34
龍は俺を選定者と呼んだ。
「龍、選定者ってことは、俺が誰に力を与えるか、決めて良いってことだよな」
「「「そうだ。もっとも――逃げ道は無いようだがな…」」」
……。
「ベルさん、一つ質問させてください」
『うむ』
「ベルさんにとって<冒険者>って何ですか?」
『……』
「ベルさんにとって冒険って、一体何ですか?」
ベルさんは、一拍も置かずに答える。
『ダンジョンだよ、そして、冒険者はダンジョンを攻略する者』
それ以上でも以下でもない。
「そう、ですか」
……。
「すみませんベルさん、貴方を俺は、真の冒険者だとは認められない」
「なにッ!?」
「「「ほう…」」」
『……』
「貴方は俺の理解者じゃなく、俺と、…お前は、共に分かり合えない」
そうだ――
「お前には――リムの意志が無い。」
それが無ければ意味なんてないんだ。
「「「世界の運命よりも、自身の信条を取るか――」」」
「…そうか、そうかもな…けどな、お前たちは分かっていない、理解できないだろうこの選択の意味が、冒険者の意味が…!」
じゃきっ、と刀を構える音がする。
「……冒険者ってのは、冒険者ってのはな――大切なもののためなら、全てを捨てられる奴のことだ。力(アイテム)を求めて、金を求めて、名声を求めて、全てを求めてダンジョンへ潜る、そんな奴らとは反対」
そうだよな、リム。
「家も、金も、明日をしのぐパンだってない、自分の身一つだけで世界へ挑む挑戦的な探究者、それが、――それが冒険者ってやつだ!!」
――『 「冒険者が持ってるのはな、コノ身ひとつだけ、…だからこそ、自分だけは絶対に曲げちゃならねェ、いいか…自分だけが、唯一の羅針盤だ」 』
ベルさん、すみません。
「この俺だけは、誰にも曲げさせねェぞ!!!!」
「「「――!!」」」
「ッ――――下らねえ…! いま捨てたものは人間の尊厳だ、本当の貧困を知らねえガキが…、戯言ぬかしてんじゃねーぞ!! 反吐が出る!」
『……』
「言いたければ言え、この異変を止めるためにはリムの遺志を継いだ奴じゃないといけないんだ…、だから俺は選ぶ、俺は選定者としてお前を選ぶことはない…もう迷わない、お前は冒険者じゃない!!」
『残念だよ』
「…な」
『不正解だ、少年』
ベルさんは居合の構えを取る。
体はこちらを向き、姿勢を低くし、周りが妙に静かになる。ベルさんの心音が部屋全体に響く。
アレだ、アレが来る。
『<論懐:地獄傍(ジゴクソバ)>』
抜いた刀身は見えなかった。
俺は手で体を隠すように防御するが、何処も切られている気がしない。
なんだ…体は無事だ、首も斬られたない、なら……。
ならベルさんは、一体何を斬った?
「「「ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」」」
チンと乾いた音を立てて鞘へ剣を納めるベルさんが斬ったのは、龍か…!?
「一体、何をっ…!」
『この手は使いたくはなかった――――クラム』
間髪入れず、クラムのフードからは大量の触手が吹き出すと、鱗が黒く輝く右腕を、<バクリ>と奪い取る。
「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオ!! き、貴様ァア!!!! 返せ…我の力を返せエエエエエエエエエエエエエ!!!!」」」
ドラゴンは口に虹色の炎を蓄えると、火球を作り出し、クラムに向かって噴射する。
それは火柱を上げて大炎上すると、中心で轟轟と燃え盛っていたクラムのローブを焼き払い、その悍ましい姿を露出させる。
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