Episode.14…Fake love makes a true love in the singing in the rain.
<飯尾武 side>
「何か、最近ヤクザが死狂世界に来ること多くない?……気のせいかしら?」行きかう人波を遠ざけて、私の愛車のクーペに乗り込んだ彰子。
「分からん。三番街の様子を見てみないことには始まらないさ」私は言った。
「Janne」と呼ばれる、巨大生活施設の四番街が我々の住処だった。三番街は危険なギャングが多い、不良といえば若いイメージを持つが、ここでは危険なヤバイ奴が集まる、荒んだ街だった。
拳銃や麻薬の密輸に至ってはプロの手口そのものだった。それを大学生たちに夜の街で販売する。ドラッグは大学生のお遊びの一種、気持ち良くなって帰って下さい、なんていったところで売れるはずもなく、買うのは馬鹿騒ぎがしたいだけの知識の欠片もない若造くらいだった。
それでも、若造にだって一応常識は持っている。
憎たらしい連中のために買ってきた缶コーヒーなどに混ぜて友達に飲ませてみたり、そんな悪戯を考える程度だった。
それがTwitter(あおいとり)でコメントして警察にばれて、IPアドレスと共に住所を特定され、しょっ引かれるという事件が頻繁して起こっている。
そのような、邪悪な想いが錯綜する街―――三番街に私達は、やってきた。
「この街に厄介になるだろう、とは思っていたがそれにしても酷い。生活環境こそは大学があるからまともだとしても、その裏の闇がちらほら垣間見える」
「人間って下らない奴もいれば、面白いやつもいるもんよ。―――だからこそ、好きになれるのよ」そういうのは助手席に座っている彰子。ミニスカートを履いて、学生服に身を包んでいる姿は学生そのものだが、中身は、痛々しげに見えるほど暗黒に包まれている。
混沌とした、辺り一面にスパイスの利いた穿った発言をする女子に聞いてみることにした。
「バスト何cm?」冗談だったが、聞いてみた。小さな少女のバストなんぞ興味はない。
「年々変化するから分からないわ」
「大体で」
「そんなこと答えると思ったのかしら……?」そう言って、買ってきてから少しばかり経ったお汁粉の缶をぶっかけた。
「やべっ、熱っつ。彰子、ウェットティッシュ!早く」
「面倒な男(ダサい)って言われない?探偵さん」
「うるさい……、お前のせいだからな!」
そう言うと、彰子はクスっと笑って微笑む。その仕草にどんな意味があるのだろう、と思っていると、顔に付いてる、と言ってウエットティッシュで優しく拭いてくれた。
そんな様子を心配そうに見つめる香さん。それを見てとったのか。
「いつものことよ」といって微笑んだ。今日は機嫌がいい日なのだろう、と私は思った。
三番街に辿り着くと、大きな大学が建っているのが見える。学生達がカジュアルな今時のシーンを形作っている。
その奥を横切ってしばらく信号を何度か通り過ぎると、大学病院が見えた。
清潔な白衣を着た医師が建物の中に入るのが見えた。カウンターの受付をスルーしている。
「じゃ、行くぞ」私はいつもの掛け声を言った。これを言わないと、気合が入らない、というか、なんというか。
誰かに殺されそうな気がして、仕方がないのだ……。
今日もオシャレの一環として、学生服を着ている彰子。買うのは買ったが、通っていた中学校は不登校継続中だ。今でも時々、学校側からどうしてますか?と電話が掛ってくる。彰子は電話番号を登録して出ないように言っていたが、出てみると、そんな旨の電話が掛ってきたのだ。
驚くとともに彰子のそんなあくどい手口にみんな慣れてしまった。そんなイケてる女子中学生を演じている彰子の気持ちは計り知れない。
「さあ、渉も寝ていないで行くぞ」また私は掛け声を口にしてみた―――今度は力強く。
そうして、勢いよくドアを開ける。
楸の蕾が花開くのを目にして、こんな街にも自然があることをふと美しく思えた。
水分の含んでいない乾いた風が蒼い空の中に溶けていく―――。
ふうと深呼吸をすると、白い吐息がうっすら現れては消える。キシキシと音を立てそうな体。真剣な態度で新たな街の空の下、歩く。
私達は早速、病院に向かった。
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