12
ベルさんは出会ってから今まで一度もうつむいたことは無かったが、それでも、少し、顔をうつむかせると、再び顔を上げ――
『実は、今回この街を訪れたのは、ダグ君に、お別れを言いに来たんだよ!!』
「……は?」
そういった。
ベルさんはいつもはきりりとした眉毛を、少し下げ、声音は変わらずだったが、明らかに、いつもより哀愁を漂わせていた。
別れ? 長期の仕事のことか? いや、そんなこといちいち言いには来ないだろう。
俺は動揺してただろう。
だから、俺は間違いを犯したんだ。
『ココからは、喋っちゃいけない決まりなんだけどね! …私は、ダンジョンの<裏ルート>へ行くことになったんだ!』
…。
ベルさんのこの言葉を聞き、俺は、普通ならば驚くべきところを、俺は一瞬考えてしまった。
『あれ? あんまり驚かないんだね! ダグ君の事だし、もしかして知ってたとかかな!』
冗談めかして言ったベルさんの言葉に、俺は少量の動揺も含ませないように、慎重に言葉を選ぶ。
決して悟らせないように。決して、あの<チケット>の存在を感づかれないように。
「いえ、その、噂、だけは、有名ですから」
『ハーハッハッハ! 冗談さ!! 存在自体、ダンジョンを扱うギルドの、ごく一部しか知らない情報だしね!!』
ベルさんは大きく息を吸うと、いつもの爽やかな笑顔を見せてくれた。どうやら大丈夫だったようだ。
急いで話を戻す。
「それよりも、ホントに潜るんですか? その裏ルートに…噂だと、地獄に繫がってるとか、中には悪魔がいて、入るだけで気がおかしくなるとか…危険ですよ! ベルさん、止めるべきです!!」
『心配かね! このもっとも勇者に近い男のことが! ハーッハッハッハ――!!』
ベルさんの爽やかな…能天気な声が響き渡る。
ッ――――!!
「心配ですよ!! 冗談言わないでください!」
こんなにベルさんの前で感情を出したのは、多分初めてのことだっただろう。ベルさんは真剣な目で俺を見てくれていた。
「今回は、本気でやばいと思ったから、こうして会いに来たんですよね!? 今回は、本気で帰れないと思ったから、こうして俺の前に立ってるんっすよね!! それを…誤魔化さないでくださいよ!! 冗談じゃない!!!! ――――アンタも死んだら…俺は……」
ダンジョンは大切な人を奪っていく。
それがいくら、いくら人類最強と謳われた、勇者に近い人間だとしても。
『うん、やっぱりダグはダグだ』
ベルさんは俺の頭に手を乗せ、荒っぽくなでた。
なんだかあしらわれてる気がしたが、俺は抵抗しなかった。
『まあ、けれど安心したまえ、潜るのはもう少し先の話になりそうだからね!』
「……先の…話」
『ああ、実は四年前からかな! あるチケットが無くなっていてねっ!!』
少し肩が震える。
『発覚したのはつい最近、一年前くらいだよ! ダグ君も知っての通りダミデコアの迷宮(ダンジョン)を管理しているのは私たち(クイーンオブリンデル)と、燃ゆる鬣(ロートレーヴェ)だ、そしてダグ君が今通っている<集会ギルド>は、つまり複数のギルドがダンジョンを独占できないように作り上げた制度、というか取り組みだ』
「それは…まあ」
知っている。
クイーンオブリンデルやロートレーヴェの他にも、アルス・マグナやファントム、その他実際の支部はこのダミデコアに無いギルドも、十一団体ほどが加盟している。その中にはクイーンオブリンデルに並ぶ超大型ギルドも点在し、その形態を保っていた。
『――というのが表向きの名目』
お、表向き…?
『あそこは、裏ルートのチケット、通称ダークチケットの保管場所だったんだよ、このダミデコアの迷宮のね!』
「保管場所…」
『目的自体は変わらなけどね! その目的(いみ)はチケットを隠しておく場所、<だった>今となってはね!』
「そう…ですか」
つまりは、ダンジョンの独占を禁ずるために、集会ギルドが作られた、のではなく。ダンジョンの一部、裏ルートの攻略を牽制しあう為に、いくつものギルドが加盟していたということか。裏ルートのユニークアイテムを狙って…。
『だからね、まずはそのチケットを見つける所からってことだね! 私もこの仕事を任されてから様々なところを探し回ったよ、見解では盗賊団の仕業とか、組織的な犯罪が濃厚らしい…! だからね、ここに来る前に山間の、ほら、ダートマウスってしってるだろ? あそこにも赴いたんだけど、口を割らなかったよ、恐らく本当に知らないみたいだね!!』
「そうですか」
最近より活発に、裏ルートやダークチケットの話をまことしやかに聞くようになったのは、ベルさんや、もしかしたら他のギルドも、チケットの奪還に動いていたからなのかもしれない…。
ベルさんは『まあ、でも、時間の問題だよ…』と言うと、背を向ける。
「けど、何故俺にそんな話を…? 言っちゃダメな事だったんですよね?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます