07 名前は重要だ
それで……まあ、その。
しばらくして三人とも、ちょっと落ち着いて。
「で……その……なんだ……気付いたんだけど」
くそ、気まずい。
ぼくはなるべくこっそり涙を拭いて、深呼吸一つ、自分の確認したことを話し出した。相手が誰だろうが……深月だろうが、倒せる秘策を。なんか取り乱してたかと思ったら急にシステムの話をしだしたぼくに、改めて二人は目を丸くしてたけど、やがて笑ってしっかりと話を聞いてくれた。
「……ふむ……できない話、じゃないか……?」
「試してみる価値は、ありますわね……」
考えてたのはこうだ。
ポイントを消費し、スキルやアイテムを、進化させられるシステムがあるはず。でないとあの滑川のようなアイテムの使い方には、納得がいかない。だからあいつのアイテムを壊してポイントを得た後、ステータスを開き改めて自分のアイテム、スキルを確認すると……はたして、あった。いかにもレベルアップさせます、みたいなアイコンが、アイテム、スキル、両方の横に出てた。スキルの方は見たくもないのであんま確認はしてないけど。
「で、問題は誰を成長させるか、なんだけど……」
「それは、シロくんでいいだろう」
「ええ、それが一番いいでしょうね」
「……な……なんで……?」
二人は顔を見合わせ、肩をすくめた。
「シロくん、いい加減認めたらどうだい? 君はスキルもウルトラレアだって」
「もう……本当に、羨ましくて身が千切れそうなんですのよ、私……」
「……人の嫌がることはやめましょうって、習わなかったのかてめえら……」
もう、心の底からうんざりして肩を落としてしまう。
「いいスキルじゃありませんか……お名前も、ステキすぎて……セバス、ステータスを」
と、エマがそこでステータスを開いた。
ちなみにセバス、セバスチャンは、彼女が自分の世界でシステムにつけて、ステータスを開く時に使ってた名前らしい。まあ……お約束だからしょうがないとはいえ……平成、いや、昭和のお約束じゃないかそれ?
「何度見ても、惚れ惚れですわ……これぞ……これぞ……」
ギルドメニューから、解放したぼくのスキルを眺め、うっとり。ぼくでも、それが皮肉や当てこすりじゃないとわかるけど……それと自分で納得できるかどうかは、別だ。
「いい加減受け入れなって。シロ君にぴったりのスキルだよ」
周もその画面を眺めながら言う。
「どこがだ……」
《
それがぼくのスキル名。
百歩譲って…………いや譲れないだろ今時七つの大罪モチーフのスキルっていやいやちょっと……いや、いいよ別に、読むのは全然アリだし、そういう作品でちゃんと描写されてたらきっと、ぼくもカッコいいなと思うよ、だけど、それが自分の使うスキル名で……使う時には、スキル名をちゃんと言ってから相手に触れないと発動しない、って……おい、マジで、なんのいやがらせなんだよ……?
「そのスキルなら、発展の余地が目に見えてわかる。シロ君が適任だ」
「異議なし、ですわ!」
……スキル名の下に、書いてあるのだ。
どうやらモードが選択できるタイプのスキルみたいで……そのモード名が、とりあえず一つだけ、デフォルトで出てたのは。
《
……誰か、ぼくを殺してください。割とマジで。
「ああ……もうっ、ほんと、なんで私に……」
悔しがってるエマは放っといて《
「じゃあ……使うか……ぼくのスキルと、アイテムに……どれぐらい使う? 一ポイントで一レベルアップで、今ぼくたちが持ってるのは……計八ポイント。ぼくとしては……」
「とりあえず、変化があらわれるまで全部、って方針でいいんじゃないかな」
「まあ、そうか……なあ、エマ……おい!」
うっとりした顔のままぼくのステータスを眺めてるエマを呼ぶ。
「……へっ!? な、なんですの急に」
「何妄想してたんだ君は、涎垂れてるぞ」
「……ねえ志郎さま、私も言いたいですわ、コード・サタンって叫びたいですわっ! 一回、一回だけ言ってみてもよろしいかしら……」
「好きにしたらいいじゃないかよもう……」
と、言うが早いか、早速。
「さあ……地獄で会おうぜ! レッツゴートゥヘル、コードサタンッ!」
早速なのか……おまけに前台詞つきなのか……意味不明のカッコいいポーズまでキメてうっとり。ぼくがやってたら部屋で奇行に励んでるキモオタ陰キャくんなのに、エマがやるとそれっぽいアニメのそれっぽいシーンになるんだから、人生は不公平だ。
「……あと……もう一つ、名前……新異世界黙示録で使う名前も一応、決めといた方がいい。コードネーム的なやつ。今さらかもだけど……やらないよりは」
エマは無視するとして。
「そうだね……じゃあ、ボクはローン・サバイバー……だと長いな、サバイバーで」
「いやだ、ステキな名前!」
「前の異世界の特質欄に書いてあっただけさ。エマはどうする?」
「私は……そうですわね……」
「君はなんかもう、プリンセスとかマダムとか、そんなんでいいだろもう」
……この年にして秘密組織ごっことは……。
「いいわけないでしょうこのスットコドッコイ!」
「……マジでなんなんだ、君の語彙は……」
「あら、私の語彙が本気を出すと人の精神など粉みじんにしてしまいますのよ、おほほほ……わかりやすいように翻訳しているだけですので、お気になさらず……」
……あ、こいつ、ホントは育ちが悪かったんだった。
「じゃあなんにすんの、呼びやすいので頼むよ」
「ステラ! ステラでお願いいたしますわ!」
……あ、こいつ、ずっと考えてたなこの名前。
「はいはい、っと……ぼくは……じゃあ……ソロ、で」
いつもゲームで使ってる名前をステータス画面に入力すると、エマ、改めステラ……面倒くさいから心ではエマって呼ぼう、エマが顔をしかめた。
「……志郎さま、ねえ……この期に及んで、よりにもよって、ソロ、ですの?」
「いいだろ別に」
「よくありませんわ! 私たちはもう、魂の繋がった仲間ですのよ! そんな仲間がソロなどという名前を自らつけるなんて!」
と、そんなことを言い始める。ぼくは、下手すると彼女にとんでもないコードネームをつけられそうだと思って慌てて言う。
「あ、ギルド名も考えないとならないんだけど、君、いいのつけてくんない?」
「…………えっ……」
だからなんでこう聞いて、恋する乙女のポーズになるんだこいつ……?
「いや、だから、ギルド名。ランキングの、名前の後ろに出る」
なくても行けるっぽいけど、ここはエマの気をそらせておこう。
「ギ、ギギ、ギギギギ、ギルド名ッッッ! よろしいんですのッ!?」
叫び、ぶつくさ呟き始めるエマ。
……が、五分経っても十分経ってもいい案が出ないらしく……。
というか決めかけてはやめ、を繰り返しいい加減、ぼくもうんざりしてしまう。
「なあ……エ……ステラ、キャラ作成に一日かけるゲームじゃないんだからさ……」
「でもでもでもでも! 大切ですわ! 後々コミカライズ、アニメ化されるにあたってこのギルド名がタイトルになるのですわよ」
「ならねーよいい加減頭を冷やせこの中二病異能バトルばか!」
「中二病はあなたもでしょうこの世の中斜め見オレサマカッケーばか!」
ぼくらのやりとりで吹き出した周が言う。
「いいじゃないか、中二病。ボクもボクで中二病だし……中二病集団、とか、そんなので」
「……ちょっとお待ちください? 中二病って、英語で言うと何かしら?」
「出たぁ……クソダサ英語パターン出ちゃったぁ……世の中から英字プリントシャツがなくならないわけだぁ……」
「お黙り! どうせ知ってますでしょ、白状なさい!」
「……
募金やボランティアは偽善さ、戦争が科学を発展させるのさ、あの事件は『あいつら』が裏で糸を引いてるのさ……的なのを言い始める方向の中二病だぞ、と言おうとしたけど……もちろんエマは、聞く耳持っちゃいなかった。
「さささ……最高ですわそれ……! それで、集団……は少々ダサいですわね……連盟……連盟でどうかしら? エッジロード連盟!」
「赤毛連盟かよ。もー……同盟、でいいんじゃないか、英語で」
「同盟……えーと……?」
小首をかしげぼくを見る。くそ、いちいちカワイイのがマジでずるいな。
「はぁ……
「バババっバッバ、バッチリですわ! エッジロード・アライアンス! 書くときは
喜色満面、くるりと回って叫ぶエマ。
「……カタカナですか、英語ですか、お嬢様?」
もう彼女の好きにやらせよう……。
「カタカナです! 漢字にルビをつけるパターンでなく、カタカナ英語を和訳すると真意があらわれるパターン! これぞニッポンですわ! ジャパニーズカルチャーの神髄ですわ!」
「……へいへい……まあ……ぼくは見ないなそんなアニメがあっても……」
「お黙り! 最低三話は見なさい!」
「ふふ、いい名前じゃないか、【エッジロード・アライアンス】。略称はEAか、エジアラ……エッジンスになるのかな?」
いやエッジンスにはならないと思います。
とはいえ……ぼくら中二病、エッジロードの……。
アライアンス、同盟。
そう思うと……ぼくの胸の中にも何か、熱いものがこみ上げてきて……まあ、名前をつけるのも、そんなに悪くはないな、と思えてきてしまった。
そして。
ぼくらは決めた。
深月ヴィクトリアを、倒す。なんとしても。
あの三トンのCEOを、世界トップテン金持ちの一人を。
こてんぱんの、けちょんけちょんの、ぎったんぎったんに、叩きのめしてやるって。中学二年生三人で、あいつを蹴飛ばして世界の果てまでぶっ飛ばしてやるって。
そして、言ってやるんだ。三人で。
くそして寝やがれ、って。
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