Episode.3...Phamtom in the rain.
あたしは、月野未子〈つきの みこ〉。ただ一匹の吸血鬼と化した。遠野茂のマンションに入ったあたしは、彼からこう言われた。
「君は私のものだ。ちょっと待っててね。今からお茶でも出すから」
「えっ……どういう意味ですか?」
「何、大した意味じゃない。何かをしようってわけじゃないし。君は私のsketch人形として、座っていればいいんだ」
そういって、サラサラと書く手に見とれたあたしは、出来上がっていく自画像を見て驚いた。
「ありがとう。もうお終いだよ。はい、お金1000円で良いかい?」
「ありがと」
そういって、立ち上がるって帰ろうと振り返った瞬間、彼が待って、といった。そのままでいいから、というと、後ろ姿もどうやら描きたいというので、あたしは立ったまま、月を見上げていた。
「……月は好きかい?」
「あまり」
「Bye bye. Ms.scarlet」彼が小声で何かを言うと、あたしの首に何か纏わりついた。あたしは慌てて離れると、彼は微笑んだ。「蚊が止まっていたからね」
「ああ、ありがと」
あたしは首を触ると、彼の唾液が付いていることに気が付いた。
「……まさか、噛んだ?」
「ばれちゃ、仕方ないね。僕は、phantomだったんだよ。まがい物の吸血鬼とでもいおうか。当然真正の人格を保っていられるときと、本来の人格になるときに分かれる。今は丁度月が出ているから、かの文豪の言葉じゃないけど、僕よりも月に見惚れてしまっている姿にちょっと僕のものにしたいという欲望が湧いてきてね―――」
「あたし、これからどうなるの?」
「僕と同じ、吸血鬼になるんだよ。月の光を浴びることだ。でないと、呼吸ができなくなる。注意した方がいい」
すると、あたしはだんだん眩暈を帯びてきた。視界はどんどん遠ざかり、薄れていく―――。
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