17
ジョリ、ジョリ、ジョリ、ジョリ、ジョリ、ジョリ、ジョリ、ジョリ。
「はあ、はあ…ゲホッ! ゴホッ! ぼ、冒険者に…なるんだ」
「ダグ君! ゲホッ…ゲホッゲホッ!!」
「おい何やってるドブネズミども!! さっさと動け! また火ィ付けられてーのか!!」
「――ヒッ!」
上から響き渡る怒鳴り声に、身が震え、歯を鳴らしながら限界を超えて動かなくなった手足を無理やり動かし上へ這いずるように向かう。
俺たちはドブネズミだ。
真っ黒なネズミ。
ハアハア…ウッ――ゲホッゲッホ! ゴホッゴホ!! ヒュー…ヒュー…。
肺が限界だ。
これは、この地獄にいた一年目の記憶。
俺はここで七年の時を過ごした。
反骨精神も、冒険者になるなんて夢も、以前のように走り回れる体も、すべて奪われた。
――『少年! 名前は!』
ヒュー…ヒュー…。だ、だれ? もう、ほっといてくれ…もう、いいんだ、いいんだよ。俺は…この真っ暗で熱い、この糞溜めで死ぬんだ。
ダグは虫の湧いた塊を、胸に痛いほど押し付けるように抱きしめると、それはパキッと、か細い音を立てて崩れる。
『少年! 約束があるんじゃないか?』
約…そく…? 約束…。でも、もうここから出られない。一人じゃ何にもできない…、こんな体じゃ…もうダメなんだ。過ぎた夢だったんだ。
『少年! 私は助けに来たんだ! 君を! 悪い奴らはみんな殺した、他の子たちも助けた! もう自由なんだ』
じ、自由…、なんだそれ、それじゃあ生きていけないじゃないか。
金は誰が払ってくれるんだ、生活に必要な金は…ガキの俺たちが暮らしていくにはこうでもしなきゃダメだったんだ…、生きて行くには……勝手に、勝手に否定すんなよ、憐れむなよ、これは俺が選んだ道だ、それを――勝手に! ゲホッゴホッ!!
…ああ、もう関係ないか。
結局必要なものって何だったんだ、やらなきゃいけないことって何だったんだ、俺は間違ってたのかな…? クソッ…クソ、間違ってばっかだ。
『君は悪くない!』
え…。
『君は何も悪くない! 君の選んできた道は間違ってなかった! そう思うためには、――生きろ!!!!』
――!
『この先の人生をちゃんと生きて、それを証明しろ! 自分の手で!』
…………い…い。
……生きたい…………生きたいよお!! 死にたくないよお!!
こんなところで!! まだ何も始まってないんだ!! まだ何もやり遂げてないんだ!! 俺は約束を果たせていない!!
「ゲホッゴホッ、ゴッホゴッホ…ゲホッケハッ、ヒュー…ゲホッゴホッ!! ゲホッ! ゲホッ!!!!」
声は出なかった、だけど、あの人は何も言わず、優しく俺を抱いてくれた。
「うそだ……ダグっ、ダグなのか!?」
「ト…トウカ…?」
「ダグッ!!」
トウカは強く俺を抱きしめた。
なんだよ、その口調は…。
俺のいない間に身長が抜かれている…。
世界は変わっていた、あの日なんてなかったかのように、ダンジョンは世界に溶け込んでいた。
俺の知る、冒険者は居なくなっていた。
「ゲホッゴホッ!」
「……はあ、おいお前、もう帰れ」
「い、いや…だい、じょうぶ、まだいける」
「じゃなくて、足手まといだって言ってんだよ」
ダンジョンの中、最近は俺の顔が知られてきたからか、なかなか捕まらない中、やっとの思いで入れてもらえたパーティ、そのメンバーのリーダーが、俺を見ていた。
息が切れていたからか、それともバツが悪いと心の奥では分かっていたからか、伏せていた顔を上げると、リーダーだけじゃない他メンバーのたちも心底仕えない人間を見る目で俺を見下していた。
何度も見た目だった。
お、俺は冒険者に…。
「冒険者? お前が? ついてくることもやっとなのに…なあ、これは優しさで言ってやってんだぜ? もう<諦めろ>」
お、俺は…。
「な、なあ、測量者(サウベイヤー)いらねーか?」
「「「はっはっはっはっ!!!! 初心者ダンジョンで測量者(サウベイヤー)!?」」」
「だ、だよな…ははっ…あっ、じ、じゃあ、荷物持ち、あとドロップ品整理と…調理師(ダンジョンコック)もやる、もちろん材料費はこっち持ち、報酬は五%…いや、ナシでいい! …どうかな?」
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