! 舎人二阿木 @tonerikazuaki

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