07 旅

「……え、マジで異世界転生、させたの?」


 最終的にどうなるか、までは説明してなかったので、周はきょとんとしすぎて、いつもの王子様的な喋り方を離れて言った。




 ドラゴン、深月は影も形もなく、消えてる。

 ……ってことは、成功だ。




 あいつを〈天国の監獄ヘブンリー・プリズン〉の封印部屋にたたき込めた。新異世界黙示録が終わるまで意識も何もなく、ただ凍結されてしまうあの恐るべき部屋に。レベルアップで各部屋に直接、飛べるようになってるんだ。


「いや、封印部屋に転移させただけだよ。でもまあ……良かった……エマ、生きてるか、おい」


 ぼくはエンジンを切り、車から降りて答える。

 エマの方を見ると、まだ地面に寝転がったままではあるものの……。

 手を上げるのが見えた。


 ぼくのアイテム〈天国の監獄ヘブンリー・プリズン〉はあの素敵な亜空間の小屋と、現実世界のドアを繋げる能力。ぼくが念じれば、どんなドアとも繋げられるし、ぼく自身は念じただけであの小屋に行ける。


 じゃあ、ドアってなに? って話だ。

 答は、ぼくがドアと認識してるもの。


 哲学とかの授業でこんな答をしたらぶっ飛ばされるかもしれないけど、実際にそうなんだから仕方がない。ぼくは鞄も〈天国の監獄ヘブンリー・プリズン〉と繋げられたのだ。要するに、何か別の空間の入り口となっているもの、なら繋げられる。


 なら、トラックに轢かれること、がドアになってもおかしくはない……いやスッゲーおかしいんだけど、ぼくの中じゃ、まったく不自然じゃない。今まで何十、何百、そんなシーンを読んできたか、見てきたか。一度なんか自分の身で味わいもして、結果酷い目にあった。




 トラックでドーン、は、ドアなんだ。新たな物語への。




 ぼくはその手順を二人に解説し……それでもふと、不安になった。


「エマ、ちょっと、ステータス確認してくれないか。ポイント、増えてるはずだ」


 エマの元に歩み寄りそう言うと、寝転がったまま、彼女はちょっと吹き出した。


「あなた、ね……今し方、私が何されてるか、見てたんじゃ、ありませんの……? 気遣いとか、ございませんの……?」

「いや、だって、肉体的なダメージはないんだろ?」


 なら、すぐにでも立ち上がれるはず。


「……もうっ……ふふっ、ふふふっ……本当に、おかしな人ですのね」

「…………なんだよ、そういう……言外に言う言い方は、よくないぞ」

「言外になど言っておりません。志郎さまは頭がおかしい人、と言っておりますの、ちゃんと」

「……なんだってんだ、くそ」

「ふふっ、知りません、ステータスはご自分で見たらいいでしょう、もうっ」


 少々すねた口調ながらも、くすくす、おかしそうに笑ってる。


「なんだよもう……くそっ、いいか、ネタにすんなよ……形の精霊よ、数の王よ、我汝に伏して願う、我がチカラを眼前に……」


 もとの異世界でステータス的なものを見る際に、言わなきゃならなかった詠唱。はたしてステータスはちゃんと出てきたものの、こんな中二臭い詠唱はやっぱり、二度と口にしたくない。エマがなんかまたときめいてるけど……放っとこう。


「……よし、ポイントは入ってる……これで……」


 と、そこまで言うと、気が抜けた。

 すとん、とその場に腰を抜かし、座り込んでしまう。


「シロくん、無理しちゃダメだよ、少し休もう」


 周がそう言って、ぼくの横に腰を下ろした。

 エマがゆっくりと上半身を起こし、そんなぼくらを見る。


「私たち……本当に、やりましたのね……」

「……そうだね……ふふっ、まさか、こんな倒し方なんて……」

「ま……伝説の剣とか魔法とかで倒すよりは……っぽいんじゃないか?」

「っぽい、って、何っぽいんですの」

「いや、こういう転生モノメタっぽい話なら、戦う手段もメタっぽい方がそれっぽいだろ」

「……シロくんシロくん、だから、そういう話は普通の人には通じないからね」

「……そうなの?」

「そうですわね……」

「……そうなのか……」


 ぼくががっかりしてちょっと肩を落とすと、エマと周は顔を見合わせ、吹き出した。


「なんだよもう」

「ウソですわよ、わかりますわよそれぐらい! 私だってそうでしたもの。ふふっ、おトラックに轢かれて始まったお話です、終わりもまた、おトラックで齎すのがふさわしいでしょう」

「まったくだ。百人でも、千人でも、轢きまくって封印しまくってやろうじゃないか。トラックくんだってきっと喜ぶよ」

「君ら、なんか、連携がとれるようになってないか?」

「あら、それはそうですわよ、私たちはお友達ですもの」

「ああ、かけがえのない、ね」


 当然だろう、みたいな顔をする二人。


「うげぇー……なんだそりゃ……」


 言葉の甘ったるさに、いつもみたいに辟易してしまう。でも。


「あら、当然志郎さまもそうですのよ」

「もちろん。三人のチカラを合わせたから、この結果があるんだ」

「……そいつは……なんとも……」


 ぼくは少し、顔をしかめた。

 二人はそんなぼくの顔を、じっと、見てる。




 ……ああ、まったく。




 ぼくはこいつらをびっくりさせてやりたくなって、両手で二人を抱き寄せた。


「ああそうだ。ぼくらは、友達だ、仲間だ。だから三人で、この新異世界黙示録を勝ち抜く。絶対に、何があっても。そして……」

「ふふ、エマ……いろいろあるけど、キミのお願いごと、ボクは最初から乗ってるんだ。最後はキミがゴールテープを切ってくれ」

「……ええ。やりましょう。この三人で……!」


 二人の暖かさに包まれ、ぼくは、生まれて初めて、思った。




 ……ああそうか、そうだったのか。

 たとえ、どんなクソゲーだって。

 友達とやったら、すっげー楽しいんだ。




「ぼくらが異世界を守るんだ!」




〈了〉

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