Worlds End.月.

 「月野未子君」陽朗は言った。「君を攫って行くよ」

 「へえ、あたしを攫って行くんだ―――君を食べてもいいのなら、攫ってもいいよ」

 すると、彰子はパレットに詩井萌絵を描いた。

 「歌を聴いて―――あたしの歌を―――歌で貴方を眠りへ誘ってあげる」詩井萌絵が喋った。

 数分のエコーとボーカル。

 闇の求道者という歌だった。

  三日月が滑り降りていくこんな暗闇に

 君がいないから

 星が落ちる音がした

 新聞の隅にもテレビの片隅にも

 君はいないから

 怒った君も笑った君も思い出せないから

 太陽が昇る空気を感じ

 月が落ちそうになるレールに

 Shootingstar

 Collapsestar

 on the rail.

 暗い闇に包まれて

 満ちていく朽ちたブラックボックスを捨てて

 今行くよ

 Shootingstar

 Full of the star

 in the destroy.

 wo- yay yay

 Ahh―――.

 ほら見えた君が

 飛ばして生きてる熱い君が

 見えたから僕は冷たい顔をして

 君を抱きしめた

 星が見えた夜だから

 君を深夜に見えなくなるように攫っていくよ―――

 Oh 水の溜まった音が

 今 はじき出した―――

 さあ 始めよう

 愛と勇気で

 光を永遠に導け

 飛び出そう明日へのドアを

 攫って行くよ誰もが見ている昼下がりに

 誰もいなくなった部屋の中で

 僕は飲みかけのコーヒーをテーブルに置いて

 走り出した

 歌を聴くと悲しくなった。若気の至りだとバカにされるには、幼気な騒ぎだ、と陽朗は思った。仕事のパートナーを連れていくために殺した飯尾武とマリア。そして今度は、月野未子を攫おうとしている。

 「仕方ねえ、いくぞ」混乱した月野未子に伊崎彰子の兄はナイフを取り出し、月野未子の胸のレジンに刺した。するとレジンは壊れ、世界が弾けた。月野未子は吸血鬼としての記憶を失い、元の体に戻った。

 「死に至るわけではない―――?」

 「君はまだ反社会的存在だ」陽朗はいった。「正社会的存在へと正しさを律するためだけに新たに君を止揚することにしたんだ」

 「そう―――i know , you are medicine.〈平和への条項ね〉」

 「そうなんだ、グッドラック」

 そう言って数発の銃声。

 無限の福音はアッシュ―――。

 月野未子は胸に血を流して死んだ。

 「よくやった陽朗君」

 そう言って大文字陽朗と彰子、彰子の兄の心臓に穴が一斉に開いた。カハっと呟く。槍が刺さって空中に浮かんでいた。

 「つるし上げ―――大車輪」

 そう言って、天高く浮かんだ三人の存在は時計の文様が描かれた棺に納められた。

 「永遠に私の命令を聞く実験台になればいい、……スタート」

 すると、時計の針が回転する。

 世界は春になった。

 記憶は消失した。

 世界は悪に染まった。

 悪を悪で塗りつぶし、ボスはにやりと見下ろす。

 「さて、リキュールでも飲もうかね」

 クックックと笑い見下ろす。その目は笑っていなかった。今にも社会を憎み、人間を殺そうとする目つきだった。

悪な訳ではない。単に平和になるために、思考を操り一意に志向する世界。

平和になるために、一番貢献してきたboss.

 彼は陽朗の記憶を殺しとけば、bossによる思考のバイアスを解くまで、全員の記憶を殺し、新たに一人類として、送っていける一リターナーとして、箱庭のバイアスから、時を経て新世界として、争いの無い世界を構築してきた。目的は、生への渇望を経て、生を与えるために、1つの大いなる元々存在してきた資本の獲得、生活の維持、組織の拡大。boss自ら、部下に対してbossの記憶を殺しとけば良いと、圧力をかけるのだった。

 君たちは、私のことを知らなくていい。

 それは勝ち負けレベルのたわいのない話じゃない。

 単純に、君たちが向きになって争いを起こそうとしている現実は如何に愚かなのか記憶を消し、精神を浄化することによって証明しようとしているだけだ。

 脆い者よ―――Ashの刻印を持て。

 記憶は永遠の底へと弾け飛んだ。もうあのころの地獄と天国のめぐり逢いには戻れはしない。代わりにあるのは資本主義社会の実社会そのもので、人を殺し合うようなサバイバルゲームをしに来たわけではない。無音の福音。

 「ねえ」アイリーンが言った。「貴方それで良かったの?」

 「私を知らなくていい」そう言って、アイリーンの額に指を差す。記憶が弾け飛んだ。「―――じゃあな」

 今後もう私を知る者は、今までの私を知らないのだ。それでいい。別の顔になって別の他人になって、別の道を歩いて、別の川に同舟するのみ。

 「さあ、行こう―――私の知らない道を。Ashの刻印を添えて」

 

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