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◇ ◇ ◇
「ダグ! トウカ! どこだ!!」
「「リム!」」
俺たちがリムに駆け寄ると、リムは少し安心したように俺たちを抱いた。
「しかしな、こりゃあどーなっちまってんだ?」
辺りを見回すと、先程の大地震で壊れた家や、奥の方では既に火災が起きているらしい火の手が上がっているのが見えた。
石畳が引かれた地面は割れ、何とか逃げのびてきた人々の話し声で辺りは騒然としていた。
そして、――人々はある一点を見ていた。
見上げていた。
「なんだ…ありゃあ…!」
周りの建物とは比べ物にならないほど高くそびえ立つ塔は、優に二百メートルは超えているだろうか、白く、一見石のように見えるその外壁は、当然石ではなく別の何かのだろう。高く、先に行くにつれて細くなる塔に、人々は怯え、気圧されていた。もちろん、俺たちも。
「なによ、何なの!?」
「離れるんじゃねーぞ、あそこからは、ヤバい気配をビシビシ感じる」
「な……なんか、また地震?」
トウカが軽いパニックになり、リムは塔をにらみつけていた。
リムには、この後の、災厄がきっと分かっていたのだろう。
「いや、これは…! 足音だ」
それは大軍で押し寄せてきた。
魔物たちが街にあふれ、見るものすべてを破壊し、殺し、全てを飲み込んでいく。
人々は逃げ惑い、国や都市はもはや機能を失い、騎士や兵士と言った人種は、魔物に対して、対した抵抗力を持たなかった。
ただ、冒険者だけがその脅威を退けることができた。
だからか、いつからかリムは、背負いたくないものまで背負いこんで、俺たちの前から消えたんだ。
第九避難所、仮設迷宮探査拠点。ギルド――<リムゴスライブン>
「リム!」
「ダグ、トウカ…」
駆け寄ると、リムは疲れたその顔を少し強張らせた。
仮設迷宮探査拠点では、冒険者の他、戦える人員をかき集め、脅威となるダンジョンの攻略に特化された、すなわち、今のギルドに近い形態を保っていた。
国は機能を失い、民営化されたそれは、この国の全ての人民がスポンサーのようなものだった、もはやそれ以外では止められないと判断した人間による、最後の砦、抵抗だった。
このボロキレで作られたテントの集まりだけが、最後の希望だった。
「リムさん、今夜の探索について少し話したいことが…」
「え、ああ…ちょっと待ってくれ」
「バスク王子…いえ、現国王がお越しです」
「…そうか」
俺が話そうとした時、横にいた元騎士だろう人に耳打ちをされ、俺を一瞥すると、そのまま翻し歩いて行ってしまう――
「――リム!!!! 俺も、俺も連れてってくれ!!」
「ダグッ!」
「……」
叫びながら駆け寄ろうとするが、俺の背中に張り付き、それを必死に止めるトウカ。
「…」
「俺は冒険者だ! 荷物持ちでも何でもする!!」
「……」
「俺ダンジョンがどんな所か知らないけど、足手まといだったら置いてってくれ! そうだ、囮に使ってくれ! それだったら俺でもできる!」
「嫌っ! ダグ!!」
「なにも出来ないのは辛いんだ! 俺もリムの役に立ちたいんだ! 仲間だろ俺たち!! お願いだ、俺もダンジョンに連れてってくれよ!!!!」
「嫌、いやッ!!」
「ダグ! ――お前は、冒険者じゃない!!」
リムは振り向かずに、強張った口調で静かに話す。
「お前は、俺の弟子だ」
――!
「お前にはこれから先、やらなきゃならないことがある、お前にしかできないことだ」
「お、俺にしかできないこと…な、なんだそれ!」
リムは顔だけをこちらに少し向けると、眉間にしわを寄せ、そして辛そうにこちらを見た。
「お前は、本物の冒険者になれ」
「本物の…」
「お前には分かるはずだ、いや、お前にしか分からないはずだ」
「わ、分からねーよ! リム、待ってくれよ! 俺自信ないよ、力も能力も、リムからだって、まだ教わりたいことが山ほどあるのに! 行かないでくれよ! 行かないでよ!!」
膝をつき懇願するが、しかしリムは辛そうに顔をしかめるだけだった。
「ダグ、トウカ、……ごめんな」
「どこかで、見てるからな」リムはそう言い残し、俺たちの前から消えた。
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