Episode.17...Janne Da Alc is changed like christ.

<飯尾武 side>

 飛行機事故は翌日大々的にニュースになっていた。あの飛行機は間違いなく墜落したのだろう。しかし、その中に少女が被害者となった事実はどこにも報道されていなかった。あのオジサン、一遍あの世(あくうかん)に送って反省させた後も小手先の騙しを入れやがって、ふざけやがって全く。と思った。

「あー、この街には碌な奴いねえな」そういうのは渉だった。「そういえば香さん、作家の事件を追っかけていたとはどういうわけで?」

「実は、O大学のサークルで、面白い噂が舞い込んできたのですよ。作家の大文字陽朗(だいもんじようろう)をご存知ですか?」

「私は読んだことあるわ。あまり面白い話を書くとは言えないけれど、創作秘話を熱く語ることで有名だわ」彰子が言った。

「その大文字陽朗(だいもんじようろう)が、この四番街(スラム)に来てたって噂で。あの因みに、三番街(ニューエリア)出身なんですけど、四番街ってどんな街なんだろう、と思っていたら、交通事故に遭いまして死んじゃったんです」

「えっ、死狂世界(アンリアルシークレット)出身なの!?それどういうこと、探偵さん。生きるか私達の亜空間へ呑みこまれて消えるエンドしかないのではなかったの?」彰子は驚いた。

「彼女は憑依体質なんだ。逆憑依とでも言おうか、生きている人間にとりつくことが出来るんだ。今彼女を形作っているのは、赤の他人へと乗り移った魂が行動しているだけなんだ。その代わり彼女は攻撃が出来ない。聖なる壁[イノセントバリア]しか能力がないのもそのためなんだ」

「知らなかった……」彰子は言った。

「調べたいんです。大文字陽朗を。……あっ、まず留学している彼女の彼氏さんの方が先か」玉城香は銀杏苗の方を見る。肌寒いというのに、ひらひらとした薄い服を何枚も重ね着していた。細い体躯をストーブの近くに縮こませ、暖まっていた。

「大文字さんの事件を調べた方がいいんじゃないですか。自ら後回しにして……玉城さんって大人ですね。私は寿命が延びた分、いつでも事件が調べられるので、良いです。玉城さんの事件を調べに行って下さい。私はここで留守番をしています」

「オゥ、じゃあ宜しく頼むな!苗さん」渉は言った。「武さん。大文字陽朗の居所なんてどこで調べたら良いんですかね?」

「それは、彼女が知っているはずさ」飯尾武は玉城香に目配せする。玉城香は彰子にホットコーヒーを淹れている最中だった。

「ところで、依頼料は後払いでいいですか?親に一応連絡はしていますが……何も音沙汰がないので」銀杏苗が言った。

「いいよ……しかし、300万なんて大金よく用意出来るね」飯尾武は言った。

「そのくらいで揺らいでしまうような経済的インフラを所持しているわけではないので」銀杏苗は言った。社長令嬢らしく、自社の株式の動向なども詳しいのだろうか。

「私は、通販サイト、フリマアプリの開発などで一大ブレイクしましたからね。急成長している企業を何社も持っているので、財閥なんて古臭い呼び方をするよりも、銀杏グループと呼ぶべきでしょう」

「そんなコネクションの管理、こんな探偵事務所(オーバーワークス)では受け付けないわ。―――ま、こんな腐ったピザみたいな街から出るための救世主(メシア)になれればよかったのだろうけれど、それも叶わぬわね」彰子は銀杏の隣の近くのソファで寝転がってマニキュアをいじっていた。

 Essieと書かれたマニキュアを爪に付けている。このままだと髪まで染めかねない。ワインレッドみたいな感じだろうか。

 私は、音響室にお邪魔した。私だけの趣味だった。たまに渉が最近のJPOPなどをipodに入れるために使っている。

 PCから流れるスコーンと突き抜けるようなサビと共に歌い声が聞こえる。なんとか、と言った曲だったが、忘れてしまった。低い女の歌い声の中に、突き抜ける丁度いい高さのサビが重なってハーモニーを奏でる。「心傷モノクローム」という曲だった。そして、音楽シーンは変わっていき、次の曲が流れる。まるで有線の若者の音楽のシャッフル放送のようだった。

 電子音がポップ感を演出したシーンの曲も流れていき、空間の中に音が流れていく。

「これでも聞くと良いよ」さらっとそう言って私達は出て行った。「『アキハバラ@DEEP』が入ったDVDがあるからそれでも見ていて」

 銀杏の古―い、なんていう声を無視して出て行った。因みに銀杏苗が選んだのは、『線香花火は下から見るか?横から見るか?』だった。

恋愛も青春(アオハライド)が好きなのだろうか。

若いって良いことだ。


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