03 白鷺周の場合
□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
「……先に言っておくと、宮篠さん、ボクはこの男の仲間じゃあ、ないよ。カメラの画角がしばらくキミに向いて、おかげで動けるようになったみたいでね、そいつを始末できた。ありがとう、感謝する」
予想外の結末に少し驚きながら、ボクは教卓から飛び降りた。
ボクのアイテム〈
可能性は一つだけ。
彼も、だったってこと。
「……おや、おや……?」
状況に対応しようとしていた転校生の宮篠さんが、ボクをじろじろ、遠慮無く眺める。
まあ、学校の中でこういう視線は慣れっこだ。
学校外でも今のボクみたいな、制服のリボンを緩めて、首にはチョーカーを巻いた、ちょっとパンクなスタイルは目を引いてしまう。ボクみたいな人間は二十四時間いつでも、好奇と嫌悪の視線に晒されているようなもの。
……ま、ボク、
「……あら、あら、あらぁ……では世の中にはきっと、数億人の異世界帰りがいるということですわね。この教室に三人……今は二人、いるなんて。まっ、なんてすごい偶然かしら! ……今、何をなさったの? お洗脳光線でもお出しになったのかしら?」
教室を見回す宮篠さん。ボクのこともあまり、信用していないみたいだ。
一学期の始めに彼女が転校してきてから、ボクは彼女のことを……転校に意気込みすぎてキャラ作りが行き過ぎちゃった人、って考えてたけど……この期に及んでまだお嬢様口調を崩さないなんて、大したメンタルだ。
でも、そんな彼女も異世界帰り。やれやれ、本当に数億人いるのかもな。
「洗脳……ってわけじゃないな。あの光を見つめた人は一定時間、意識が極限までぼーっとなって、記憶が曖昧になる、ってだけさ。ボクたちみたいな異世界帰りには効かないみたいだけどね。あと数分はみんな、何も覚えていないだろう……ボクらのことも」
「あらあらぁ! それは便利なチカラですこと! では、あなたは複数のアイテムをお持ち帰りになったのかしら?」
「複数持ち帰ったわけじゃない……それに……元転生者は、今、まだ、教室の中に三人いる。ちなみに彼も敵じゃないよ。付き合い方は……敵より難しいけどね」
また、いつの間にか。
元の席に、シロくんが戻っていた。いつもの姿、いつもの不機嫌そうな顔で頬杖をついて、ボクと宮篠さんのやりとりを眺めている。一体どういうアイテムなんだろう?
「す、少し……お待ちになって……あの方も、異世界帰り?」
シロくんは無言のまま。むすっとした顔で、ノートに目を落とす。
遠くの血しぶきが彼の席まで飛んでいて、ノートが血で汚れている。
それで少しため息をついてから、ボクに言う。
「……
ヘソを曲げた子どもみたいな顔のまま。
ああ、くそ、やっぱり、好きだな。
「一年半……中学に入る直前。五年間」
「おい、それってまさか……」
「あ、別にそっちに行ったからこうなったわけじゃない、むしろ逆で」
「ちょ、お、お待ちになって! 皆様方お目覚めになられてますわ! あ、後で!」
話している間、徐々に、教室のみんなが動き出す気配を見せていた。ボクは慌てて宮篠さんとスマホを突き合わせ連絡先の交換。そうこうしている内、教室は、正常に戻っていく……教室に侵入した男がショットガンを乱射し教師と生徒を殺害した、という異常に対する、正常を。そして、ボクは思う。思ってしまう。
ボクたちはもう、正常じゃ、ないんだな。
取り戻したと思っていた、まとも、ってやつ。
……それがまた、遠くに行ってしまった。
ま、もう、慣れっこだ。
やれやれ。
□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
猟銃と爆発物を手に男が中学校を襲撃したテロ、として処理されたその事件は、しかし、犯人が生きて逮捕されたにも関わらず、その全貌は誰にも掴めないままだった。
教師含め七名が目の前で射殺されたショックからか、児童たちには誰一人としてはっきりとした記憶がない。おまけになぜか意識を失い現場に倒れていた犯人は完全に黙秘を貫き、身元もさっぱりわからず、今は精神鑑定の結果待ち。彼がどうやって学校敷地内に侵入し、校舎二階中央にある二―B教室まで、誰にも悟られずにたどり着いたのかがまず謎だったし、銃声が他の教室には一切聞こえなかった点にいたっては、謎を通り越して不可解でさえあった。
もっともこういった不審な点はどうしてか、報道されなかった。
表向き、海外で起こるような事件が日本でも起こるようになった、といった点が取り沙汰され、児童たちの心のケアとより一層のセキュリティ向上を……と紋切り型の文句でニュースは締めくくられ、やがて、新たなニュースの中に埋もれていき、いつしか、ああそんな悲しい事件もありましたね……程度におさまっていく。
それは確実に、些か不自然ではあった。けれどその不自然さを追いかける人間はいなかったし、いたとしても……いなくなるからだ。
□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます