07-02 Why can't we be friends? pt.02

「なあ……エマ。聞いておきたいんだけど」

「……なんでしょう」


 まだ少し怒った顔の彼女が少し怖かったけれど、気になったので聞いてしまう。


「……君はなんで戦うんだ? 君一人だけなら、君のチカラなら……逃げ続けるのも別に、悪い選択肢じゃないはずだ。まあ……学校に普通に通うのは無理そうだけど……そんなに、いなくなるのが怖いなら別に、逃げたって誰も責めないよ」

「……志郎さまは、どうしてですの」

「こんな面白そうなゲームに参加しないのは、論理的にも倫理的にも間違ってる。対人戦は好みじゃないけど。でも君は……別にゲームとか、そんな好きじゃないよな?」


 尋ねると、エマはまた大きなため息一つ。


「はぁ……その思考回路がまず何もかも間違っておりますわよ……志郎さま、前も申し上げましたけれど……私たちが負けてしまえば……私たちの異世界、すべて、なくなってしまうのですよ、そこにいた方々も」

「だ、そうだけど」

「だ、そうだけど……って……それは……私だって、異世界で、ロクな目にあってきておりません。死んだ方がいいと思ってしまう方もたくさんいらっしゃいました。けれど、そうではない方々、優しい方々もたくさんいらっしゃいました。それでも、誰かがその生死を決めるなど、許されることではありません。そもそも……」


 とん、とエマが机を叩く。


「自ら作った世界をたった百年ぽっちで壊してしまうなんて……異世界の神々は、いったい、何を考えているのでしょうか?」

「百年……じゃないんじゃないか? 異世界ごとに時間の流れは違うみたいだし……こっちで百年でも、向こうでは百億年たってて、煮詰まってきたから最初からやりたい、ってことかも」


 街や国を作っていく要素があるシミュレーションゲームをやってると、ぼくはよくそうなる。神々なんて連中のことはよくわからないけど。


「そんなこと……! そんなの、絶対、いいわけがありません! 人を、生き物を、なんだと……! ですから私、一位になって、言います。志郎さまにも周さまにも、これは譲れません。すべての異世界を元のままに、と。それから……この黙示録で死んだ人たちを、全員元通りに、と」


 ぼくの目をまっすぐ見つめ、エマは言った。


「だから、私は戦うのです。すべての異世界を、そこにいる人々を、そこから帰ってきた人々を守るため……それが主人公、メインヒロインがやるべきこと、でしょう?」


 ……一体全体どういう風に育ったら、こういう風に……。

 …………お嬢様言葉を二十四時間喋るちょっと頭のヤバい、かなり痛い……。

 ………………まっすぐな人に、なれるんだろう。


「ん……まあそれで、いいんじゃないか」


 ぼくはもう、そんなことしか言えなかった。


「……志郎さまは? もし叶うのならどのようなお願いを?」

「いや、特には。そんなの、今から気にしたってしょうがないよ」

「もうっ、もし叶うなら、ですのよ、なんでもよろしいじゃありませんか」

「う~ん……毎月十二……十四万円、ぼくの口座に非課税で合法的に一生振り込み続けてください、ぐらい? ああでも、日本円より米ドルか純金か、ビットコインとかの方がいいのかな?」


 どうなんだろ? あと……トレーラーを見ただけでクソゲーかどうかわかる能力をください、ってのもいいかもしれないけど……いやだめだ、買ったゲームがクソだった時も含めてゲームだ。


「あなた、なんなんですのマジで?」


 言葉の割に、どこか楽しそうな顔のエマ。


「むしろ、そんなヤツとギルドを組めたことを感謝してほしいね。もしぼくら三人が勝ち残ったら、ポイントは別に、君にあげたって周にあげたって構わないんだ、ぼくは」

「なんなんですの? 博愛ですの?」

「エンディングがゲームの目的じゃない。プレイしてる時間、その最中に我を忘れてること、それだけがゲームの目的、ぼくの目的で、あとはどうでもいいってだけだよ」


 それに尽きる。

 ゲームをやってて一番いやなのは、エンディングだ。

 どんなゲームにも必ず終わりがあって、ウチのゲームは千回遊べます! なんてキャッチコピーのゲームにだって、どうしようもなく飽きる瞬間、そのゲームが自分の中で終わってしまう瞬間がいつか絶対、必ず来る。

 そのたび、現実に引き戻される。

 終わらないゲームこそ、ぼくの一番の願いだ。そしてそれはたぶん、この新異世界黙示録によって、もうかなってるんだから。


「よく……わかりませんが……周さまも、そうなのでしょうか?」

「どうだろ、わかんないや、あいつのことは」


 窓の外では周の手により、みるみるうちに岩が組み上がり、温泉ができてく。


「あら珍しい、志郎さまにもわからないことがございますのね」


 ……なるほど、イギリス仕込みの皮肉ってこういうのかな。


「……ぼくより頭がいいからねー、あいつ」

「意外ですわね。志郎さまが、自分より頭がいいと他人を認めるなんて」


 ……こいつ、ぼくをなんだと思ってんだ?

 自分が一番頭が良くて世の中の真実を見抜いてると思ってる中二病か? まったく大正解だ。


「まずあいつ、成績は学年トップだし、それに……ぼくが勧めたゲームはぼくよりうまくなるし、勧めた本はぼくより深く読み込んでる。頭空っぽにして楽しめる最高のラノベだってあいつにかかると、グローバルな自由主義社会で抑圧された個人の貧困が社会との繋がりをなんたらかんたらって感想文書いて賞もらえる本になるんだ。作者さんがSNSでビビってたよ」

「…………おほほほ……」


 なんだか妙に味のある顔で笑うエマ。ぼくは肩をすくめ続ける。


「ま、そんな感じだから、将来的に周とやり合うことになったら……そうだな、右膝を狙うといいかもな、古傷があるから」

「と、言いますと……?」


 あれを思い出すと、今でも背筋が寒くなる。


「小学三年の時、あいつがマジで怒ってクラスの男子を一人、蹴ろうとして……ぼくが体をずらした。そしたら思いっきり、コンクリの壁に膝蹴りした感じになって……」

「……いやーっ……なんですのそれ……」

「ぼくの人生で唯一、人を助けたのがアレだったなぁ……その男子、床に尻餅ついてたからさ、ぼくが行かなきゃ全力の膝蹴りがそいつの側頭部に入って、壁とサンドイッチにされて、たぶん……まあ、子どものケンカじゃ済まない感じになってたんじゃないか? 周の膝の皿がばりんばりんに割れる強さの蹴りだったらしいから」


 特筆すべきは、周が病院に行ったのはひとしきり騒動が終わってから、ってこと。

 痛みに、泣きも喚きもせず、なんで止めたんだ、とぼくを責めまでした。


「ちょ……な、なぜそこまで? 周さまは、怒りん坊なんですの?」

「いや、後にも先にも、あいつが怒ったのを見たのはその一度きり。いつもはいつでも、あんな王子様じみた態度。でも……あの事件についちゃあいつ話そうとしないし、その男子もすぐ転校しちゃったし聞けてない」

「はー……人は見かけによりませんのね……」

「ま、あいつはマジで怒ったらマジで人を殺す気になれる、ってことだ。ガキだったとはいえ……こえーこえー。もしぼくらが勝ち残ったら、そんなあいつと一位を取りあうことになるだろうから、かなり大変だと思うけど……ま、頑張ってくれ」


 あいつもあいつで、中に溜めてるものがいろいろあるんだろう。まあそんなの、誰だって同じなのかもしれないけど。


「もうっ、人ごとですかっ」

「そりゃそうだよ……なあ、このシステム、ギルドなんて組めるようになってるけど、そもそもそこがまずおかしいと思わないか?」

「え? ですが、協力できるのですし……」

「たしかに、好きにポイントもコインも融通できるのは便利だけど……根本的に、この新異世界黙示録は一位にしかメリットがない。なのにギルド組んで複数人数プレイ推奨って、おかしいだろ、最終的に仲間割れ必須じゃないか」


 RPGだったら、パーティプレイ必須のバランスなのにエンディングには一人しかいけない、みたいなおかしな話だ。MMORPGはやったことがないからわかんないけど……戦利品を分けるシステムの一つでもなきゃおかしい。なのに、そんな話はどこにもない。


「う~ん……たしかに、そうかもしれませんが……」

「だから……まだぼくらの知らないシステムがあるように思えてならないんだ。それこそ、プレイヤーには見えない、隠しパラメーターの類があったり……それに……」

「……二位の人にもメリットがあったり……?」


 むむ~~って顔のエマ。ぼくは肩をすくめてしまう。


「下手したら願い事で、うちのギルド全員の願い事を叶えてくれ、ってのができるんじゃないか、とかね。好きな願い事なんでも一つ、なんて、人類が歴史の最初の方から延々擦ってきた大喜利お題だ。悪用したい放題過ぎて、逆に裏があるって思うのがまず基本じゃないか?」

「それを大喜利のお題とは言いませんが……しかし……ふむふむ……」

「な? 不確定要素が多すぎる。基本的には今から勝った時のこと、気にするだけムダだって。だから、今は目先に集中すべき、ってこと」

「…………志郎さまって……」


 まじまじ、エマがぼくを見る。

 なにを言われるのかとハラハラして彼女を見返してしまう。


 改めて見てみると……本当に美少女お嬢様だ。


 ここまで黒髪ロング、縦ロールのツインテールが似合う人なんて、二次元にしか存在しないと思ってた。ただの美少女ってだけじゃなくて、目元と口元の黒子がなんとも妖しい感じで、周とは違った感じに、見てると吸い込まれそうになってしまう。こういうのを、妖艶、とか言うんだろうか。


「志郎さまって……ほんとに、頭、よろしくていらっしゃるのね……」

「自称キモオタ陰キャくんは、頭がよろしくないと思ってた?」

「もうっ! 台無しですわ!」


 そう言ってぼくらは笑い合った。


 外ではもう、岩の間からお湯が流れ始めてた。周はできあがった温泉の脇、今度は脱衣所を作ってるところ。ほっといたらあいつ、サウナとかまで作るんじゃないか……?


「ねえ、キモオタ陰キャくんさま」

「自分で言うのはダメなのに君が言うのはいいのかよ」

「今だけです。なぜ志郎さまは、自分のことをわざわざ、キモオタ陰キャくんなどと言うようになったんですの? 何か、理由がございますの?」

「実際そうだから、以外に理由なんてないよ。友達の一人もいない、一生童貞で年収二百万あればいいって思ってる、ゲームやるか本読むかしかやることのない人間は、間違いなくキモオタ陰キャくんじゃないか」


 そんな人間が、現代日本社会で、他にどんな呼ばれ方をされるんだ?

 ……対人関係構築能力に問題をお持ちの、趣味に熱中されていらっしゃる方?

 ……うへえ!


「それは……でも……周さまは? お友達ではありませんの?」

「あれだ、そりゃ……なんだ……ほら、バレンタインデーでお母さんからチョコもらうのはノーカンってことになってる、みたいなもんだろ、幼なじみだし」


 なにせもう、ぼくの記憶の中じゃ、あいつが隣にいなかった時の方が少ない。


「あぁ……もう、家族……なのですね」

「家族……ってのかどうかはわかんないけど……五歳から家が隣だとそんな感じになるよ。親まで仲がいいし、しょっちゅう家に泊まりに来てるし」

「……では……ねえ、キモオタ陰キャくんさま、私とお友達になりませんこと?」


 そう言ったエマは、またもやぼくを正面から見つめた。ぼくはちょっと、それが眩しくて視線をそらした。ぼくは少しだけ、彼女が羨ましい。




 こんな風に、まっすぐ人の顔を見られる人間だったら、ぼくは、どんな人生を送ってただろう。彼女みたいな性格だったら……あの異世界でもうまくやれたんだろうか?




「…………」




「え、なんですのその間」

「いや……君が好きそうな異能バトル漫画的な流れだと、こう言う時、オレたちもうダチだろうが、みたいなこと言うな、って思って、その真似をしようって思ったけど……ちょっと我に返って恥ずかしくなって躊躇しちゃった」

「あら……やっぱり」

「やっぱり?」

「やっぱり志郎さまもお読みになってらっしゃいますわね、異能おバトル漫画。あるあるの瞬発力がお高くていらっしゃいますわ、うふふ……」


 まあそりゃ……。


「そりゃ、昔は読んでたよ。もう卒業したけど」

「卒業なんて……おほほほ……なんとも志郎さまらしいお言葉ですこと……」

「イギリス仕込みの皮肉はやめてくれ、心に来る」

「あらっ、心なんておありになりますの?」

「お、そういやなかったな」


 ぼくらは顔を見合わせ、また笑った。


「ですから……ねえ志郎さま、お友達になりましょう?」


 ずい、と、机の上に身を乗り出し顔を近づけてくる。大きな胸が机の上に乗ってるのを見て、わあ二次元的な表現じゃなかったんだアレ、なんてちょっと感動してしまうも……心を無にして平静を保つ。


「それは……アレか、私が友達だからもうキモオタ陰キャくんじゃないよ、って言いたいがためのアレですか。どんだけ自分に価値があるとお思いなんですか、あなたは」

「え、価値、ございますでしょう。ございまくりますでしょう。Eカップ超絶美少女黒髪JCお嬢様、など、出すところに出せば、億、いくでしょう? もっとも億程度のはした金では髪の毛一本たりとも差し上げられませんが」


 きょとん、として言う。ぼくはもう、あっけにとられてしまう。


「マジで、どうやって生きてたら、そんな自己肯定感が身につくわけ……?」

「おほほ……私は夢を信じて育っていますから」

「はぁ……ぼくの夢はな、友達がいないヤツは人間として劣ってる、みたいな価値観が滅ぶことだよ。くそして寝ろってんだ。人間は一人じゃ生きてけない、みたいな言葉と合わせてとっとと滅びてほしい」


 何をどう考えたって。

 人間は一人で生きていける、というか……一人で生きていくしかない生き物だ。少なくともぼくの目からこの社会を見ると、そうとしか映らない。


「いい言葉じゃありませんか……押しつけるのは私も、よくないとは思いますが……」

「あのさ、お嬢様にはわからないかもしれませんがね、今の世の中、どれだけの人が一人で生きてると思ってんだ? 結婚してない社会人は人間として欠陥がある並のくそな価値観なのに、こっちには誰も何も言わない。くそして寝やがれってんだ」

「それは……お友達が、イヤなわけではないのですよね? ……なにか……そういう……トラウマ……的な……? ……昔、裏切られてしまった、など……」

「あったら良かったんだろうけどねぇ、ないんだ、これが、特には」


 マジで、本当に、ない。

 ぼくの伝記を書くとしたら、四行でおさまる。


 生まれました。

 ゲームをしてます。

 本を読んでます。

 異世界に行って帰ってきました。

 了。


「では、ダメなのですか、お友達になるのは?」

「なんでそんななりたいんだよ……?」

「なんでそんななりたくないんですの……?」

「そもそも……ぼくは、よくわかんないんだよ、友達とか、そういうの」

「どこが、何がわからないのですか」

「いや、わかんないよ。何すりゃ友達なんだ? 何しなかったら友達じゃないんだ? 知り合いとどう違うんだ? 奇人アピールで言ってると思ってるだろうけどさ、ぼくは、マジでわかんないんだよ」


 曖昧で形のないものに名前をつけてありがたがる、なんて、そんなの宗教じゃないか? 尊重はするけど、布教や勧誘を強引にするのは逆効果だって、なんでこの時代になってまで気づかないんだろう?


「なんですのあなた? 共感能力とか、感情移入能力、ついておりませんの……?」

「そういうのが誰にもついてるって思い込みはな、女は結婚して家のことだけやってろ、男は男らしく弱音を吐くな、並だぞ。キミィもう令和なんだ発言に配慮したまえ」

「まったく……ああ言えばこう言う……」

「なんと言われようと、わかんないもんはわかりませんー」


 友達がいない人間には価値がない……なら、まずその友達の定義を教えてくれ。ぼくにもわかるように、誰か、教えてみてくれよ。ったく、世の中クソなことばっかりだ。


 そんなことをぼくが思ってると、エマは、すねたように唇を突き出させ、ちょっと頬を膨らませ、少し怒った感じにぼくを見る。


「んな顔で見られてもどうにもなんないよ。逆に、なんで君らはわかるんだ? 幼稚園からずっと、どこでも、そんなもん教わらなかったぞ。君はじゃあ、教わったの?」

「教わらなくとも……それは……その、自然に……」


 そこまで言われたら、ぼくも本気を出さざるを得ない。


「世の中、その自然が備わってないヤツも自然にいるってだけのことに、なんで君らはそんな目くじら立てるんだ? それこそ、ネットワークの価値は参加者の数の二乗で決まる、みたいなコンピュータサイエンス理論を現実にも持ち込んでるみたいだ。じゃあこの世界は友達の数で決まる人間の価値を競うゲームをみんなしてやってるってことなのか? かなりのクソゲーだなそりゃ、複数アカウントの☆1レビューで徹底的に荒らすしかない」


 一気呵成に言い終えると、エマはあからさまに唇を尖らせた。


「……もぉ~~~~! お屁理屈! お屁理屈ですわ!」

「……おへりくつ……って、なんか……そういう郷土料理ありそうだね」

「……ですわね」


 またもや顔を見合わせ、くすくす笑ってしまった。


「志郎さまは……お屁理屈屋さんですけれど……すばらしい方だと思っているのです、私は。沈着冷静、頭の回転も速く、一丁ことあらば即断即決、行動のできる方。友達になりたいと思うのが、どうしていけないのですか」


 ……彼女みたいに自己肯定感で頭が酔っ払ってると、ぼくがそんな風に見えるのかもしれない。なるほど、やっぱり、自分なんか信じて生きるモノじゃないな……。


「ああ、じゃあますます友達にはなれないなぁ。ぼくはぼくのこと、そんなすばらしいヤツだとは死んでも思わないもの」

「一体全体、あなたのその自己評価の低さはなんなんですの……? 昔どこかで連続猟奇殺人でもしてらしたの? 警察に謎かけしてらしたの?」

「……あのさ、さっきも言ったけど、生まれてからゲームして本読んで、それしかしてないんだ、ぼくは。そんな人間のどこがすばらしいんだよ、マジで。冗談じゃなく、一生童貞で友達ゼロ、年収二百万あればラッキーだろうな、ってマジのマジで考えてるんだぜ、ぼくは」

「人間の価値を決めるのは、その精神の気高さです」


 またもや真正面から、エマの瞳がぼくを見つめる。

 問答無用……というか、なにも言い返せない力が、そこにはあった。


「お爺さまがよく、仰っていました。志郎さま、あなたさまはその点、目を見張るほど気高い精神をお持ちです。どんなことでも自ら決め、決して社会や世間に迎合しないその姿勢は、間違いなく尊敬に値……ここを茶化したら私ブチブチにブチ切れますわよ」


 精神が気高いヤツは学校にテロリストが来た時一目散に逃げてラノベ読んでねーよ、とヘラヘラしながら言おうとしたのを一息に封じられ、言葉に詰まってしまう。


「あーもー……その内ね、その内、考えとくから」


 もうそんな言葉でお茶を濁すしかできなくて、エマがまた唇を尖らせる。そして……突如、ぱぁぁっ、と顔を明るくした。がららっ、とベランダへの窓が開いて、少し汗ばんだ周が部屋に顔を突っ込んできたのだ。


「そろそろできるよ! お湯が溜まるのにちょっと時間はかかるけど……順番、じゃんけんでいいかな?」

「周さま! 志郎さまが、志郎さまがお友達になってくれないのです!」


 いかにも、お兄ちゃんがぶったぁ~、みたいな口調で彼女が言うと、周は不思議そうに首をかしげた。


「もう友達じゃないか、ボクらは。きっと運命ってヤツさ。そうじゃないかい? こんなに近くに同じような元転生者が三人。ぼくらの物語は、ここから始まるんだよ」


 何を言ってるやら、みたいな顔。


 欲しい言葉を引き出せご満悦な顔をぼくに見せつけてくるエマ。


 ……ああ、そうだね、これ系統の台詞は男気キャラが言う他に、こういう王子様系キャラが恥ずかしいことを真顔で言うパターンがあったね……。


 ぼくは大きくため息をつき、言った。


「あー……はいはい、じゃあ友達友達」


 すると、エマは満面の笑みでぼくの手を握る。


「お友達ですわーっ!」


 ぶんぶん、上下に振り回す。その柔らかで暖かな感触に少しどぎまぎして、ぼくはむりやり顔をしかめるのに苦労した。

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