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「き、君が…君みたいな何処のギルドにも配属できない、穀潰しの能無しが、ぼ…ぼぼぼ僕みたいな、エリートギルドに所属してる本物の<冒険者>をバ、バカにしていいわけないだろ、コノ負け犬がアアアアア!!!!」
気にする――
「…俺の、俺の前で、<冒険者>名乗るんじゃねーよ虫けらが、俺は、俺は冒険者が大嫌いなんだよ!!!!」
ヤレヤレー、と周りで見ていた酔っ払いどもがはやし立て、ギルド職員が慌てて止めに来るが、お互いの顔はしかめつらのまま、職員を跳ねのけ、にらみを利かす。
無理だった、俺もたいがい気が短いほうだった。
「いいだろう、そんなに冒険者が嫌いなら、もうダンジョンに入れない体にしてあげるよ」
「上等だ、やってみろよこのウスラトンカチが――!!」
殴られる。
ゴフッ…。上半身から下半身まで使った全体重の乗った右ストレート。
いつの間にか、ギルドの職員が入れないよう、椅子や机を円形に、バリケード、またはリングのようにコイツの仲間が作り上げたようだった。
手慣れ過ぎてる。
こいつら俺の他にもこんなことやってんのか? やってんだろうな、随分前から目をつけられていたが、今日はやけに激しい。痛い。
わき腹に拳がめり込む。
「なんだいなんだい、さっきから全然当たってないよ? ククッ…能力もなければスキルもない。上等なのは威勢だけかい?」
…ざけやがって。
俺は拳を振りかぶり突っ込むが、それを左手で軽く受け流されると首根っこを掴まれ、右手でボディブローを入れられる。
――――!? オエエエエエ!!
「君は本当に弱いねえ、例えステータスが同じでも、君には負けない自身があるよ」
ステータス。
ステータスか…、俺は弱い、そしてステータスも伸びにくいらしい、弱いとモンスターもろくに倒せない抜け出せない悪循環だ。悪循環が今の俺を作り出している。
そして…、極めつけは――
「グッ…ゴフッゴホッ…!! ゲッホゴホッ! ゴッホゴッホガハッ!!!!」
来た、これだ。
肺から甲高い音を響かせて、俺はその場に倒れこむ。
四年前、俺はある所で働いていたせいで肺を悪くした。これのせいで長く走ることはおろか、運動という行為において全てに、この咳が付きまとってくるのだ。下手をすれば息が詰まり、死んでしまう。そんな爆弾を抱えたまま、俺は運動を行わなければならなかった。
俺は膝に手を置くと、無理やりに、懸命に体を起こし、再び悪態をついて見せる。やせ我慢だ。
「生き方も生ぬるけりゃあ…、パンチも生ぬるいな…ハァハァ、半端なんだよ」
「良く吠える負け犬だねえ、おらッ! ……んー、まだ立つか…なんだろう、なーんかムカつくんだよねえ」
「ゲホッ、ゴホッ…」
「何ですか? 何なんですかこれは! ちょっと貴方たち! 何してるんですか!! ちょっ、何処のギルド所属ですか!? こんなこと、降格処分じゃ済みませんよ!?」
総合ギルドの長、質素な黒のワンピースに長い前掛けを着た、メイド服に近い姿のババアが特設リングの外からそんなことを騒ぎ立てる。
だが、そんな言葉は一切耳に入っていないだろう目の前のくそ野郎は、右足を引きずりながらも立ち上がった俺に、すぐさま一撃を食らわせる。
「ああ…分かった、おらッ。 んー、やっぱりだ、目、最後まで開けたままなんだよねえ、君、弱いくせに、たいした度胸だよ」
「お…、オメーは頻繁に瞬きしておいた方がいいぜ…、俺に泣かされたとき、言い訳出来るようになァ…」
ぴくっと反応した眉間の筋肉から、相当頭に来ていることが分かる。
男は、俺を雑に蹴りつけると、舌打ちをして見せる。
「クソガッ……いちいち、癪に触れなきゃ気が済まないのかッ! キミはッ! …はあ、わかったよ、そんなに言うならやっぱり、痛い目見てもらわなきゃ、だよねえ…?」
そういうと短剣を抜き、正中線に沿うように構え、ピタリと動きを止める。
こいつ、正気か…!? リングの外にいたこいつの仲間共に目をやるが、止めるか止めないか決めかねているようだった。
当然だ。男が抜いたその剣は、ただの短剣じゃない、ダンジョンアイテムの<ユニークアイテム>と呼ばれる、特殊な効果を持ったレアアイテムだった。もちろん、ダンジョン以外での使用は禁止。ましてや冒険者以外に使用するのは、降格だけじゃすまない、脱退だろう。
……俺を、殺す気か、コイツ!
「ちょっ、ちょっとそれはまずいよ…、もしギルドにバレたら――」
「うるさい! どうせまたパパに頼めばお咎めなしになるんだよ、それよりも、僕はコイツを、僕のプライドを傷つけたコイツを、痛めつけなきゃ気が済まないっ!!」
――――ギュムノートス。
唱えると同時に男の構えた短剣は電気を帯びて、バチバチという弾ける音を響かせながらその切っ先は俺を捕らえる。
「その目ェ貰うよーっ! キエエエエエエエエエエエエ!!」
「――何を、やっているのだ?」
その声は冷ややかに、その場を凍り付かせる程に響き渡る。
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