新異世界黙示録
阿野二万休
プロローグ 二度と行くかバーカ!
キキーーーッ!
大きなブレーキ音がしたかと思ったら、トラックが僕の目の前にあらわれて……。
止まった。
僕の鼻先に、ちょん、バンパーの先っちょを当てて、止まった。
僕はただ、その場で固まってた。
けっこう熱くなってるバンパーの感触を鼻先に感じながら。
誰かの悲鳴と雑踏の音。
もう鳴き始めてる蝉。
六月頭、朝の通学時間。
駅から少しの通学路。
幹線道路じゃないにしてもそれなりの大通り。
運転してた人が大慌てで駆け下りてきて、それでも僕は固まってた。
制服は汗ばんでるのに、体は凍ったみたいに動かない。
運転手のおじさんが青い顔で、スマホ片手に救急車を呼び始めたところ……。
僕はようやく我に返った。
で、大丈夫です大丈夫です、って言って……。
猛ダッシュで逃げた。
それどころじゃなかったから。
……マジか。マジかよ……?
……なんてこった。
なんてこった、なんてこった!
「……あは、あはは……あはっ、あははは!」
笑いながら僕は、生を実感した。
この地球に生きていること。
この世界に、生きていること。
「ははははははははは!」
今、僕は異世界から、三年ぶりに帰ってきた。
この地球に、生きて、戻ってきた……!
「あははははは、はははっはははっっ!」
猛スピードで走る、走る……走る!
特に意味はないけど!
通学路を走り抜け、駅中を通って、駅側の巨大商業施設も走り抜け、いや学校行った方が後々面倒くさくないな、って思って回れ右で駅までまた走る!
……アスファルトよ、電柱よ、自動改札機よWi-FiとかBluetoothとかよ! 現代文明よ! 僕を祝ってくれ、称えてくれ、僕の帰還を歌ってくれ! 帰ってきたんだ、帰ってこられたんだ、この地球に、二千二十四年の、この東京に!
生きて、帰って、来たんだ……。
あの異世界から、帰ってこられたんだ!
「異世界! 異世界なんてっ……!」
あんな異世界、あんなところなんて……。
「二度と行くかバーーーーカ!」
叫び声は、青い空に吸い込まれていく。
そうだ、異世界に行ってるヒマはないんだ!
この地球で、世捨て人になるんだから!
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