02 There's no NPC in this world

「おおおおおおおおおおおおっっ!」


 会場入り口ドア前。

 立っていた会場警備らしい黒づくめの男を蹴倒し、叫んで突入。

 いつものぼくなら逆に跳ね飛ばされてるだろうけど……今は違う。


 身を包んでいるのは、周のアイテムで作ったパワードスーツ。

 錆と鉄を寄せ集め作ったような、レトロフューチャーデザイン。ケーブルやエンジン部がむき出しでカッコイイ。筋力を数倍にアシストするゲームエンド級のコンテンツ……らしい。

 ぼくの蹴飛ばした男が会場中央まで数メートルはねとばされてる。

 男の背中を踏んづけるように、そのままステージまで走る。


 背中に背負ったのは、銃身切り詰めソードオフショットガン。

 こちらも部屋内の戦闘ならほぼ無敵クラスの攻撃力に拡散範囲。これなら秒速三体でゾンビ処理できるので、周囲が平和になる、とのこと。


 手にしてるのは閃光手榴弾フラッシュ・パン

 人間相手に殺傷しないで隙を作るならこれ以上の選択肢はない……。

 けど、鼓膜破れたりしないのかな……?

 ぼくはこんなアイテムと共に、ゾンビ世界を生き延びてきた周に思いを馳せ……。

 ピンを抜き、右手で宙に放り投げる。


 閃光。

 轟音。


 場内がそれに打たれてる間、つい数秒前にやってきた数十時間の訓練・・・・・・・・・・・・・・・・・・でようやく掴めた、スーツのアシスト機能をフルに発揮し、ステージの二人へ。本気になると百キロの荷物を背負いながら二十キロぐらいは楽々走れるらしいスーツの力はすさまじい。閃光手榴弾の音と光も、耐えられるレベルにまで自動的にカットされるから一気に突っ走る。転げるようにステージまでたどり着くと二人の手を掴み、控え室のドアへ。


「カ……カチコミだッ!」


 叫び声が響いた時には、もう、ステージ脇、控え室の扉の前。

 〈天国の監獄ヘブンリー・プリズン〉で、二人の手を引きずるように中へ……逃げ込んだ、後。


 第一段階、完了……っっ!


 ドアを閉め、息をつく。いったんドアを閉めれば、誰も入ってこられない。

 あの控え室の扉をぼく以外が開けても、元の控え室に行くだけ。

 まだ意識が朦朧としてる二人を見る。

 状況に気付いてる様子ではあるけど……何かができる状態には見えない。

 とりあえず一人ずつ引きずって、居間の長椅子に寝かせ毛布をかぶせとく。


「ま……とりあえず、ゆっくり休んでくれ……」


 一方ぼくは居間に戻り、竜のレリーフから外の様子を確認。

 駆けつけてきた会場警備たちが、今まさに扉を蹴破ろうとしてるところ……。

 が、ほぼ静止してるようなスローモーションで見える。


 ……ここからはアドリブ……。


 ぼくは息を呑み……背中のショットガンを両手に持ち、深呼吸。


 目的は一つ。

 二つ以上のアイテムの確保。自分とエマのポイント分。

 でも……危険なのは間違いない。

 会場内にいるのはやられ役のチンピラじゃない、モブの先輩冒険者でもない。

 全員、元転生者。

 つまり全員が全員……元、主人公。


 ……けど……。


 コッキングしたショットガンの感触と音は、何よりぼくを勇気づけてくれる。

 ぼくは小屋の玄関に立ち、深呼吸を一つ。アイテムを二つ、連中から奪う。

 それが目的。そう考えてると、ぼくの中で声が囁く。




 ……ケンカ一つしたことないキモオタ陰キャくんが、現実の人間相手に戦えるのか?




 ああ、できるさ。さっきまで三日三晩・・・・時間練習してたんだ。相手は全部、周が作ったちょっと動くだけのダミーだけど。それにこの戦いは、逃げて引き籠もってたところでいずれ絶対、やられる戦いだ。ならこっちから仕掛けるしかない。勝つしかない。


 もう一度、深呼吸。

 ドアを見つめる。

 脚を思いっきり振り上げる。


「シロ……くん……」


 けど。


「……お……」


 声が、した。


「おま、ち……わた、くし、の……ばん、です、わよ……」


 振り向いてみると、二人がこちらを見つめてた。

 椅子の上から顔をはみ出させ、ぼくを見てる。

 まだまだ全然、指一本動かすのも苦痛な状態のはずなのに……。

 周は、なんでか、泣きそうな顔。エマは、般若みたいな怒りの顔。


「……あ…………ぷっ」


 そこでようやく、ぼくは一つの事実に気付き、吹き出してしまった。


 ……そうか……。


 あまりにも単純といえば単純な気付きだった。どうしてそんな単純な事実に気付かなかったのか、って少し、おかしくなってしまうぐらい。




 狩りは、多人数でやった方が効率的だ。




「……ごめん」


 謝って、ぼくはドアに背を向けた。


 まあでも……しょうがないじゃないかよ。多人数プレイ、なんて、ぼくはマジで指で数えられるぐらいしか、やったことない。そんなの無視していつもみたいに一人でやろう、って気持ちはムクムク湧いてくるけど……。




 ……経験値、均等に入らないと気持ち悪いしなぁ。

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