Episode.18…Dead line is up side down by an eternal life.
オーバーワーク、なんて気障な単語を使うくらい働いているのか、というとそうではない。ただのお飾りだった。お飾りな単語を散りばめて、お遊びをする趣味を持った少女がいたからだ。
「はぁ……なんとも言えないですが、銀杏さんから話を聞いてみましたところ、彼氏の名前と家族の所在地と言ったプロフィールを持ってきました。福井出身なんですね」
「また、福井か―――一体、あの街は何があるんだ?」
「福井と言えば、ニュースで報道されているのは原発事故の二次災害による被ばくを防ぐために避難措置が取られている、といったとこくらいですね。まあ、ここ最近のニュースで言えば、そんなとこくらいです」
「違う、それじゃない」
「えっ?」
「その次だ。ケミカル系のプラントの爆破事故という小さな話があるんだがね、ここに関わってくる事件の名前の目撃者が、大文字陽朗なんだ」
「なんですって!?」
「そして、そのケミカル系プラントは子会社なんだが、最近大きな企業グループの経済的な圧力―――単に言えば、株の買収に乗り出したという記事があるんだがね。その出資元が銀杏グループなんだ」
「えっ」
「次に言おうか。そして、株の斡旋を阻止するために、企業のお嬢様を誘拐しようとした暴力団員の名前が、彼ら大庭組の幹部なんだ」
「しかし、未だに謎に包まれた部分がある。誰がどうして、そんな大庭組の資金流入を介しているのか、日々おこなわれている抗争を支える経済及び生活インフラ―――彼らだって基本的なインフラを保持しておかないと生活が碌に行えないし。犯罪を日夜行っている者を入れておくだけの医療施設なんて、あるのだろうか?疑問に思わないか?」
「さあ―――どうなんでしょうね。武さん的には、その経済的な支援を行っている悪が、銀杏グループだと言いたいわけですね?」
「ただ、そんな単純な発想では片がつかないだろう。私もそう睨んでいたのは事実だったが、違うんだ。武義重工や、友禅化学などの大企業が連なる中で、何故この企業を狙っているのだろう。そこが知りたい。銀杏グループの経済戦略なんてどうでもいい、ただ。ここにまだ、闇が迫っているような気がする」
「その大企業の名前は何ですか?」
「それは、竹下ケミカルホールディングという全国的に見れば小さな会社なんだよ。どうも不思議だ。財閥の傘下に置きたい企業にしては、もっと大きな会社を狙えば良さそうなものを」
「ビットコインですよ―――」少女の唇が動いた。
「ビットコインによって今はマネーゲームが動いています。今、活動的な企業とは言えませんが、一部上場により、株式の上昇率が推移しています。この辺りでは大したことはありません。ただ、ウチのグループの情報部が企業にアタックして、ビットコインのキャッシュフローが粉飾決算でたんまり残っているという事実に着目したのです。そこで、そのキャッシュを使って、友禅化学の株式を乗っ取ろうと企んでいます。これを阻止するために私達は傘下に置き、監視するために動いているのです。まだ、竹下ケミカルは粉飾決算の情報を隠し、内密に事を進めています。私達はそれをあばくつもりなのです」少女の名前は銀杏苗。車の後部座席に乗ってきたのだ。
「銀杏さん!?事務所でお留守番しておいて、ってあれほど言ったじゃないですか!」
「えー、だって私一人だけじゃつまんないしぃ」
「武さん、事務所へ帰らせてください。今の事実が本当なら、危険です」
「―――本当よ。だから、私は真実が見たいの」
「あんまりそんな事言ってると、ライオンに手を噛まれるぞ」
「真実の口の迷信なんて信用してません。私は―――」
「まあ、いい。連れて帰るぞ」
「ちぇっ」
「子供のお遊びは終わりね」そう言って、後部座席に座っていた彰子は銀杏の頭を撫でた。銀杏は嫌がってじたばたしていたが、お構いなしだった。事務所に連れて帰ると、消していたストーブ暖め、音響室に移動させ、様々な映画が録画されているDVDを入れた。
「おこちゃまじゃないんだからね!」
「アンタ―――死にたいの?」まだじたばたしている銀杏に向かって、彰子が壁ドンした。ひっ、と声をあげて、いいえといった。
「じゃ、行くぜ、彰子」渉は言った。「まあ、気にすんなって。彰子もほら」
「ガキは嫌いなの」彰子はポケットに入っていた風船ガムを食べて膨らませていた。「ほら、一個あげる。膨らませて御覧なさい」
「……要らない」銀杏は言った。
「じゃあ、私の部屋にあるお菓子摘まんでいいわよ。ブランド物のチョコレートが確か残っていたから」
「……分かった」銀杏は言った。
「―――家にいた方が楽じゃない?後で報告しといてあげるから」
「……それは言えてるわ。いいわ、いてあげる」銀杏は言った。
銀杏以外の皆は出ていく。しばらく探偵事務所にいて一人、後で竹下本社の事実を知ったら連絡する、とスマートフォンで銀杏グループに告げた。すると、間違えたのか、メールを別のアカウントに送った。そのアカウントの名前は何もない。迷惑メールばかり送ってくる業者だった。何故こんなものを、と思って削除すると、その業者からメールが届いた。
「お客様のメールアドレスを確かに登録しました」と書かれたメールが届いたので削除する。
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