Episode.3...Bossとの会話.

 ある氷床が砕け、水となって流れ出す時、雫はchaosな世の中の変遷を暗示していたのではないか、と陽朗は一人考えていた。

 「陽朗君」目の前に現れたのはBoss。きっとイルミナだろう。「今日、君に預けるのは、吸血鬼に関する協和的事項だ」

 「仕事とは何でしょうね、Boss。人の生き死にまで操ったらまるで戦争だ」

 「違うんだ。秩序を整えるための仕事なんだ。秩序が乱れたらエントロピーが上がってしまう。これが起きると何が起こると思う」

 「人が死ななくなるから世界平和が起きると思う」

 「逆だ。地球を破壊して人間が地球を崩壊させようとして仕事そのものを放棄して争いごとに巻き込まれるんだ。人類の足並みを整えるために、中間項を乱して、人口を減らす。すると距離が生まれ、エネルギー使用に効率的な社会が生まれ、人類は過疎化し、争わなくなる。一時的冷戦的静かな環境の中で孤独が生まれ、社会を平等にしようとする圧力に流されエントロピーは最小となる。これが私の理想の社会なんだ」

 「吸血鬼が人を殺したら良いのではないのですか?」

 「人とは違う種との共存はしなくてはならないとする君の主張は大いに否定しかねるが、しかしエントロピーを増やさない種の存続を願うために私は種の変更を行う」Bossは言った。

 「吸血鬼は神か何かと勘違いしている―――?我々を害悪として忌み嫌っている?」

 「違う。世界の秩序を乱す可能性のある種を探り当て混沌とさせchaos化させてしまう害人だから除籍し、一時的に中間項を乱さなくてはならない」

 「なるほど、ヘーゲルの定義ですね。正と反の相補的な人類の拡張を阻止し、新たな人生を歩ませるための処罰による平和への統合という止揚なのですね」

 「そうだ。君たちにしかできない仕事だ。頼むよ―――クックック。報酬は大いに弾むからさ。期待していてくれ」

 「報酬のためにやるわけではない、勘違いしないでくれ」陽朗は言った。

 「資本主義として必要な額の金額だ。君の仕事の価値を金に換えただけの話だ。勘違いしないでくれ。大した額じゃない」

 「そうか、分かった―――」陽朗は透明なペンキを自分に向かって吐いた。

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