Episode.9...She likes the cool manicure.
話は現在に戻る。
談話室のベッドでタオルケットを掛けてパペットにマニキュアを付けている。
玉城香以外は皆目を背けた。
パペットをいじくり倒して遊んでいると、パペットを見た玉城香の爪にマニキュアが付いた。
「あたしのマニキュア、イケてるでしょ?」
そして、あたしはパペットの身体をいじくり倒している。玉城香はパペットの妖術のせいで全身がこそばゆいと思いつつ、何とかパペットを奪うと、事は収まった。玉城香がマニキュアは付けておいて、と言うので、そのままパペットに付いたマニキュアを拭いて、香にマニキュアの瓶を貸した。玉城香はサンキュ、というと、爪に付けている。
「―――それで。このオジサン、子供を守るために、この世界に入ったわけ?……なんだか不運ね」彰子はお気に入りのパンプスでカーペットを踏みしめながら言った。
「ついてねえな、おっさん。でももう、武さんが楽にしてやるぜ、良いだろ、天国行きで」渉は言った。
「いいんじゃねえか、というよりも、俺は息子の恭介の元に返してやりたい。……闇は滅ぼしたんだ。渉や彰子に金は出ねえが、良いな、それで」
「いいぜ、武さん。ヤクザのおっさんぶっころしてやりてぇ、なあ彰子」
「まあ、良いわ。とんだ二次災害ね」そういって窓の外を見つめる。
黒い猫と栗色の毛並みを持った猫が曲線を描くように去って行った。
「探偵さん、今度の敵はどこにいるわけ?」彰子はストライプの入ったバッグを手にさっさと出て行った。
「四番街のシャッター付近だ。石油缶で爆破してくるつもりで待機している。気を付けろ。というのは、事前に私が調査に行って部下どもは殺せたんだが、ボスの方がしぶといもんで仕方なく帰ってきたんだ」
「だったら、私のパレットにそんな物騒な敵描けないわ。お兄ちゃん、詠唱始めて、遠隔操作であの世に送って」
「そういうと、思ってもう一人助っ人を呼んである。玉城香さんだ。香と呼んでくれ」飯尾武は言った。
「ちょ、ちょっと困ります。私結界張って防御するしか能力付いてませんがよろしくお願いします」そういうと、赤色に染まった髪の乙女が現れた。
すっくと立ち、姿勢良く上品な立ち振る舞い。この寒い日だというのにシックな白のロングスカートとセルリアンブルーのデニムジャケットに黒の上着。真珠のイヤリングがとても似合っている。渉は香を綺麗だと思ってしまった。
ただし、この四番街で能力を持ってしまった者は宿命を負っている。どんな過去を背負っているのだろうか、と物思いにふけっていると、彰子からパンプスで踏まれた。
「ついてねえな」
「ついてないのは学力なんじゃない?もうちょっとしっかりしてよね、お兄ちゃん」
彰子はぷりぷり真っ赤な顔で怒っている。何故怒っているのか、はよく分からないが、これから始まる物語に光は無いことは確かだ。
「行くか、彰子」渉は真剣な面持ちで言った。
闇を彩るのは死、だけなのかもしれない。ついてないにもほどがあるな、とぼやきそうになったのを埠頭から帰ってくる漁船の群れの騒音にかき消された。飯尾武の愛車のクーペに全員で乗り込んだ。
「ボスだけどうして地獄に送れなかったんだろうな」渉は彰子にいった。
「たまにはそんな日もあるさ」彰子は低い声を出した。魅力的だった。「探偵さんならそう言うわ、きっと」
「中々しぶといタマなんだな。参ったな。最近、こんなのばっかりで嫌になる。ねえ、香さん」渉はそう言うと、髪を揺らしながら香さんは車のドリンクサーバーにそっと、育てておいたハーブを乗せた。
「え、ええ。そうかもしれない。それよりも渉さん……私、覚えてませんか。大文字陽朗の事件を追っていたのですが」
「何、アンタ達知り合い?」飯尾武は言った。
「いや、初めてあった気がするが」渉は顔を覗き込もうとしたら、おでこを彰子から叩かれた。
「レディの顔なんてそんな間近で拝むもんじゃないわよ」彰子はコンビニで買ったばかりのカフェラテを開けようとする。
「知らないのも無理はありません。私は渉さんの死狂世界に迷いこんでしまった死の住人ですから」
「俺がそんなヘマ犯すわけねえよ。だって味方だろ、アンタ」
「飯尾武さんが知っています。だってその銃は死狂世界に再び送り返すための銃なんですから。私はその銃によって撃たれ、渉さんの創った世界に入り込んでしまったのですから」
「なんですって!?」
「私の銃は、五芒星の印を刻むことで死狂世界に送りこむ。六芒星の印を踏めば死なずに済む。正邪の判断を行うためにあるんだ。強制的に死狂世界に送り込む能力を持った渉と組んだときから、既に悪を滅ぼすために仕事をしているようなものなんだよ彰子」
「その言い草、気に入らないけど、理解できたわ。後、お兄ちゃん。香さんに近づき過ぎると、容赦しないわよ」
「なんだよ、一体?」渉が言った。
「……今日は何か、事件が起きそうだしさ、不安になっちゃうのよ。新人も迷い込んできたなんて事知ったら、あたしの平穏な世界も壊れちゃうんじゃないか、って」
「心配するな。向かった先が地獄でもオレは彰子を見捨てたりはしないんじゃないかって思うんだよ。何故か、そんな気がする」
「今もこうして地獄へ向かっている連中に聞かせたいわね、それ」彰子は言った。
「うるせえ!」渉は言った。
「向かった先が地獄でもあたし達、セットで戦うのね、ということは」
「そうでなくちゃつまんねえぜ。なあ、香さんもオレの世界に迷いこんだんだってな。俺が召喚すれば良かったんじゃねえのか?」
「私は死狂世界で彷徨っている鏡のような他人の体に憑依しています。自分で出来ることは自分でしないと。私も事件追っているし」
「何故、そこまでして追っているわけ?」
「実は……、その鏡のような他人のことなんですが、私の妹でして……大文字陽朗は妹を殺したのではないか、と疑っています」
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