第58話 少しの進展と

 宮姫の言うデートというものが、具体的になんなのかと尋ねたら。


「ほら私ってば、立場上おいそれとはお外にふらふら遊びに出たりすることができないわけじゃない? でも婚約者(候補)との交流を深めるためのデートだってことにすれば、許しを得られるというわけ」


 と言うことらしく。

 せっかくこの世界に来たと言うのに、ずっと皇宮内にこもりっきりで勝手に外に出ることも許されず、外に出てみたいという思いを募らせていたのだそうだ。


「しかも、この世代で最強って言われてる異能の使い手の蓮様だったら、護衛としてもぴったりじゃない」


 そう、にこにこと言ってくる宮姫に、一体、どこでそんなことを言われているのか初耳でしかなかったけれど。


「まあ……、要するに外に遊びにいくのに付き合ってほしいってことですよね」


 それならいいですよ――。と。

 俺が承諾したことで、交渉は成立し。


 じゃあ、まためぼしい進展が見つかったら連絡するわね、と言って、その日はそれで席を辞した。




 ……とりあえず、一気に解決とまでは至らなくても、大きな進展が見えたな……。

 白百合の異能がなんなのかもわかったし、なぜ母親がそれを封じたのかも明確にわかった。

 強力すぎる異能をどうするかはまだ、具体的な方法は思いつかないけれど。


 てか、原作そんなに続刊してたのか……。


 もうちょっとちゃんと読んでれば、もう少し早い段階でいろいろ手を打てたのかもと反省するが、そんなことを悔やんだとて仕方がない。

 そもそも、この世界に来ることになるなんて思ってもいなかったしね!


 わけもわからず生まれ変わらせられた割には、頑張ってる方だと思うよ俺! うん!

 世の中には、ポジティブシンキングが必要なこともあるのだと、そう自分に言い聞かせつつ。


 自宅へと帰る馬車に乗る際、見送る女官たちがなぜか必要以上ににこにこと意味深な笑みを浮かべていたのがちょっと怖かったけれど。


 とりあえず、宮姫との関係も良好に進みそうだし、白百合のことも進展を得て、帰路についたのだった。




 ◇




 さて。

 それからまた少し日々は巡り。

 やってきましたよ華桜学苑の運動会シーズンが。

 

 華桜学園では、運動会が年に2回開催される。

 初等部、中等部、高等部と、各学舎ごとに行われる春の運動会と。

 上記の全ての生徒を一堂に会して、全学年で組み分けをして勝ち負けを競う大運動会。

 

 秋の大運動会は純粋に運動能力のみで競うものになるが、春に行われる学舎別運動会は、中等部以降になると異能の優劣も含めた競技大会の様相を見せる。

 

 主な種目は、玉入れ、綱引き、障害物競走、戦国合戦、騎馬戦などなど。


 学舎全部を取っ払いみんなでわいわいできる大運動会が好きだと言う人も少なくないが、異能で競い合う姿がかっこいいと女子も男子も沸き立つ春の運動会にも根強い人気がある。


 なんなら、目当ての生徒を追いかけて、他の学舎や他校からも見学に来る人たちがいるほどだ。


 そうして、応援にくる保護者たちは、自分達の子供の婿・嫁探しや、品定めもしたりするわけで……。


 そんな、割と多くの人たちが楽しみにしているイベントの中で、まあ適当にやろうと思う俺と。

 絶対負けない……! と闘志をめらめらと燃やす蒼梧。


 蒼梧の場合は、まあお察しだろうが別に目立ちたいとか家のために負けられないとかいうわけじゃなく、単に負けず嫌いを発揮してるだけだ。


「いいか、絶対に手を抜くなよ……。お前が手を抜くとすぐにわかるんだからな……!」


 蒼梧がそう言って念を押してくるのは、去年の春の運動会の時に、俺がさっきも言ったように「まあそこそこに楽しもう」と思って気楽に取り組んでいたからで。


 『勝ち負けにこだわらずみんな楽しければいいよね』というスタンスで取り組んでいた俺に、運動会の途中、蒼梧がずかずかと俺のところにやってきて「お前……! 手を抜くなよ! 本気でやれ!」と説教をしに来たのだ。


 ええ〜〜〜?


 ………………。


 えええええええ〜〜〜〜〜〜〜…………?


 いや……、言わんとすることはわかるけどさ……!

 あの、俺が本気で異能を使って参加したら、運動会がつまらなくなっちゃうんじゃないかって、むしろそれが心配なんですけど……。


 だって、玉入れとかだって、俺が網の入り口に結界張ったらそれ破れる人いる? って話だし。


 騎馬戦だってさ、普通に異能で物飛ばしまくったら上に乗ってる騎手はすぐ落ちるよ?


 そもそも、運動会で怪我人を出すとかもってのほかだし……、とそういった旨を蒼梧に言うと。


「怪我人が出ないような措置は教師がとっているし、仮に怪我人が出ても治癒の異能を使える養護教諭が控えてる。それに、お前の本気を見せておいた方が他の生徒の示しにもなる」


 と言われたので。


 それでも怪我とかさせたくないんだけど……と思いながらも、その後しかたなく少し出力を上げて参加をしたら、周りから「え……、ちょ、蓮様強すぎじゃありません……?」とちょっと引かれた目で見られた。

 

 ほらあ! だからいったじゃんかあ!




 ……と、なったのが去年の話だ。

 そして、今年はというと。

 「手を抜くなよ」と言ってくる蒼梧に非難の目線で返す俺に、「お前とりあえず今年は、俺の出る競技にだけエントリーしとけ」と言われた。


 ……ん?

 つまり俺、今年は全競技で蒼梧の相手をするってことかな?


 え……、面倒臭い予感しかしないんだけど……。

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