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最初に感じたのは空気の濃さだった。
地面に転がっている岩や小石が、壁から露出した鉱石が…水滴が、亀裂が、塵が、空気の粒子が、震える。脈動し揺れ動いている、景色がずれる。
…違う、意識が普段は感じないあらゆる自然的な物体の波動を、――魔力を敏感に感じる。
俺の中の魔力が全身に駆け巡っている。分かる、毛細血管一本一本にまで意識が通り敏感に感じるられる、体からゾクゾクとした、そわそわとした、走り出したくなるような抑えられない居心地の悪さを察知してしまう、今だったら目をつぶっていても風の揺らぎを正確に感じられるだろう。
「うっ…! うげええええええええええ!!」
俺が結晶が煌めく、巨大な地下空間で目を覚ました。
◇ ◇ 最下層<迷宮の底> ◇ ◇
急いで口を塞いだ。
吐いてる場合じゃない。
俺が目を覚ますとこの巨大な地下空間の小さな洞穴に居た。横には倒れた状態のクラム、そして…。
ギャアッ!! ギャアアア!! バキッ、ジュルジュル…、ア˝ア˝ーー!! ア˝ア˝ーー!!
この洞穴の外をのぞくと、広大な空間に、見たことのない量のモンスターたちがひしめき合っていた。
天井にはクリスタルがところどころに自生し、その近くを飛行型モンスターが無数に飛び交う。地面には大型モンスターから小型のモンスターまで、それはもうバラティーにとんだモンスターたちがひしめき合い、おかしいのは、地上では小型のモンスターと呼ばれていたものですら、その体は一メートルは超え、地面を闊歩しているのだ。
地獄だ、地獄の底。
心臓が跳ねる。モンスターたちの数を見たからというのもそうだが、ココでは妙にフワフワとして興奮状態から降りてこれない。動悸が激しく気持ち悪い…。
クソッ! クソッ!!
はあ…はあ……はあはあ、はあ、はあ…。落ち着け……クッ! 落ち着け!!!! はあ、はあ…ま、まずはベルさんたちと合流しなきゃ。
けど…クラムがこんな状態じゃ。これ、死んでないよな? 呼吸も脈もない、動かない。
けど、コレはたぶん人間じゃない。
――ローブを剥ごうとして、止めた。
ひとまず自分ひとりだけココから出て、ベルさんたちと合流してから戻ってこよう。
俺は覚悟を決めて洞穴からこそこそと踏み出したその時、こちらからだと見えなかったのだが、洞穴の入口近くに置いてあった人形がバキッと音を立てて崩れ、それと連動するように後ろで寝ていたクラムの体がビクンとエビ反りに跳ねる。
「え…、に、人形!?」
見逃していた、あんな人形…! ダンジョンアイテムか!?
クラムの腹から何かが這いずるようにグチュグチュと気持ちの悪い音が響き、腹は何倍にも膨れ上がると、――――パァアアンッ!! と勢いよく弾け、ピンク色の煙が辺りを満たした。
――――そして、俺は、俺たちは、ぱっくりとドーム状に空いた暗闇の前に立っていた。
「おお、来た来た、来たぜベル」
『少年! 無事だったようで良かったよ』
「……」
「ベルさん!? バビルス、ヘレナさん!?」
……え?
状況が掴めず、あたりを確認すると、そこは先程いた洞穴ではなく、違う空間らしかった。
最下層、ではある、か。同じ鉱石の混じった岩で囲まれている、じゃあ、俺は…一瞬でこの場所に来たっていうのか。
ベルさんは俺の手を取り、地面に転がる割れた人形を拾い上げると見せつける様に俺に渡してくる。
『クラム君にはね、術式が彫ってあるんだよ。この人形と連動して君が起きたらいつでも合流できるようにね!』
「じゅ、術式…、あ、そ、そうだ…! クラムは、クラムはどうなったんですか!?」
ベルさんは俺の後ろ視線を送ると、俺は勢いよく振り返る。そこには何事も無かったかのように立ち上がるクラムがいた。
表情は分からないが、きっといつも通り無感情だろう。
「う、嘘だろ…」
「おいその辺で良いだろ、ちゃっちゃと先へ行こうぜ」
バビルスはクイッと顎を自分たちの後ろ、ドーム状に開いた暗闇の方へ促す。
瞬間移動には驚いたが、ひとまず全員無事合流出来て良かった。
さっきから黙っているヘレナさんにも視線を送るが、不自然に躱される。
俺は長年アレをやってきたから分かる、バツの悪そうな、何か都合が悪いことがあるときの躱し方だ。
俺は確かな違和感に、再び、あの疑念が呼び起される。
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