第59話 異能運動会の始まり

「そんなわけで、僕の出場演目は、障害物競走と戦国合戦と騎馬戦でお願いします……」


 運動会での出場種目を決めるクラス会で、自らそう申告をした俺ですが。

 蒼梧が指定してきたのは、どれもバトルロイヤル感の強い種目でした――。


「あの、西園寺様……。どれも花形競技なのでわたくしたちとしてはありがたくはあるのですが、これらすべてに参加するのは、流石に大変ではありませんか……?」


 クラスの副委員の女生徒がそう言って俺を気遣ってくれたものの、残念ながらこれはもう決定事項なんですよ……。


 蒼梧が俺に「今年は自分と同じ種目にでろ」と言った時には、すでに蒼梧は自らのクラスで参加種目が決定していた後で。

 どの種目に参加するのかを聞いて「流石にしんどすぎるわ!」と悲鳴を上げたが、もう申し込んじゃったしどうしてもこの種目で俺と対戦がしたいんだと駄々をこねられ、「なんなら一生の頼みをここで使ってもいい」とまで言って粘り出したので。


 一生の頼みをこんなところで使うなよ! とツッコミを返しながらも、結局蒼梧のわがままを聞き入れた俺なのだった。

 来年は、申し込む前にちゃんと参加種目はすり合わせさせるよう念を押しておいた。




 ◇




 さて、そんなこんなで運動会当日である――。


「お兄様、頑張ってください!」

「観客席からお父様と応援していますね」


 こんな日に限って、父が姉妹を連れて応援しにきた。

 え――、今までこんなの見にきたことなかったじゃん、なんで――?


 いや、妹たちがお付きに連れられて見にきてくれたことはある。

 でも、お父様? どういう気の迷いですか?


 しかもなんだ……?

 「じゃあ蓮、また昼食時にな」と言って妹ふたりを両サイドに手を繋いで応援席の方へと歩いていってるんですけど、なにか開眼でもしましたか――?


 確かに、妹たちとコミュニケーション取れっつったのは俺だけど……。

 ……今日、この後雨降らないよね?


 と、心配するまでもなく澄み渡る青空を見ながら、思わずそう思ったのだった。




 そうして、運動会は滞りなく開会式を終え。

 全員で準備体操を行った後、徒競走から種目が行われた。


 障害物競走は徒競走の次なので、選手の集合場所に遅れないようにと早々に足を向けた。


「西園寺様、頑張ってください!」

「お、応援してます……!」


 周りの女生徒が声をかけてくるのににこやかに手を振り返しながら集合場所へと向かうと、ちょうど同じくして蒼梧も集合場所へとやってきた。


「――まあ、わかっちゃいたけどおんなじ出走組だよな」


 こっちは容赦しないからな、約束忘れるなよ、となぜかドヤ顔しながら釘を刺してくる蒼梧に「しつこい」と言って返す。


 こういう時の蒼梧はちょっとめんどくさい。

 せめて、運動会の時だけ同じ組だったらもうちょっと楽だったんだけどな……、とこっそりため息をつく。


 そんなことを言い合っているうちに、どんどんと出番が近づいてきた。


 華桜学苑の障害物走は――、なぜか無駄に金と力がかかっている。


 もちろん、某テレビでやっていたSから始まるフィールドアスレチックほどじゃないが、明らかにこのために日曜大工か何かわからないけどわざわざ建造されたであろうどでかい障害がどどんと置かれていたりする。


 俺らの身長の2倍はあろうかと思われる馬鹿でかい壁。

 その壁に点々と突起物が打ち付けてあり、ボルダリングのようによじ登れるようになっているもの。


 その次がやたらと高い平均台で、スプーンにピンポン玉をのせて歩き切らなければならない。


 それが終わると巨大雲梯うんてい、最後は網くぐりといった流れになっている。


 平均台と雲梯うんていは落ちるとやり直し。

 異能を使ってOK、相手への妨害もOKという、流石になんでもありにしすぎじゃない? と思わざるを得ないルールだ。



「はあ……」

「位置について!」


 ため息と共にスタンディングスタートの姿勢を取ると、ほぼ同時に教師がスタート合図の声を上げる。


「用意!」


 パァン!


 空砲が、フィールド中に乾いた音を立てて鳴り響く。

 そうしてその合図をきっかけに、一直線に並んでいた俺と蒼梧、他4人が一斉に走り出す。


 ――単純な足の速さでいうと、蒼梧の方が早い。


 身長差もあるけど、単純な身体能力においては蒼梧の方が高いのだ。

 ――が。


「よっ……」


 そう言って軽く気合を入れた俺は、自分の履いている靴に念力で負荷をかけて、本来ボルダリングの要領で乗り越えなければならないはずの障害物に、ひとっ飛びで飛び乗った。


「な――」


 そうして、一息で飛び乗った障害物をまた一息で飛び降りようとする俺と、ちょうど頂点に差し掛かろうとする蒼梧の目線が、一瞬チラリと絡み合う。


 そのまま、すたっと地面に降り立つと、後ろを振り向かずに次の平均台に向かって一目散に走り出す。


 ――本気を出せって言ったのはそっちだからな。それに、異能で稼いだ分急いで走らないと、また蒼梧に足で距離を詰められるし――。


 そう、思った時だった。


 ぼうっ! と、凄まじい勢いで、俺の目の前を小さな火球が横切っていったのは。


 ――はっ!?


「ちょっ、おい蒼梧!? 殺す気かよ!?」

「殺さないようコントロールはできてる!」


 はあっ!?!?

 意味のわかんないこと言うんじゃないよバカ!!

 

 と思い、走りながらちらりと背後を振り向くと、●リオカートに出てくるアイテムのように、自らの周りで火の玉をぐるぐるさせながら走る蒼梧が猛然とこちらに向かってきているのだった――。

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