04 天国の監獄の中で
「まず……そうだな、どこから話すべきか……」
周が切り出すと、宮篠さんは目をキラキラさせたまま……周囲を見回し言った。
「……この……この、ステキな場所からお願いいたします……!」
そう言われるとぼくとしてはもう、ため息をつくしかない。
テーブルのコーヒーを一口、二口。それから苦々しく言う。
「僕のアイテムの亜空間。鍵を持ったぼくが意図を持って開ければどんなドアからでも来られるし、ぼくが最近出入りした十個のドアの内、一つを選んで出ていける。いろんな部屋があるし、こうして他人も連れてこれる、けど、僕自身は念じただけで大丈夫。ここで二十四時間過ごしても、外では一秒しかたってない……テスト前に使いたいってんなら一秒千円で貸すよ。以上」
「お名前は? このアイテムの……お名前……? きっと、ステキなお名前が……?」
……勘弁……勘弁してくれ。
こんな、こんな中二臭い名前を、ほぼほぼ今日初めて会話する、超かわいいと評判なのに、いつ何時でもお嬢様口調で喋るから、痛いや寒いを通り越してマスコットキャラみたいになってるイギリス帰りの転校生に言う、なんて、どんな羞恥プレイだよ……?
誤解ないように言っとくと、ぼくは中二病だ。
けど、節度は保ってる。
人生に劇的なドラマはないってわかってるし、狂っててカッコいいナイフを舐めるキャラ、なんていないのは当然だ。
そして現実にお嬢様口調で喋る人もいない。語尾に「じゃ」をつけてる一人称が「ワシ」のお年寄りがいないのと一緒だ。
で……漢字にルビがついた技名をカッコいいと思ってたのは十歳ぐらいまで。
けど、宮篠さんの綺麗な目には期待しか詰まってない。ったく、なんてヤツだ。まあ、一人称が
「……天国の監獄って書いて〈
……大体、なんでこんな名前なんだ……こんな、ぼくはもうとっくに卒業した、異能バトル少年漫画かラノベみたいな名前。そもそもなんなんだよこのルビは?
けど。
「はぅぅぅっ! ずるいっ……ずるいですわっ……! 志郎さま、ずるいですっ!」
ぎゅっ、と、大きな胸を抑え切なそうな顔をする宮篠さん。
一体全体、今の名前のどこに、ときめき要素があったんだ……?
あと、やっぱりさま付けで人のこと呼ぶのか……?
ぼくらのやりとりを見ながら、優雅にコーヒーカップを傾けている周が、ふふっ、と軽く笑う。こいつはまったく、そういう仕草がホントによく似合ってる。この〈
今ぼくらは、森の中の小屋にいる。
穏やかな木漏れ日に照らされた、ログハウス。
暖炉では薪がぱちぱちと音をたて、その上には竜をかたどった青銅製の
ぼくの異世界で、とある賢者が暮らしてたって部屋をモチーフに作られた小屋。
広く明るく清潔な部屋の中央に、藤製のしゃれたテーブルが一つ。そこにはぼくが持ち込んだステンレスのポットにコーヒーカップ。横には小皿にビスケット。ここは持ち込み可だから、帰ってきてから一ヶ月、せっせと居住環境を整えた。目下の目的はなんとかして電気とインターネットをひけないか、なんだけど……まあ無理そう。反面、引けなくてよかったな、と思う日もある。
この部屋に電気とインターネットさえあれば。
ぼくはもう、死ぬまでここで暮らせる。
なにせここにいれば、誰とも、何とも、関わらないで済むんだぜ。
……幼馴染みの周と、美少女お嬢様転校生の宮篠さんが、ぼくと同じように元転生者だった、なんてのは無視して。なんだか始まりそうな異能バトル的展開も全部、無視して。死ぬまでゲームして、死ぬまで本読んで、それだけで暮らせる……まあ食事や純金が湧いてくるわけじゃないから将来的にお金はいるけど、そんなの別に、どんな仕事だってかまわないし。
だいたいぼくは今日の事件で、一切の躊躇無く、この部屋に逃げてきた人間だ。
適宜、家に帰って時間を進め、この部屋と行き来して、竜の紋章で外の様子を確認しながら、騒ぎが収まったら戻ろう、って考えて……それで、持ち込んでた読みかけのラノベを読みながら、コーヒーを啜りつつ、ぽりぽり、ビスケットを囓ってた。食料も溜めてあるし、本も携帯ゲーム機も手回し充電器もある。
さすがに自分でも、人の心がなさ過ぎると思わないでもないけど……。
現実に起こった出来事が……あんまりにも中二的で、逆に怖かった。
……ぼくが小学生の頃に考えてた、みたいな。
教室に突然やって来たテロリストを自分が隠し持ってた超常のチカラで倒す、なんて……そりゃ、妄想する分にはいいけど、実際にそれが訪れたら……まず最初に思うのは、どうやって隠れよう、でしかない。ぼくのチカラが公に知られたら、二億パーセント、明るい世界の未来のため、とかに使わされるに決まってる。あーやだやだ。ぼくに何もしてくれない世界とかいうやつのために、なんでぼくが何かしないとなんないんだよ。
だから、事件の後はもう、何もなかったフリをして押し切ろうとしてたんだけど……どうやら会議をしたいらしい周と宮篠さんに、深夜に家を抜け出しこっそり集まろう、って言われたら断りようがない。イジメられてこそいないものの、クラスではほぼ存在しないことになってる、ぼくみたいなキモオタ陰キャくんには、特に。
「……ま、まあ……とりあえず……自己紹介から始めませんこと? 異世界のこと、持ち帰ったアイテムのこと、含めて……よろしければ、私から」
ときめきがおさまったらしい宮篠さんがそう言って立ち上がる。
ごほん、と一つ咳払い。
「
そこで綺麗な顔が曇り、少し、黙り込んでしまう。目元と口元の黒子が、形作る微妙な表情にあわせ動く。ぼくみたいなひっどい異世界に行ってたのかな……?
「管理アプリのネーミングですと、転生JCの異能デスゲームワールド。二千五十年の地球で、参加者百名が殺し合い、最後まで生き残った勝者に百億円……というデスゲームが公的に開催されている……残酷な異世界でしたわ」
……それは……異世界……?
と、ツッコむ間もなく。
「持ち帰ったアイテムは、カワイイとキレイ」
どこからともなくあらわれたメリケンサックが彼女の拳にあらわれた。どうやら異世界から持ち帰ったアイテムは自分の意思に応じ、亜空間へ自在に出し入れできるってのはぼくだけじゃなく、みんな共通のようだ。
がちんッ、と音がして両拳が打ち合わされると、瞬間、白い光が彼女を包み……。
「事前に設定したお洋服に瞬間で変身。コーディネートに応じ身体能力と技能にボーナス。一対一近接戦でしたら、絶対に、誰にも負けない最強であると自負しております」
悠然と微笑み、スカートの裾を摘まんで一礼。
「…………ちなみにその服だと……どういう、ボーナスが……?」
図書館の中に軍服のハシビロコウがいて新体操してたしても、ここまで訝しげな顔にはならないだろう、って自分で思うほど顔をしかめ、宮篠さんに尋ねてしまう。
フリル。レース。リボン。
溢れんばかりに包まれた、白黒のロリィタワンピース。
ヘッドドレス、ブーツ、小物類もちゃんと完備。
宮篠さんは満開の桜みたいな笑顔で答える。
「このコーデですと、筋力強化
「……あー……アイテムの名前は……自分で?」
いろいろツッコみたいことはあったけど、ありすぎて絞りきれない。
「もちろんですわっ! 暴力と書いてカワイイ、武力と書いてキレイ! まさしく真理の名前です!」
なにが? なんの?
「異世界に赴いていたのは二年間、戻ってきたのは今年の二月……それから……私、自分の名前は気に入っているのですが……少々仰々しいと思いますので、是非カタカナのフィーリングで、エマ、と呼んでいただければ幸いです! あ、ですが日本人ですわよ。以上、お二方ともども、よろしくお願い申し上げます……!」
再び宮篠さんが拳を打ち鳴らす。一瞬の発光と共に元の私服が戻ってきて、椅子に座り直す。その私服にしても……制服的なニュアンスがある、
……なんなんだこいつ?
あんな服で脳筋になるのは納得いかないんスけど……そもそもカタカナの感じで呼ぶってなんだよ意味わかんねーよ……そもそもその喋り方はなんなんだよ……とかは言い出せず、じゃあ代わりに何をツッコむべきかを逡巡してると……周が拍手して立ちあがる。
「じゃ、次はボクだね。
……やっぱり、それって異世界……? とツッコみたくなる設定。
とはいえ……異世界モノの多くが、いわゆるナーロッパ設定(投稿サイトでよく見る、現実の中世ヨーロッパではなく、ステータスやレベルなどのゲーム的要素が付加された、中世ヨーロッパ
「どれ系? ロメロ? デッドラ? 走る系?」
ぼくの問いに、周は少し首をひねる。
「強いて言うなら……CDDAとFOかな。都市は全部廃墟で、バラエティ豊かなゾンビだらけ、全速力で走るヤツも当然いる。その中でクラフトしつつサバイバル。持ち帰ったアイテムは……ちょっと失礼」
専門用語の意味があまりわかっていないらしい宮篠さんは首をひねる。
けど、周は一つ笑って立ち上がり、適当なスペースの前で、呟く。
「〈
すると音もなく、巨大な机があらわれた。
いや、机っていうより……。
万力やドリル、様々な工具が雑然と並ぶそれはまさしく……。
作業台。
「材料があればたいていのものは作れる。ダクトテープからスポーツカー、
つまり……ゾンビゲームに出てくる作業台、ってところだろう。廃墟の街を探索し素材を持ち帰り、時には車や家を解体したり、伐採したり採掘したりで材料を手に入れ、自分で武器防具や拠点を作るタイプのゲームに出てくる種類の。また……良いアイテムを持ち帰ってきたものだ。
「それで……あの、おレーザーと、あのピカピカも……?」
どうやらゲーム知識はほぼないらしい宮篠さんが尋ねると、頷く周。
うん、おレーザー、にはツッコまないようにしておこう。
「そういうこと。ボクの異世界は、そういうのがある異世界だった。ひょっとするとぼくは、ゲーム内転生だったのかもしれないね。ともあれそこに五年間。帰ってきたのは、去年の三月……それで……志郎とは幼稚園からの幼馴染み。家が隣でね。それから……祖母がウクライナ人、いわゆるクォーターで……まあこれぐらい、かな」
ハスキーだがよく通る声で言うと手を一振り。
作業台はかき消え、周は再び椅子に戻る。
……問題は、ここだ。
「……そう……それで……」
ぼくが気まずそうにしてるのが面白いのか、周は少し笑って頷く。
「それで、思ったのさ。ボクの異世界はいつ死んでもおかしくない世界だった。だからいつ死ぬとしても自分として死にたい、って。で……帰ってきて、決心がついた」
「まあ、そうか……」
頷けない話じゃ、ない。
ぼくにしたって、異世界から帰ってきてから……取り繕うのはやめにした。前はちょっと、世捨て人になりたい、って思うのは罪悪感があったけど、今は胸を張って堂々としてられる。
世界がクソならそれに関わる必要なんてない。
言ってやりゃいいんだ、きっぱり、堂々と。
知るかバカ、くそして寝やがれ、って。
「……え、なんですの?」
宮篠さんが首をひねってぼくらを見る。
「そうか、宮篠さん……知らない……?」
「あらいやですわ、どうかエマと……それで……何を、でしょう?」
「何をって……」
ぼくから言うのもアレだから周を見る。とはいえ周も首をひねってる。
「ボクは先生から……転校生には説明してある、と聞かされていたんだが……」
「ああ、特別な事情を持った方が通学しているというのは、聞きましたが……」
「その特別な事情を持った方、は、ボクだね。生物学上、ボクは男だよ」
にこり。
とびきり王子様っぽくほほえむ周。
「…………え、あ、え……お、ちょ、う、うそぉっ え、ほんとにぃ……っ!?」
宮篠さんからお嬢様らしからぬ声が出て、ぼくは思わず吹き出しそうになってしまった。でも我慢。キャラ作ってる人が素を出してしまった時は、そうするのが礼儀……じゃないかなぁ? いやツッコむのがいいんだろうか?
「女子用の制服で通学している男子の方……というのは、周さまのことでしたの!?」
その時の宮篠さん……エマさんの顔と来たら、見物だった。驚きとショックと、ショックを受けてるってわかったらきっと失礼、みたいな遠慮と、気付いてたのにそうとは思わなかったってことはむしろ向こうにとって嬉しいこと……? いや逆にそれは失礼……? みたいな迷いが混ざって、なんとも一言では表せない顔。かわいい顔が黒子と一緒にうにょうにょ動いてなんとも面白かった。周と幼馴染みだとこういうのがあるから楽しい。
「ふふふ、そんなにショックだったかい?」
「ご、ごめんなさいっ! ……私自分のことで、精一杯になってしまっていて……」
「五年暮らしたイギリスから日本に来て、しかも異世界帰りを隠しながら学校生活を送る……ともなれば無理もないさ。ボクは、服装は女、体は男、性自認はどちらでもなく、性愛対象は男女どちらも。それがボクだ。トイレや更衣室は職員用を一人で使うから、あまり気にしないでいいよ。体育は男子に混じるしね。男扱いでも女扱いでも……そうじゃない怪物扱いでも、好きにしてくれて構わない。ボクへの接し方を、他の人にまで
相当ショックだったのか、改めて周をじろじろ眺めるエマさん。たしかにぱっと見、日本人離れした貴公子っぽい美貌の少女、みたいにしか、周は見えない。それでも冷静に観察すれば手はやっぱり男だし、いつもつけてるチョーカーは、出始めてる喉仏を隠して首を細く見せるためのもの。
「おや……海外からの転校生の割には、珍しそうに見るね。どうだい、ボクの外見は? 本場のクイーンたちと比べて遜色はないかな?」
「あ、や、も、申し訳ありません! わ、わた、くし、全然気付かなくて……」
「っていうか……エマさんの転校って……ひょっとして、異世界絡み?」
ぼくがそう言うと、エマさんは少し、助かったとばかりに息をついた。
まあ、自分にそういう偏見はない、って思ってる人にこそ、偏見ってのはあるもんだ。っていうか……物事をシンプルに処理して人生で楽をする手段の一つ、なんだろう、偏見ってのは。
「ええ……たしかに、異世界絡みのこと、ではあるのですが……先に、志郎さまの自己紹介、お聞かせ願えますか?」
「……いいけど」
自己紹介なんて、短く済ませるに限る。
情報を圧縮に圧縮し、手っ取り早く。
「春日志郎。行ってた異世界は……異世界転生モノってキモオタ陰キャくんの願望丸出しで読んでると恥ずかしくなりません? みたいなこと言ってるぼくみたいなキモオタ陰キャくんが書きそうな、ダークファンタジー本格派異世界。三年行って先月帰ってきた。持ち帰ったアイテムは……これ。部屋は奥の廊下に百個以上あって、結構カスタマイズできる。食料庫もあって、ぼく一人なら一年ぐらいは食いつなげる量溜めてある。水は綺麗なのがそこの瓶からいくらでも湧く。入れたモノが全部消える瓶も何本かあるから、それはゴミ箱とトイレにしてる。けど電気とインターネットはない。あ、ガスもない。以上」
両手を広げ辺りを示して見せ、それから、首に紐でぶら下げ服の中に入れてる、時代がかった真鍮っぽい鍵を見せる。本当はこんなのしたくないけど……こういう状況になったら、必要になってくるだろう。
情報は、これで全部……なのに、へ? って顔でエマさんが見てくる。
周はそんなエマさんに、だろうね、って顔。
ぼくとしたら、なんだよ? って顔をするしかない。
「ええと、あの……キモオタ陰キャくんの書きそうな異世界モノ、とは……?」
「あるだろ、よく……トマトとジャガイモは異世界にないだの、チートで何もかもうまくいくわけないだの……そういうこと言う人たちの書く異世界モノみたいな、異世界だったんだよ。ほら、とりあえず誰かレイプされて殺されて」
「シロくん……あのね、普通の人はそこまで異世界モノに詳しくないんだよ」
いつものように、周がぼくを諭す。
「………………そうなの?」
「……申し訳ありません、私……異世界モノは、アニメぐらいしか……」
……そうらしかった。
「そいつは……ごめん。僕が一番、そういうキモオタ陰キャくんなんで、コミュニケーションがあんまり得意じゃないんだ……ごめん」
……ああ、くそ。コミュニケーションに価値なんてない、がぼくのモットーだけど、こういう時ばかりは、そんな自分が恨めしくなる。なんて言うのが正解だったんだ?
「補足しておくと、将来の夢は世捨て人……だったよね」
「その通り」
周はいつも、そんなぼくをフォローしてくれるんだけど……それを聞いたエマさんはどうしてか、わーお! みたいな顔をするばかり。なんだってんだ、ほっといてくれ。
「さて……それでは……キミたち二人は……襲撃犯について、何もわからない?」
一息ついてコーヒーを飲み干した周が言う。
「そうですわね……概念系のチカラがあるアイテム……推理は様々にできますが……確証に欠けますわ。そもそも私達が、何に巻き込まれているのかさえ……」
「……あいつの行ってた異世界は……そうだな、冒険者になろう、みたいなシステムがあるところ、じゃないか? あのカメラがたぶん、冒険者の頭についてて、それをみんなが配信を見るみたいに見られて、人気ランキングがある、みたいな……いやワンチャン、現代ダンジョンモノって線もあるな」
こういう推理なら、ぼくはいくらでもできる。エマさんはそんなぼくを見て、不思議そうに首をひねってる。この人、異世界モノが好きなの嫌いなのどっちなの……? みたいな顔。
誤解を避けるために言っておくと。
ぼくより異世界モノを愛してるやつがいたら、連れてきてもらいたい。
そいつをぶっ殺してぼくが一番になる、ってぐらい、ぼくは異世界モノを愛してる。
ライトノベルは読書に入らない、なんて言うような大人が勧めてくれる「良い本」ってヤツじゃ、絶対に救えない種類の人の……ぼくみたいな人間の、魂を救ってくれる。生きていてもいい、少なくとも死ぬ必要はない、って思わせてくれる。他にそんなジャンルがあんのかよ?
実際に異世界に行って帰ってきても愛はますます、増すばかりだ。憎しみも同時に増すけど……愛憎ってヤツだろ、たぶん、よく知らないけど。
とはいえそんなぼくらを見ると周は、やっぱりね、とばかりに肩を落とした。
「やはり……二人とも捨てゲー勢か……」
「は?」
聞き捨て、マジで、ならない。
ぼくはゲームと読書についてだけは、全力の本気で取り組むと決めてる。
「捨てゲーなんて生まれてこの方したことないし、これからも絶対にしないぞ」
「……志郎さま、志郎さま、捨てゲー、とはなんですの?」
「…………ゲームを始めたけど、なんか用事があったりして、ゲームオーバーになる前にプレイをやめること。そっから、どうでもいいって投げやりなプレイの仕方にも使ったりする」
「ああ、なるほど……捨てるゲーム、ですのね」
素直に頷き感心するエマさん。ぼくの中にむくむく、その他ゲーム用語も教えて感心されたい、って欲望が湧いたけど……抑えた。キモオタ陰キャくんです、と自己紹介はしたものの、わざわざ自分からそれを見せつける必要はない……っていうかエマさん、ゲームについても無知なのか。
「この場合正しくは、捨てゲーされた勢、ってところだ。つまり……」
机の上に、とこ、とこ、二本指を歩かせる周。
「僕たちはプレイヤーじゃなくて」
がしっ。もう片方の手が机の上空から、歩く指を捕まえた。
「プレイヤーキャラクターだった、てことさ」
捕まった指はポットまで持ち運ばれ、その上に落ちてった。
滑るように持ち手を掴み、おかわりを注ぐ。
「……ぷれいやー、きゃら……? それは……いったい……?」
エマさんはまだわかってなかったようだけど……ぼくは全部、わかってしまった。
「…………イベント、ってことか。僕たちが、地球に帰ってきたのは」
一つ頷き、カップを置く周。
「……ふふ、まさしくイベントだ。イベント名もちゃんとついているそうだよ……」
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