02 There's no NPC in this world
「おおおおおおおおおおおおっっ!」
会場入り口ドア前。
立っていた会場警備らしい黒づくめの男を蹴倒し、叫んで突入。
いつものぼくなら逆に跳ね飛ばされてるだろうけど……今は違う。
身を包んでいるのは、周のアイテムで作ったパワードスーツ。
錆と鉄を寄せ集め作ったような、レトロフューチャーデザイン。ケーブルやエンジン部がむき出しでカッコイイ。筋力を数倍にアシストするゲームエンド級のコンテンツ……らしい。
ぼくの蹴飛ばした男が会場中央まで数メートルはねとばされてる。
男の背中を踏んづけるように、そのままステージまで走る。
背中に背負ったのは、
こちらも部屋内の戦闘ならほぼ無敵クラスの攻撃力に拡散範囲。これなら秒速三体でゾンビ処理できるので、周囲が平和になる、とのこと。
手にしてるのは
人間相手に殺傷しないで隙を作るならこれ以上の選択肢はない……。
けど、鼓膜破れたりしないのかな……?
ぼくはこんなアイテムと共に、ゾンビ世界を生き延びてきた周に思いを馳せ……。
ピンを抜き、右手で宙に放り投げる。
閃光。
轟音。
場内がそれに打たれてる間、
「カ……カチコミだッ!」
叫び声が響いた時には、もう、ステージ脇、控え室の扉の前。
〈
第一段階、完了……っっ!
ドアを閉め、息をつく。いったんドアを閉めれば、誰も入ってこられない。
あの控え室の扉をぼく以外が開けても、元の控え室に行くだけ。
まだ意識が朦朧としてる二人を見る。
状況に気付いてる様子ではあるけど……何かができる状態には見えない。
とりあえず一人ずつ引きずって、居間の長椅子に寝かせ毛布をかぶせとく。
「ま……とりあえず、ゆっくり休んでくれ……」
一方ぼくは居間に戻り、竜のレリーフから外の様子を確認。
駆けつけてきた会場警備たちが、今まさに扉を蹴破ろうとしてるところ……。
が、ほぼ静止してるようなスローモーションで見える。
……ここからはアドリブ……。
ぼくは息を呑み……背中のショットガンを両手に持ち、深呼吸。
目的は一つ。
二つ以上のアイテムの確保。自分とエマのポイント分。
でも……危険なのは間違いない。
会場内にいるのはやられ役のチンピラじゃない、モブの先輩冒険者でもない。
全員、元転生者。
つまり全員が全員……元、主人公。
……けど……。
コッキングしたショットガンの感触と音は、何よりぼくを勇気づけてくれる。
ぼくは小屋の玄関に立ち、深呼吸を一つ。アイテムを二つ、連中から奪う。
それが目的。そう考えてると、ぼくの中で声が囁く。
……ケンカ一つしたことないキモオタ陰キャくんが、現実の人間相手に戦えるのか?
ああ、できるさ。さっきまで
もう一度、深呼吸。
ドアを見つめる。
脚を思いっきり振り上げる。
「シロ……くん……」
けど。
「……お……」
声が、した。
「おま、ち……わた、くし、の……ばん、です、わよ……」
振り向いてみると、二人がこちらを見つめてた。
椅子の上から顔をはみ出させ、ぼくを見てる。
まだまだ全然、指一本動かすのも苦痛な状態のはずなのに……。
周は、なんでか、泣きそうな顔。エマは、般若みたいな怒りの顔。
「……あ…………ぷっ」
そこでようやく、ぼくは一つの事実に気付き、吹き出してしまった。
……そうか……。
あまりにも単純といえば単純な気付きだった。どうしてそんな単純な事実に気付かなかったのか、って少し、おかしくなってしまうぐらい。
狩りは、多人数でやった方が効率的だ。
「……ごめん」
謝って、ぼくはドアに背を向けた。
まあでも……しょうがないじゃないかよ。多人数プレイ、なんて、ぼくはマジで指で数えられるぐらいしか、やったことない。そんなの無視していつもみたいに一人でやろう、って気持ちはムクムク湧いてくるけど……。
……経験値、均等に入らないと気持ち悪いしなぁ。
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