Episode.7... Reapers AnGELs likes Reaper's An GEL.
ここはJanneのオーバーワークスの事務所の一室である。渉は、謎の男に負けて、慌てて命からがら逃げ帰ってきたのである。談話室の一室で飯尾武に話しかけた。
「武さん、大変です」
「どうかしたか?」
「何かヤバイ奴に命狙われていたんです!武さんの事知っていました。彰子のことを狙っているらしく、今後作戦会議開いたほうが良いかと思います」
「そうか……銃を仕込んでいたほうが良いな」
「あたしのパペットで遊んであげようかしら、どういう男の方かしら?」奥の方からタオルケットにくるまっている彰子が現れた。コーンスープを飲んでいる。
「いや、とにかく半端ないよ。口からペンキを吐いて塗りつぶすんだ。そして存在を消す…」
「ふうん。あたしが出会った男も口からペンキを吐いてグラデーションしてたわ、雪だるまに」
「そいつだ!もう出会ったことあるのか」
「まあ、その方なの?あたしってモテるわね。あんたも彼女見つけなさい」
「うるせえ!そいつに殺されても知らねえぞ」
「死んでもいいわ、だって二番目に出会った恋慕う方だから」
「そいつがどんなヤツなのか、知らないが、まだ時間を置いた方が良いことだけは分かるだろう?危険すぎるし、そいつのこと知っている人間を増やして情報を入手したほうが懸命だ」
「そうね」彰子は呟くようにしていった。
事件の捜査を飯尾武が打ち明ける……
事件の捜査は簡単だった。車で三番街に向かう。愛車のクーペに乗っていた。車のカラーリングはブルー。それが闇に溶けて、深く沈んでいった海を連想する……。そこから駅に向かった。駅のロータリーに料金が掛る駐車場があり、カウンターに立っているおじさんに金を支払った。
「よぉ、若い兄ちゃん。イイ車乗ってんな」
「ちょっと野暮用でな。まあ、スグに帰ってくるさ」
「時間は三時間分で足りるか?どこ行くんだ?」
「福井の東尋坊の近くで、釣りでもやろうと思って」
「あんな崖でかい?ここにも釣り場くらいならあるじゃないか……それだったら、一日分の料金頂くよ」
半日でいい、という飯尾武の言い分を無視して、金を支払うよう言われた。まさか、これから人を殺しに行くなんて言えない。三番街のホームは大学の近くということもあって立派になっていた。何というかモダンな建築である家が所せましと建っている。無論駅も同様だった。そこに滑り込ませるようにして入る。夜は会社員が帰ってくる時間帯だった。
通勤ラッシュという言葉があるようだが、逆のパターンのようで、帰宅ラッシュとでも言うのだろうか。こちらに向かってくる人の群れを掻きわけながら、LEDが発光する電光掲示板や、背景に白を基調とした電灯で文字が書かれた案内板に従いながら、ホームへ向かった。途中で、缶のココアを買う。チョコレートの成分が些か濃い味で、冬の寒さを凌ぐにはホッと安心出来た。そこに電車が急くようにしてホームに入り込む。席を見渡すと、相席になるようだが、仕方がない。格安の新幹線のチケットで向かうからこんなことになるんだろうな、とも思いながら、飲みかけのココアを一息で飲んだ。
もうすでに温くなっている。
暗くなった闇が開け、Janneに出ると、既に夕方だった。夕映えするビルディングの一角を眺めていると、街並みが変わり、県境を越える。辺りは長野を通り過ぎ、山の中のトンネルをくぐりぬけること数回。途中で女性が席を立った。飯尾武も席を立つと、給仕が現れた。暖かいお茶を紙コップで貰うと、体がどんどん温まっていく。柿の種を購入して、ゆっくり食べながら向かっていると、アナウンスが流れた。柿の種をブリーフケースに直すと、改札に踊り出る。
福井駅に出た。工場は福井市にあるとの情報を得ていたが、東北の気候らしく、雪が降っていた。また、Janneに戻った気分になってしまったのが頂けない。学校の名前を、タクシーを捕まえて言うと、黙って乗っけていった。
どこにでもある閑静な住宅街と外壁がコンクリートで出来た学校だった。柵で囲われたグラウンドにはサッカー部がせわしなくボールのやり取りをしている。そんな中、帰宅途中の学生を捕まえるため、ポケットマネーを出そうとする。
ボロボロのコートの中から、財布を出して、千円札を出す。これが残弾だった。飯田家の聞き込みから得た情報から、近くの中学の学生を帰宅途中で呼び出し、聞き込みで脈ありそうな、真面目な学生に千円札を握らせる。困ります、と断った奴もいたが、大抵は隠れて自分の金にしていた。
学生は金を持っていない、という事実に付け込んだちょっとした悪事だった。
そうして、事情を聴くと、闇ブローカーに通じているらしい、といった根拠のない噂めいた軽い話題や、殺人をした、などとあらぬ情報まで出回っているらしい。その聞き込みの途中で、噂があるんだけど、と隠れてしまった女子に目をつけ、言い値を払うから教えてくれ、と素直に言った。「じゃあ、3万円、」と言ってみたが、実際に手にすると、「お母さんに怒られるから、1万円にする」と言って、2万円を返してきた。そして、友達の女子が薬物ブローカーから金を貰っている証拠としてスマホのムービーを見せた。面白がって隠し撮りしたらしい。
近頃はこんなのばっかりだ。世の中が聞いて呆れる。全うに陽のあたるソラの光を浴びて生きている者はどれほどいるのか。
けれど、理解は出来る。境界の向こう側を外れた者からすれば、悪戯ゴッコの延長線上にある者の理解なんて容易い話だった。
フッと溜息を付くと、その女子の連絡先を教えてほしい、と言った。良いよ、と二つ返事で言うと、すぐに連絡した。警察ですが、事情を教えてほしいのです、というと、少女は怯えた声で、なんですか、と言った。友達の女子に電話を変わる。「びっくりしたでしょ、実はね……」といって笑っていた。やはり、子供はませている。事情を話す。
「恭介君、自殺でもしたの?」少女は怯えた声で、しかしはっきりとした口調で言ってきた。
「いや、違うよ。実は、恭介君が、君の薬物中毒を心配していてね」そんな作り話を聞かせる、と泣き始めた。
「違うの、私、怖くなっていってどうか、あのブローカーから足を洗いたいの。名前は吉崎って言ってた。大学生って言ってたけど嘘。電話で何か怖い人と話していたし」
チッ、と舌打ちする。組織ぐるみの犯罪だろう、と思っていたが、これほどまで巧妙化しているとは。
仕方なく、そいつの電話の連絡先を聞いて、薬を買いたい、という旨の連絡をした。すると、売れ行きが悪いのか、嬉々として頷いていた。因みに会社から通じて闇で買い取りたい、などというと、訝しげな声を出したが、すぐに了解して、頼みます、と言っていた。名前はエビデンスCorp.という妖しげな会社であることを突き止めた.
会社にターゲットを定め、住所は付きとめた。すると、大きな化学プラントのようなナリをした会社に辿り着いた。付近に事務所等があった、そこで、尋ねると、妖しげな部屋に通された。
電子タバコの煙が体中を纏う。灰と化した濃密な空気を身に纏うダークな世界に染まった男の哀愁漂うリアリスティックな日常―――。
新聞を読んでいる爺さんが一言、何事が呟く。麻雀の音がデジタルに聞こえる。インターネットの電子面には、きっちり正方形の画面に描かれた麻雀牌が踊りでる。ウイスキーを昼間っから飲んでいるアル中の強面のオジサンが現れた。
昼間っから一杯引っかけやがって。
麻雀に参加したい気持ちを極力抑え、渋い趣味の、スコッチウイスキーの波打つ雫を旨そうに啜る大柄の太ったアロハシャツのオジサンに声をかけた。
「ようこそいらっしゃいました。登録管理のため、お名前を教えてください」
そう言われると、飯尾武は紙に書いてこう言った。
「恭介の借りは返させてもらうぜ」
「なんです、借りって」
「後で分かるさ」
「てめえら、まとめてあの世行きだ」
「えっ……何だって?……てめえ、警察か!覚悟しろ」そういって拳銃が出てきたのを無視して。
「生き死にで片つく世界じゃないんだよ」
「弾眼」とも呼べる程度の正確な銃の腕前だった。そう呼んだのは以前に失った片腕とも呼べる彼女ことマリアだった。銃の腕前はそこそこだったが、そこから迸る数々の励ましのメッセージに癒されてきたのだった。しかし、その彼女も病魔によって殺されてしまった。探偵は病気を殺すことまでは出来ない……。
そういうと、飯尾武は黄金の縁で飾られた銃を取り出した。空虚な音が数発。全て全員のヤクザに向けて撃たれた地獄へと通じる弾丸……のはずだった。しかし、ヤクザの親分だけがいくら銃弾が当たっても地獄へと消えていかないのだ。
「彰子の仕事がまた増えるな……」ぼそっと飯尾武は呟く。チッと舌打ちをして、閃光弾を仕掛けて、辺りをくらます。銃声が数発聞こえてしばらく向かうところは、いつもの少女と少年が異能を発揮する場所、四番街と呼ばれる場所だった。
まさか、このヤクザも四番街で異能を発揮するのではないか、と飯尾武は恐れているところだった。
そっと体を滑り込ませるように改札に入り、新幹線の切符を購入した。帰りの新幹線で、奴らを巻いたことを確かめると、ほっと一息ついた。とりあえず、ビールとばかりに、缶を配りに来た給仕からビールを頂く。プラスチックのカップを注ぐと、次回の出所によれば、死が待っているのかもしれない、という事実にも関わらず冷静だった。
彰子達が何とかしてくれるのかもしれない。彰子達が死狂世界に彼らを閉じ込め、さらに私が後片付けをしなくてはならないのだろう―――。
死人から頼まれる仕事というのは厄介なものだ。
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