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「なっ…!」
「「「貴様…なんだそ奴は、いや、ソレは一体なんだ!?」」」
「……ちっ」
『……』
言葉を失う。
ぐちゅっ。とねばついた音を響かせて<クラム>は立っていた。
人型の、まるで彫刻のような体に、頭がなく、両足のほかに肩から生えた二本の足、股からは逆さに生えた頭を垂らし、両手を、ない頭を悩まし気に抱えるように添えると、大きく膨らんだ胸を突き出し立っていた。
クラムが無いはずの頭の中心に、ボウッと先程ドラゴンが出した虹色の火球を出現させると、それをドラゴンに向かって射出する。
ドラゴンの翼に当たると、同じように火柱を上げて翼は炎上し、体勢を崩すドラゴン。
――なっ…!
「何をやってるんだッ!! クラム!」
『…少年はクラムを何故ここへ連れて来たかわかるかい?』
「そりゃあつまり、生贄である俺の護送ですよね…?」
『……目的は少年、君の護送――――じゃない、保険だよ』
「え?」
『少年も見ただろ、カノジョは食べたモンスターの能力を受け継ぐことができる、けれど…そのまま受け継ぐことができないうえ、カノジョ自体が耐えきれる力には限りがある。故に、ベストはこの私に力を授かることだった……もう、遅いがね』
再び、刀に手を掛けると、ドラゴンの岩のような皮膚に傷が入る。
吹き出す血が霧のように吐き出されると、ここの魔力濃度がぐんぐん上がっていくのが分かる。
『全ての策は尽くされた、ドラゴン、裏ルートの支配者よ、君の力、この私が貰い受ける』
「「「…不遜で驕傲。傲慢で強欲。貴様ら、本気で我の力を奪う気か…!」」」
答えとばかりにベルさんは一気に踏み込むと、今度は足場を揺らすほど力強い袈裟斬り。
ドラゴンの肩から水月にかけて傷が入り、そこから血液が吹き出す。
再び隙を見て、今度は片翼をクラムに食べられ、バランスを失ったドラゴンはきらきらと輝くクリスタルの上へと落ちる。
あの龍の能力を…本当に。
俺の背中に、ぞわっとした悪寒が足る。
『……手と、片翼。限界か』
ギッ…ギギギッ……。クラムの動きがぎこちなく、手や皮膚が火傷をしたように赤く焦げ付くと、それを見たバビルスは悪態を付いた。
「これっぽっちかよ」
『リヴァイアサンを消化しきれてないとはいえ、あのドラゴン、相当な力を宿しているようだね、まあ、契約者が居なければあの程度の力みたいだけど…』
「アレ、残しとくわけにもいかねーし…やっちまうか」
『…………うむ』
――なっ! やっちまう? やっちまうって。
嘘だろ…?
力を貰えなかったからって無理やり力だけを奪い、そして従えられなかったたからと言って殺し、力を冒険者の下らない争いに利用し。
ねえベルさん。貴方は本当に、ベルさん何ですか?
俺の理想を笑わず、冒険者としての極致に立ち、そして俺を助けてくれたあのベルさん何ですか?
…このままあの龍が殺されれば、本当にこの力はベルさん達の物になってしまう。
それだけは、それだけはダメだ!!
俺はナイフを抜くと、ギギギッ…と音を立てて調子の悪そうなクラムめがけて走った。
「ああ…うあああああ!!!!」
「馬鹿が…」
『……――ヒルベルト』
そこからの、記憶は、無い。
… ……。 、 。
なんだ?
明るい、うるさい、止めてくれ。
――いい加減起きろ、このッ、弱き者!
「…あ? なんだ、ここ?」
目を開けると、真っ白な空間にいた。それ以外には形容しがたいとにかく白く開けた空間。目の前には、片腕と、片翼の無い小さなドラゴンが居た。
「「「この馬鹿、グズ、とんちんかーーーん!!!!」」」
うらめし気な目を向ける小さなドラゴン、そう、そのドラゴンは俺を激しく非難するとふてくされたように白い空間を尻尾で叩きつけていた。
初対面で何なんだろうコイツは、だけどひとまず、意思疎通が出来そうな相手がいてよかった。
「なあ、お前は――」
「「「貴様何故死んだんだッ! この<弱き者ーーー!>」」」
浮気者と同じイントネーションだった。この言い回し、あの黒龍か…。
それより、なんとなく嫌な感じはしていたが、死んだ、のか、俺は…。
はあはあ、と肩で息をする龍は俺の言葉を挟む余地など無いくらいに、罵倒の言葉を浴びせてくる。
「「「なぜ死んだ! なぜ我を助けなかった! のうなしが!」」」
「助けようとはしたんだ…けど」
俺には何の力もないからだ、この裏ルートへこれたのだって、ベルさん達の力だ、俺のじゃない。
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