第2話 諸悪の根源は継母でした
あの、菊華と母親に引き合わされた日から早速。
二人は西園寺家に住むことになった。
それから俺はなるべく家にいる間、菊華と白百合の二人を注意深く見ることを心がけるようにしていた。
少しでも不穏な空気を察したら止められるように。
破滅への道を踏み出すことがないように。
そうしてある日、俺はとうとうその現場に出くわすこととなる。
俺が外出先から帰ってきて、自分の部屋に戻ろうと庭を横切った時だった。
「こえちょーだい!」
「あっ……!」
菊華が、白百合の持っていた人形を奪い取り、そのまま白百合を突き飛ばす。
まさに、ザ・『しらゆりの花嫁』と言わんばかりのこの絵面。
あああああ、やっぱりそうなりますよねえええええ!
このまま何も、何事も起こらず、姉妹二人仲良くなってくれたらいいなーと思っていたけど、そうは都合よくいかないよね!
俺は、恐れていた現実を目の当たりにしてしまった衝撃から気持ちを立て直し、急ぎその場に割って入った。
「ふたりとも、そこで何をしてるの?」
責める口調にならぬよう、ことさらに何気なさを装いながら二人の間に立ち入る。
「あっ……」
「お兄様……」
俺が現れたのを見た二人が、咄嗟に各々の反応を示す。
そして俺は、白百合から奪い取った人形をぱっと背後に隠した菊華を見て「菊華、何を隠したの?」となるべくキョトンとした感じが出るよう意識して問いただす。
「……」
「それ、白百合の人形だよね?」
俺も白百合も、菊華が答えを言い出すのをじっと待つ。
「……貸して欲しければ、白百合はお願いすればちゃんと貸してくれるよ?」
「……」
俺の言葉に、菊華がぼそぼそと小さな声で答える。
「ん?」
俺は、なるべく菊華を怖がらせないよう、膝をついて目線を菊華に合わせると「怒らないから言ってごらん?」と、にっこりと微笑みながら優しく促す。
「……おかあたまが……。おねえたまのものはいずれぜんぶきっかのものになうんだから、ぜんぶうばいといなしゃいって」
……………………はい!
なんとなくうっすら感じていなくはない事実ではあったけれど。
全ての元凶は継母だったと言うことが明らかになりましたーー!
「……それは、菊華のお母様がそう言ったの?」
「うん」
念の為、再度確認で問いかけるが、返って来る答えはやっぱり同じもので。
うわあああああ! あの継母、まっくろじゃんか!
まあでも、考えてみるとそうだよな、とは思う。
4歳の女の子の行動原理なんて、母親の影響を多分に受けてる可能性が一番高いわけで……。
とりあえず、なんとかして今後菊華と母親の距離を離す方法を考えなければと思いつつ。
現状の問題として菊華に間違いを正すということもしなければと思い、言葉を続ける。
「そっか。でも僕は、菊華にはそんな人の物を奪い取っちゃうような悪い子じゃなく、人に優しくできるいい子になってほしいな」
「……」
「ねえ、菊華。白百合にごめんなさいして、その人形で遊びたいなら、ちゃんとお人形を貸してくださいってお願いをしようね」
菊華が白百合から奪った人形は、俺たちの母が生前白百合に送った、白百合にとっては母の記憶が色濃く残るものだ。
原作のストーリーでは、菊華がその人形を奪ってズタズタに引き裂いてしまうのだが、その後それを泣きながら拾い集めた白百合が
菊華は、俺の言葉にしばし人形と俺と白百合を見比べていたが、やがてシュンとした様子で「おにんぎょ、とっちゃってごめんなしゃい……」と小さな声で謝った。
そうして俺は、白百合に人形を返した菊華に「ちゃんと謝れてえらいね、菊華はいい子だね」と頭を撫でてあげると、菊華も「……うん……」とほっとしたようにはにかんだ。
◇
はあ……。
とりあえず、全ての元凶が継母だったという目星がついたところで、まず俺がやるべきことが決まった。
一応、裏を取るために西園寺家の使用人に継母についての聞き込みをした後、行動を開始する。
夕食後、俺は父と話をするため、書斎でひとり書き物をしていた父の元を訪れた。
「お父様。相談があります」
「なんだ?」
「菊華についてなのですが。今後、菊華の教育については僕に一任していただけないでしょうか」
「ほう」
俺の言葉に、父が開いていた書物をパタリと閉じて、俺に向かって真剣に話を聞く体制を取ってくれる。
「菊華は、西園寺家に来てまだ日も浅く、この家のしきたりもよくわかっていません。義母上と過ごす時間が多いようですが、それよりも僕が直々に菊華についていろいろ教えた方が、この家の在り方を学ぶのが早いと思うのです」
そう言うと、父は「ふむ……」と言った後、少し考える様子を見せて、それから再び口を開く。
「なるほど……。しかし、菊華はまだ4歳だし、それほど急ぎ教育を施さずとも子供のうちは子供らしくさせても良いのではないかと思っていたが……」
「いえ。4歳といえど西園寺家の一員です。下の者を教え導くのは兄の務め。いずれは誰かが教えなければいけないのなら、それは俺がやるべきことだと思ったのです」
きりっ! と。
音が出ても良いくらいの力強さで父に宣言する。
本当は父に、俺が使用人から聞いた継母の実態を話してもよかった。
義母は、買い物やお稽古事に菊華を連れまわすだけで、
贅沢を好み、娘にもそれが当然のことだと公言していること。
でも、父が継母のことを愛しているかもしれない以上、そういったことを伝えることで、余計な亀裂が生じてしまうかもしれない。
それよりは、俺が自立した気持ちで妹を思っているということを熱く伝えた方が、父の気持ちも動くし、亀裂も生じないのではないかと思ったのだ。
そうしてもうひとつ。
ここでダメ押しと言わんばかりに、俺は父にある事実を口にした。
「それに――、どうやら僕は先日、異能を発現させたみたいなのです」
「なに……?」
「来い」
俺がそう言うと、突然それまで何もなかったはずの空間に、美しい白銀の毛並みを持つ大きな虎のような獣が現れる。
「なんと……!
そう、父の言う通り。
俺の呼び声に答えて現れた獣こそ。
この西園寺家の守護獣ともいえる『
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