02 宮篠慧舞の場合
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……おそらく、概念系のチカラですわね……。
振る舞いからすると、一定空間の中の人々に、なんらかのルールを強制するタイプ。強制するルールは……企画の進行を妨げるような行動がとれない、あるいは、企画進行者に危害をくわえられない、でしょうか? 頭のカメラが捕らえている人にそのルールを強制できて……企画の意図に反して動くと撃たれる、質問に答える時だけ自由に喋れる……けれど、どう答えても撃ち殺されるのでは……? いえ、そこまで無敵の能力では、ないはず。なら撃ち殺しているのは、チカラ、ではなく単に撃っているだけ? それにこれは、隠し事するとためにならないよゲーム。ということは……いや、その部分はブラフの可能性が強いですわ……。
私が推理を続ける間にも、銃口は新たな犠牲者を、次々に産み出しています。
……許しては、おけません。絶対に。
「う~~ん……撮れ高的には十分なんですけど、ここら辺でそろそろ正解者が出てくれないとロンスター困っちゃうな~……さて!」
ちゃきっ。
そして、男が私の目の前にやってきました。
「あなたは異世界に行ったことがありますか?」
正面から見る銃口は、
……しかしこのような状況に、ピンチのピの字もございません。ピの字の半濁点もございません。
私は
「ロンスターさま、いつも配信見てますわっ!」
男の顔に、ほほう……? という顔が浮かび、私を品定めするように、無遠慮な視線を、上から下までぶつけてきます。
……ふふ、よくよく、お眺めなさい……!
大英帝国上流階級帰りの転校生!
完全お嬢様にしてパーフェクト美少女!
この
烏の濡れ羽色と表現するのがふさわしい黒髪縦ロールツインテール!
殿方を魅了してやまない悩ましい曲線を描く罪作りなこのお胸!
ギリシャ彫刻もかくやの完璧に均整のとれたボディ!
言わずもがなの大輪の薔薇も逃げ出すこの美貌!
私に見惚れ、鼻の下を伸ばし、我に返って私が十四歳であると思い出し、見惚れていないフリをするがいいですわ! その後、しかるべき機関に通報してさしあげましてよ!
……私は、ゆっくり、立ち上がります。
引き金に男の指はかかったまま。
……しかし、まだ発射されません。
するとやはり……。
チカラの推理は外れてないようです。
企画に則って発言すれば大丈夫でしょう。
そして。
……この方、私を、探しに来たんですのね?
異世界帰りの、元転生者である私を……!
奥歯を噛みしめ、お腹にぎゅっ、と力を入れ、覚悟を決めます。
「……え、うそうそうそ、
妙な単語は、ファンに独自の名前を付けるタイプの配信者……という設定なのでしょう。
「もちろん大丈夫ですわ!
……もちろんそんな配信は知りませんし、オススメにあらわれても見ようとは思いませんが……中学校でショットガン乱射してみた、などという配信もあるわけございません。つまるところこれは、それっぽければなんでもオッケー、ということでしょう。
「……えー、うそ、あれすっごい叩かれたんですよ、最初でクリアしちゃったから! もうちょっと配信映えを考えろだのなんんだの……アンチがすごくて……」
どうやら私のお嬢様口調に面食らったようですが……スルーなさるようです。ふふ、これは自分の想定範囲内、制御可能な事態、ということにしたいのでしょう。もうわかりました。この男……ロンスターは、お三下です。
けれど、油断はなりません。
「それが良かったのですよっ! 急上昇、お乗りになったじゃありませんかっ!」
「いやぁ~あんな配信で乗っちゃってもねぇ~、オレとしてはもっと……」
喋り続けるロンスターとは真逆に、銃口は沈黙を保ったまま。
……ここまでは、予想通り。
けれど問題は一つ。
この男のアイテム……超常の力を持っているのは……はたして、この散弾銃? それとも頭のカメラ……?
至近距離で撃ってらしたのに背後に貫通していないことを考えると、物理攻撃ではなく、ルール違反すると自動発射、回避不能即死攻撃……というチート性能である可能性が、捨てきれません。であるならば、ここで
「でもまさかロケ先で論座人に会えるなんて! ロンスター感激! どうでしょう宮篠さん、ちょっとスタジオまでお越しいただいて、企画に付き合ってもらえませんでしょうか?」
「ああロンスターさま、光栄ですわっ! ……ですが……よいのでしょうか? 初対面の、女子中学生を、一人で、個人スタジオに招待……とは、些か……」
「ちょいちょいちょいちょい! カットカットカット! 宮篠さんマジそれシャレになんないから! バンされちゃうバンされちゃう! コンプライアーーンス!」
笑いながらショットガンを叩きます。フリー効果音、クイズの答を間違えた音。ブーーーッ。まあ、聞き馴染みのある音ですこと。どこから出ているのかしら?
私は明るく、いかにも、憧れの配信者に会って嬉しくなっている女子中学生を装い、一緒になって笑いながら……内心で少しだけ、焦れました。
……どういうこと?
私みたいな異世界帰りを探し出して殺す、が、目的では、ない……?
スタジオまで……スタジオ……そこが、この方にとって、有利な場所……?
なら……望むところですわ……!
「おほほほ……冗談ですわロンスターさま! お誘いいただき、私、光栄の限りです! 謹んでご招待、受けさせていただきますわっ!」
一対一で私に勝てる方など、この地球上に存在するわけありませんっ!
私にはあの異世界から持ち帰ったアイテム、〈
「許可とりオッケー! ではスタジオまで行ってみましょ~、さ、宮篠さんも」
腰を落としたロンスターを見て、あ、おジャンプしたら次の場面になっているヤツですわね、と気付き、苦笑いが漏れました。どうして配信者の方々は、皆様、これをやりたがるのでしょう?
にしても……。
……今は、誘いに乗るしかありません。このままここで騒ぎが続けば、ムダに学友の皆様方が死んでいくだけ……ひょっとしたらそれが狙いかもしれません。生徒を人質にとり、獲物をおびき出し、絶対的有利状況に相手を誘い込む……けど、その誘いに乗るしかないでしょう。こんな私を受け入れてくれた、大切な学友である皆様方の命が、かかっているのです。
……私なら、大丈夫。
あんな異世界を、生き延びたのです……ッ!
こんな企画で死んでたまるものですかッ!
「はい、それでは~~スタジオまぶっっ」
……チュンッッ!
そこで、妙な音がしました。
教室最後方。
左端。
空席になっているお席の、一つ右隣。
立ち上がった女子生徒が構えたライフルのような筒から、まるでSF映画のおレーザーのような光線が迸りました。ロンスターがヘルメットにつけていたカメラを、斜め下からおレーザーが貫きます。パリンッ、と小気味よい音をたててカメラが真っ二つに割れ、少しの焦げ跡をヘルメットに残し、教室の床に落ちました。
少し遅れ、ロンスターがその横に倒れ、動かなくなります。
次の瞬間。
「……きゃ、きゃぁぁぁぁぁあああ!」
たぶん……ですけど、チカラがそれでなくなり、自由になった生徒たちが一斉に悲鳴を上げ、逃げ……ようとしました。
けど、そのライフルを構えた女の子が、疾風のように走り、教卓に飛び乗ります。胸元からペンライトのようなモノを取り出すと、掲げ、スイッチを入れました。
謎の光が辺りを包むと、後に残ったのは……静寂、でした。
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