第二章 The war of all Isekai against all Isekai
01 Club-King
「さてさてさてさて! お集まりの皆さん、まもなくお時間となります!」
薄暗い店の中。
ステージから司会の声が響き、客席から思い思いの声があがった。
ぼくはよくよく、客席の顔ぶれを眺める。
それぞれに違う仮面で顔を隠した、ビジネスカジュアルの集団。
がっちりした体つきで仏頂面な男たちの一群。
イタリアンマフィアみたいなスーツの男。
尋常じゃない量の料理を吸い込むように食べ続けてる……変わった男女二人組。
総勢百名近い集団が、高級ラウンジみたいな広い店内、思い思いの席に座り、くつろぎながら、ぼくらがいるステージ中央に注目してる。たぶん、普段は生バンド演奏が行われている広いステージ、今は右脇にマイク一本だけ、司会者らしき男がぺらぺら喋り続けてる。
「資本主義社会とは、即ち、どんなものでも売買できる社会であります。そんな社会の中、究極の商品とは一体何か? お客様がたはもうご存じでしょう……!」
彼が手を上げると客席の照明が落とされ、ステージ中央に照明が集中。
ぼくらが、照らし出される。
「そう、人間であります! それもお値打ちモノは、筋骨隆々格闘家? 百年に一人の美少女美少年? ノーベル賞科学者? いえいえ! それは……元転生者!」
ステージ上に並べられ、手錠と足かせをされた、十五人の元転生者……ぼくらを、踊るような照明がギラギラ、照らしてく。
「本日も我々、
元転生者たちは、何も言わない、動かない。
それどころか口から涎を垂らしてる人もいる。
横一列に並ばされ、立ち尽くしたり寝そべったり。頭がぐらんぐらんしてたり、何語かわからない言葉を延々呟いてたり……。
ぼくの横でエマと周も、そんな様子。
うつろな目でただただ、どこともわからない方向を見つめてるばかり。
たぶん正常な意識はないだろう。まったく、なんてこった。
ハイエースから下ろされたぼくらは、この店の控え室に連れ込まれ、わけもわからないままなんらかのアイテムを使われた。するともう……酷い乗り物酔いと、三十九度の風邪を合わせて三倍にしたぐらいの体調になって……何もできなくなった。
……とはいえ。
ぼくには〈
ぼく一人だけなら鍵が体の周囲十センチにあれば、念じるだけでいつでも転移できる。持ち込む道具は自分の好きなように選べるから、手かせと足かせだけ外して転移、なんてのも可能。拘束は無意味だ。結束バンドとガムテープによる簡易拘束が、金属製の手かせ足かせに切り替わる一瞬のスキに〈
バレはしなかったけど……状況が良くなりもしなかった。
同じように拉致され、状態異常をぶちこまれた元転生者たちが控え室に転がされ、どうにも絶望的な雰囲気が漂ってる。おまけに少し時間がたつとステージ上に連れてかれ……現在に至る。
「それではお時間となりました……第十七回
品定めの時間は終わったのか、司会がそう言うと客席の照明がつく。
そう。
今ぼくらは、単なる商品としてオークションにかけられるところ。
いやはや人間はどこまで邪悪になれるんだろう、って思うと同時……なかなか合理的だな、とは思ってしまう。ゴールドラッシュの時はツルハシを持って山に行くより、そういう連中にツルハシを売った方が儲かる、みたいな話だ。
「それでは本日の目玉商品から参りましょう! なんと現役の小児科医! 医療チートでナーロッパ異世界の乳幼児死亡率を百分の一にした博愛の人、ドクターッ、
白衣を着た、おじさんとお兄さんの間ぐらいの人が首輪を引かれ、一歩前に出てスポットライトを浴びる。ぐったりうなだれ、今にも倒れ込みそう。けど処刑執行人みたいな黒尽くめの男がその背後に立ち、むりやり顔を上げさせ、客席を見回させる。
「佐藤センセのアイテムは……なななな! なんとなんとの
黒尽くめが白衣のポケットをあさり、薄青色の小瓶を取り出し見せつける。
おお……と、感嘆のどよめきがあたりを漂う。
本当ならたしかにスゴい。首に飲ませた後、体にかけたらどうなるんだろ。二人になる?
「またこちらの佐藤センセ、三十五歳という年齢ながらなかなかの美青年、異世界から帰っても体の鍛練は欠かしておりません! 以上を考慮し、一千万円からスタートさせていただきます! さあ、それでは皆々様、張り切ってどうぞっ!」
早速、あちこちから番号札が上がる。
そして……ぼくは心の中で準備を整える。
「一千百万……二百万……二千万! おっと二千百万! 七十番様から二千百万いただきました! さて……きました! 三番様四千二百万! 倍プッシュだ!」
オークションは続き値段は高騰。五千万を超えるとお客の大半は諦めたらしい。一騎打ちみたいな形になってきてる。白熱ぶりに会場全体が、二人を見守る態勢に入ったのがわかる。
スポットライトはその二人と、佐藤裕也さんに集中。背後のぼくらへの照明は、ほぼ消える。
よし……ここら辺だ。
ステージ上、状態異常がかかったフリをしたまま、ぼくは〈
胸の鍵はとりあげられてるけど、
わかりやすいところにそれっぽいモノを見せておいて、本物は自転車の鍵サイズなので、絆創膏の下に隠したり、服の中につけた隠しポケットに入れたりと、常に変えるようにしてる。キモオタ陰キャくんの被害妄想も役に立つもんだ。
勘のいい人は一秒二秒で気付き、それから数秒で行動を開始するだろうけど……。
ぼくにはその数秒で十分。
いつものように小屋のリビングに飛び、奥に繋がる扉を開く。
そこで、数百メートル伸びてる廊下。
「……武器庫」
呟くと、がしゃん、がしゃん、大げさな音がして、左手にその扉がやってくる。
〈
武器庫に入る。
まだちょっとスカスカのガン・ラック。
そして鎧掛けにあるのは鎧じゃなくて……。
一つ一つ身につけながら、ぼくは少し笑ってしまった。これがゲームのトレーラーならカッコイイセリフの一つでも言っていざ敵地に突入、ってところだけど、生憎ぼくは、まだこれから、練習しなきゃならない。カッコイイセリフを引用して悦に入るヒマはない。
「…………あーあ……練習場」
がしゃんがしゃんがしゃん。
今度は右手にあらわれる練習場へのドア。この廊下の部屋、広さはだいたい好きにいじれるし、環境なんかも操って設定できる。かっこいいセリフはいざ作戦実行となった時にとっておくことにして、ぼくは練習場への扉を開けるのだった。
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